228 ぬぁぜだ!?
魔王視点
むう。
することがない。
どうしよう?
魔王城について、魔王として活動し始めたはずなのに、移動してた時の方がよっぽど動いてたってどういうことだろう?
謎だ。
私の魔王城での一日といえば、朝起きて朝ご飯食べて、ウロウロして、昼ご飯食べて、グデグデして、夜ご飯食べて、ダラダラして、寝る。
あれ?
これ、どこのニート?
おかしい。
私魔王なのに。
やってることはニートと変わらないぞ?
まあ、それも半分は仕方ない。
先代の魔王が雲隠れしてからずっと魔族を取りまとめてきたバルトがいるんだもん。
今更私が横からしゃしゃり出てきて、こうしろあれしろと指示を出す必要はない。
というか、それをすると混乱して逆に足を引っ張ることになる。
だから、私は大まかな方針だけを伝えればいい。
今はひたすら軍拡をしてもらってる。
最古の神獣とか言われてる私だけど、政治に関してできることは少ない。
なんせ、政治になんて関わらない期間が長すぎた。
知識としては知ってるけど、実際にできるかと言われるとムリなんじゃないかと思う。
やるにしても数年単位で下積みを経てからじゃないと、現場を引っ掻き回すだけの役立たずに終わる。
だから、今現在私に出来ることはなかった。
君臨すれども統治せず。
うん、私はそれを体現しているんだ。
周りの私を見る目が日に日に冷たくなってる気がするけど、きっと気のせい。
うーん。
けど、暇。
こんな暇になるんだったら白ちゃんも連れてくればよかったかなー?
どうせあの子も屋敷でなんもせずにゴロゴロしてるだけだろうし。
あ、ダメだ。
ニートが増えるだけだこれ。
あかん。
周囲の目がブリザードになってしまう。
実際、バルトの弟くんのブロウの視線がやばいくらい険しくなってきてるし。
ブロウは第四軍の副軍団長をしてる。
バルトが政治にかかりっきりになってるから、実質第四軍を動かしてるのはブロウってことになる。
見た目はバルトをチンピラ風味にした感じ。
けど、その見た目とは裏腹に、事務仕事なんかも的確にこなせるだけの能力がある。
魔族を取りまとめ続けている兄の背中を見てきたおかげか、兄に優らずとも劣らない優秀さを見せている。
若干兄を尊敬しすぎているきらいがあるけど、それはそれで、ありなんじゃないかな!
兄と弟の禁断の……。
で、そのブロウは、尊敬する兄が得体の知れないニートに頭を下げている今の状況が気に食わないようで。
得体の知れないニート、私だ。
そんな私が尊敬する兄を差し置いて魔王だという。
ブロウからすると兄から不当に魔王の座を奪ったように見えるようだ。
むむむ。
これは早急に私の偉大さを思い知らさねばならない。
けど、どうやって?
仕事をする。
却下。
メンド、ゲフンッ、さっきも言ったように私が下手に政治に介入すると逆効果にしかならない。
バルトは今まで魔族をつつがなくまとめてきた実績があるし、丸投げしちゃったほうが効率がいい。
ちょっと痛めつける。
却下。
下手すると今よりも心象悪くなるかもしれないし。
私の強さを認識させるって意味では一番手っ取り早いし確実だけど。
逆に薬が強すぎて塞ぎ込まれたりしたら目も当てられない。
見るからにプライド高そうだし、ポッキリ折れたら再起するまで時間がかかるかも。
長期的に見ればそのほうが本人の成長にもなりそうだけど、そうなると、再起できるかは半々くらいだし。
何より、この大事な時期に優秀な手駒を行動不能にさせるのはよろしくない。
あとは、なにがある?
なんもない?
そ、そんなはずはない。
きっと誰もが私の偉大さを認識するような画期的な方法があるはず!
なにか、なにかないか?
真剣に悩んでいると、扉をノックする音。
入室を許可すると、入ってきたのはバルトとブロウの兄弟。
「失礼します」
礼儀正しく頭を下げて入室するバルトと、無言でズカズカと入ってくるブロウ。
バルトが視線で咎めるも、ブロウはそれを無視。
尊敬する兄の指示を無視するほど、私のことが気に食わないっぽい。
「魔王様、ご相談がございます」
「なに?」
「またまた。魔王様ならば内容はおわかりでしょう?」
苦笑交じりにそう言ってくるバルト。
んん?
話が見えてこない。
バルトの中ではその相談の内容を私が把握してることになってるっぽいけど、本気で見当がつかない。
「ごめん。真面目にわかんないんだけど、なに?」
正直にそう言うと、バルトはブロウと顔を見合わせた。
ブロウが若干勝ち誇ったような顔をしてるのが気になる。
「兄貴、だから言っただろう? こいつは自分の部下が何してるのかも把握してない無能だってな」
「ブロウ、御前だ」
「いーや。この際言っておく。あんた、魔王の器じゃねーよ」
「ブロウ!」
いきなりディスられ始める私。
なに?
どういう状況なのこれ?
怒りよりも戸惑いのほうが先に来てわけがわからん。
「あー、とりあえずその相談の内容聞かせてくれる?」
「はい」
バルトが冷や汗を流しながら、書類を手渡してくる。
「白殿が収集した情報により、現第七軍団長ワーキスの不正が明らかとなりました。さらには秘密裏にクーデターの準備も進められており、近いうちに反旗を翻すことは確定となりました。その証拠が上がっております」
手元の資料を見る。
そこには、不正の証拠となる数々の情報が載っていた。
え、なにしてんの、白ちゃん?
「早期にこの動きを察知することに成功したので、逆にこちらから攻め込み、クーデターを起こす前に鎮圧を敢行したいと思います。そのため、第四軍をブロウ指揮の下動かす許可を頂きたいのです」
お、おう。
えーと。
えー?
とりあえず、あれだ、うん。
「まかせる」
それしか言えないわ。
というか、白ちゃんマジでなにしてんの?
これ、どう見ても部外秘の極秘情報なんだけど。
どうやって手に入れたのさ?
気のない私の返事に、バルトは表情を動かさずに頷く。
ブロウはこめかみに青筋を浮かべたけど、なにかを言う前にバルトに頭を押さえつけられた。
「では、そのように進めさせていただきます」
バルトが頭を下げ、ついでに押さえつけた手に力を込めてブロウの頭も下げさせる。
ブロウはその手を払いのけようとして、すんでのところで我慢したっぽい。
頭を無理矢理上げて、ズンズンと荒々しく部屋を出ていった。
バルトがもう一度頭を下げて、そのあとを追う。
あー、これ、私自分の部下の行動も把握してない無能って思われたんだよね?
しかも、白ちゃんが掴んだのは特大の情報。
無能な上司と、有能な部下。
そう思われたってことだよね?
あの白ちゃんが。
ぬぁぜだ!?
どうしてこうなった!?