鬼VS鬼④
ちょっと、冗談じゃないわよ!?
朱海をまともに頭からかぶって、あれだけしかダメージがないなんて!
しかも、ポチタイプの噛み付きもそこまで効いてない。
影魔、ポチタイプは私の召喚できる影魔の中で、最高の攻撃力を誇っている。
他にも索敵向きのピヨタイプとか暗殺向きのチュータイプとかあるけれど、攻撃力で言えばポチタイプには及ばない。
影魔は私自身と同じスキルをいくつか持った状態で召喚され、ポチタイプは物理攻撃力に特化したスキル構成をしている。
そのポチタイプの攻撃を受けても、鬼人には少ししかダメージを与えられていない。
ちょっと、ステータスの差を舐めすぎていたかしら?
今のところ優勢に進められている気がするけれど、接近されたらまずいかも。
静止の魔眼が効いてくれればいいんだけど、それまで私が鬼人を近づけずに牽制し続けられるかどうか。
ちょっと厳しいかも。
ご主人様の邪眼なら通ったかもしれないけれど。
魔眼は特定の種族か、特殊な才能がないと取得できないスキルで、私の場合種族が吸血鬼だったおかげで取得することができた。
ご主人様の邪眼はその威力が上がったバージョンで、私の魔眼はいわゆる劣化版。
それでも、取得自体が困難なスキルだけあって、その効果は我ながらえげつないと思えるもの。
その魔眼すら、鬼人には通じていない。
現状、私が鬼人を倒せる手段は、静止の魔眼で相手の動きを封じるか、このままチマチマダメージを与えていって削りきるか。
どっちにしろ長期戦を覚悟しなきゃならないわ。
案の定、鬼人はダメージを覚悟で突っ込んできた。
そうよね。
朱海もポチタイプも致命傷にならないのなら、このまま回避を優先するより、ダメージを受けてでも接近戦にもつれ込ませたほうがいいものね。
長期戦がむこうにとって不利なことはわかっていると思うし、逆に短期決戦なら私のほうが不利だってことも。
けど、私がそれを素直にさせると思う?
温存していた魔力を開放。
並列意思を起動。
朱海に追加して、氷と闇の魔法が鬼人に襲いかかる。
氷と闇の槍が飛翔し、鬼人の体に突き刺さる。
あ、刺さってないわ。
血が出ているから少しはダメージを与えられたようだけど、その身を貫通するまでには至っていないわね。
やっぱり、ステータスの高さと耐性スキル、それに何より龍力の魔法阻害効果が厄介ね。
使ったコストに対して、与えられるダメージは微々たるもの。
けど、0じゃない。
絶え間ない攻撃は確実に鬼人のHPを削っている。
自動回復があっても私が与えるダメージの方がわずかに多い。
それに、多重の攻撃による足止めも成功していますし。
このままいけば私の勝ち。
そう簡単にいくとも思えませんけど。
ほら、空間から剣が出てきましたよ。
って、多いですわ!
ちょちょちょ、ちょっと!
何百本ありますの!?
あれ、全部爆発する剣なの?
そんな数の剣が爆発したら、ここいら一帯消し飛ぶんじゃありません!?
それはまずいわ。
離れているとはいえ、まだ付近には同じ学園に通う生徒がいますし。
仕方ありませんね。
本当なら止めように温存していた切り札、ここで切るしかないわ。
剣が飛ぶ。
それは、まるで刃の壁。
相手の体を切り裂き、貫き、さらに爆発するという凶器。
私はその刃の群れに向かって、魔法を発動させます。
氷獄魔法「輝霧」。
白く輝く美しい霧。
その実態は触れるもの全てを凍らせ、粉々に砕く死の霧。
それが、私の血霧と混ざり合い、朱に輝く霧となる。
ご主人様にも見せたことのない、私の最大の攻撃。
名前をつけるとしたら、輝血霧とかかしら?
剣の群れと輝血霧がぶつかる。
剣が爆発し、衝撃が輝血霧に襲いかかる。
けど、その衝撃も、すべてを凍てつかせ、溶かし尽くし、塵へと返す輝血霧を全て吹き飛ばすことなんて出来ません。
爆風すら凍てつかせる輝きの前には、全ては無力。
流石というべきか、輝血霧も半分以上が削られてしまったけれど、残り3割程度残っています。
ご自慢の剣飛ばしを防がれて、呆然としている鬼人に向けて、残った輝血霧をけしかける。
我に返った鬼人が、空間から新たな剣を引き抜き、振るう。
同時に地が盛り上がり、巨大な壁となって輝血霧の行く手を遮る。
けど、そんな壁で私の奥義を防ごうだなんて、ちょっと見くびられてません?
輝血霧は、酸で物質を分解し、急速に冷凍し、砕く。
ただの土など、盾にもなりません。
土の壁をなんの抵抗もなく崩壊させ、輝血霧が鬼人に迫る。
鬼人はそれを、炎をぶつけて相殺しようとしました。
結果、炎が押し負け、鬼人の右腕を奪います。
最後の最後で炎でだいぶ威力を減らされてしまい、片腕だけしか持っていかれませんでしたか。
あわよくばこれで決着、なんて考えていましたけど、そう甘くはないようですね。
尤も、片腕を失った状態で、さらなる私の追撃に耐えられるでしょうかね?
輝血霧のあとを追うように、朱海とポチタイプが鬼人に襲い掛かります。
さらにさらに、私自身も新たな魔法を構築し、追い打ちをかけます。
さらにさらにさらに、並列意思の1つがもう1度、輝霧の発動準備に取り掛かります。
朱海に溺れるか、ポチに噛み砕かれるか、魔法に貫かれるか。
それを凌ぎ切った先に、もう1度輝血霧が迫ったら、耐えられるかしら?
半ば勝ちを確信した瞬間、朱海が爆散し、ポチが切り裂かれ、魔法が砕け散り、私の体に刃が押し込まれた。
何が、起きたの?
ダメージ、私がダメージを受けた?
天鱗に守られた私が?
吹き飛ばされ、地面を転がり、起き上がって自分の体を確認してみれば、右腕が半ばまで切り裂かれていました。
このくらいならすぐに再生しますが、問題なのは私の体にダメージを入れられたということと、鬼人が何をしたのか私には全く理解できなかったということ。
けど、顔を上げて鬼人を見れば、その答えがわかりました。
全ステータス、99999。
ありえないわ。
ちょっと頭おかしいんじゃないかしら?
そんな冗談が思い浮かんだけれど、あながち外れてもいなさそう。
「ガアアァァァァ!」
鬼人が吠える。
その吠え声には理性の欠片もなく、ただただ狂ったような破壊の意思だけがありました。
思い当たるのは1つ。
憤怒。
私が警戒していたスキル。
それが、発動されたということでしょう。
誤算なのは、ステータスの上がり方が私の想定をはるかに上回っていたこと。
倍くらいなら許容範囲だと思っていたけど、これはどうしようもないわ。
ちょっと、まずいかも。




