表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
356/600

227 働かざる者食うべからず

 屋敷に帰ってきた私を待っていたのは、衝撃の言葉だった。


「ブロウ様のご指示により、あなた様への食事の量が制限されました。これまでのように、求める分だけお出しすることは叶わなくなりました。お許しください。しかし、ご安心ください。当館にお住まいの限り、朝昼夕の食事の提供はさせていただきます。料理人が腕をかけて提供させていただきますので、お客様もきっと満足していただけるかと」


 意訳、食事減らすからな、OK?

 OKじゃねえ!

 確かに、ここの食事は美味しいよ。

 けど、私には量が必要なんだよ!

 食事減らされたらどうやって分体の維持するんねん!


 く、なんてこった。

 このままじゃ、(分体が)餓死してしまう。

 分体自身に適当な魔物を仕留めさせて食べさせるか?

 イヤ、隠密潜伏中のやつにはそんなことさせられない。

 それに、私が本格的に魔物狩りを始めちゃうと、生態系が狂う。

 現に私のせいでエルロー大迷宮の生態系はかなり変わっちゃったし。

 魔物が人を襲うっていうシステムの作りを、壊しかねない。


 となると、最低限虫とか小動物を狩ることで分体を維持させるか。

 それもあんまやりたくはないけど、背に腹は代えられない。


 あとは、ブロウなるやつにその指示を撤回させて、元の食事量に戻してもらうか。

 ブロウって、さっきのチンピラのことだよね?

 指示を出せるってことは、この屋敷の主に縁が有るってこと。

 やっぱり予想通りバルトの兄弟かなにかだったのかな?

 魔族は見た目と年齢が一致してないことがあるし、もしかしたら息子って線もなくはない。


 まあ、ブロウ某の正体なんてどうでもいい。

 やつはしてはならないことをした。

 私から、ご飯を取り上げるなんて、神をも恐れないとはよく言ったもんだ。

 食べ物の恨みは恐ろしいということを教えてやらねばなるまい。


 とはいえ、あいつの言い分も間違ってはいないんだよねー。

 あいつから見ると私ってタダ飯食らいなのには変わらないし。

 我ながら食い過ぎだって自覚はあるし。

 仕方ないねん。

 増えすぎた我が子を養うためにはいっぱい食べなあかんねん。


 私が客人だからか、量は減らされても、屋敷から追い出されるとか、食事を出されなくなるってことはなさそう。

 チンピラは私が魔王の関係者だって知ってるのかな?

 知ってたらこんなことしなさそうだけど、どうなんだか。

 少なくとも今回の件はチンピラの独断で、バルトには話通ってないでしょうね。

 バルト、私にも魔王にも心底ビビってたし。

 あれにこんな小さなことで私に逆らう度胸はないでしょ。


 となると、一番手っ取り早い解決方法は、バルトに直訴すること。

 そうすれば元の食事量に戻してもらえると思う。

 けど、それをやるとチンピラの見る目が厳しくなりそう。

 なんとなくだけど、ああいうタイプは権力者に対する反骨精神とか強そう。

 偏見かもだけど。

 私がバルトに頼ると、権力者に媚びへつらう寄生虫みたいな感じで見られるかも。

 それは、癪に障るなあ。


 こう、あのチンピラにギャフンと言わせた上で、堂々と食事の要求をしてやりたい。

 それならば仕方ない。

 あいつの要求通り、働いてやろうじゃないか。

 私は屋敷の自室にこもった。


 次の日、私は城に来ていた。

 屋敷の執事さんにチンピラの居場所を聞いたら、普段は城にいるとのことだったので。

 

 前にバルトに作ってもらった通行証のおかげで、城の中にはあっさり入ることができた。

 けど、そのあとが大変だった。

 チンピラへの面会を申し込むのに時間がかかり、実際に面会ができるまでの時間がさらにかかった。

 朝に城を訪れたのに、チンピラと面会ができたのは日が沈んでからだった。

 これだからお役所仕事は。


「何の用だ?」


 その声には隠しきれない苛立ちと疲れがある。

 こ、こいつ、仕事してやがる!?

 私がチンピラの執務室に通された時、やつは見た目に全く似合わない、書類仕事の真っ最中だった。

 チンピラのくせに、机にかじりついて仕事してるだと!?

 チンピラの法則が乱れる!


「おい、こっちは忙しいんだ。黙ってないでさっさと要件を言え」


 おっと。

 衝撃の光景にちょっとばかし動揺しちまったぜ。

 私は書類に埋もれているチンピラに、さらに大量の書類を追加してやる。

 異空間から取り出した山のような書類を、ドカッと積み上げる。


「仕事した。ご飯ちょうだい」


 端的に私の目的を話す。


「はあ?」


 チンピラは眉根を寄せて唖然とした声を出す。

 私と積み上がった書類を交互に見て、渋々といった感じで書類に手を伸ばす。

 そして、そこに書かれた内容に目を通す。

 そのうさんくさそうにしていた目が、徐々に見開かれる。


 チンピラは寄りかかっていた椅子の背もたれから身を乗り出し、書類を食い入るように見つめる。

 最初の一枚を見終わると、慌ただしく次の書類に目を通す。

 驚くべきスピードですべての書類に目を通した。


「お前、これ、どうやって?」


 書類を見終わり、少し放心したような声でチンピラが問いかけてくる。

 それに素直に答える私じゃない。

 自らの手の内を明かすわけないじゃん。


「秘密」


 チンピラは私の返答に、軽く睨みつけ、けど直ぐにその視線を逸らした。

 そして、頭痛をこらえるかのように頭を抑える。


「わかった。屋敷では好きにしろ」


 チンピラは諦めたかのようにそう言った。

 ふ、勝った。


「もういいか? お前のせいで余計な仕事が増えた」


 いいですとも。

 私としてもチンピラの相手なんかしてられないし。

 さっさと退散する。


 私が渡したのは、分体に探らせていた魔族領の情報の中で、使えそうなものをまとめたもの。

 私ってばちゃんと仕事してるんだよー、アピールはこれで成功した。

 これでチンピラも私のことをタダ飯食らい呼ばわりできまい。

 悠々自適の生活を維持するためならば、私はなんでもしてやるわ。

前話のクイーンの話を微修正しました

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] これ実際の強さを知らなければ、大食いの萌えキャラとして認識される?いけるか?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ