鬼VS鬼③
これ酷くない?
反則だよね?
僕に向かって赤い液体が迫って来る。
周りの木を溶かしながら。
たぶん強酸攻撃による効果だと思うけど、木が溶けるスピードが尋常じゃない。
触れた先から形を崩して、赤い液体が通り過ぎる頃には完全に溶けきっている。
あんなものにまともに触れたら、僕の防御力でも危険だ。
それが四方八方から縦横無尽に襲いかかってくる。
液体だからその動きは自由自在。
しかも、動きが意外と速い。
僕は赤い津波から逃げつつ、爆裂剣を射出する。
5本まとめて撃ちだした爆裂剣は、少女に迫り、その手前で赤い液体の分厚い壁に阻まれた。
これだ。
攻撃だけでも厄介なのに、防御にも使えるなんて。
爆裂剣の爆発で、いくらかは四散させることができるけど、それもすぐに補充されてしまう。
こっちの爆裂剣には限りがあるし、あまり無駄撃ちはできない。
対してむこうはMPが続く限りいつまででも戦い続けることができる。
そのMPにしても、底が見えてこない。
使った端から急速に回復していく。
もしMPの枯渇を狙うなら、かなりの長期戦を想定しなきゃならない。
僕も、ストックしてある魔剣だけじゃなく、この戦いの最中に急造で魔剣を錬成する必要がありそうだ。
そんな風に思っていたけど、相手は長期戦をする気なんてサラサラないようだ。
少女の影が大きく膨れ上がり、その中から赤黒い姿の狼のようなものが這い出してくる。
吸血鬼の能力の1つの、影魔か。
『影魔 LV―
ステータス
HP:3000/3000(緑)
MP:1/1(青)
SP:2500/2500(黄)
:2500/2500(赤)
平均攻撃能力:3000
平均防御能力:2500
平均魔法能力:1
平均抵抗能力:1500
平均速度能力:3000
スキル
「破壊大強化LV2」「打撃大強化LV1」「斬撃大強化LV3」「貫通大強化LV1」「衝撃大強化LV1」「強酸攻撃LV8」』
ちょっと待て。
強すぎないか?
これ、僕がそこらで見る魔物なんかよりよっぽど強いんだけど……。
スキルを少しだけでも持ってるっていうのが驚きだ。
しかも、1匹だけかと思ったら影の中から次々に出てくる。
合計8体の影魔が少女の前に並ぶ。
そして、少女が手を掲げた瞬間、弾かれたように飛び出す。
赤い津波と、赤黒い影魔が同時に襲いかかる。
いや、これ避けるなんて無理でしょう。
赤い津波をどうにか避けた先に、影魔が飛び込んでくる。
対応しきれずに、影魔の牙に噛み付かれる。
噛み付いてきた影魔を切り伏せ、残りの飛びかかってくる影魔に雷撃をお見舞いする。
その次の瞬間、頭上から水が降ってくる。
同時に感じる肌を溶かす痛み。
久々にダメージをくらった。
けど、耐えられないほどじゃない。
酸の耐性は持っていないけど、自前の防御力だけでかなりダメージを軽減できている。
雷と炎の力を解放し、体にまとわりついた赤い水を弾き飛ばす。
これなら、浴び続けるでもしなければ、致命傷にはならない。
少女もそれを理解している。
だからこそ、その目を僕に向け続けている。
魔眼の力が宿った目を。
呪怨と静止の魔眼。
効果はそれぞれ呪怨の魔眼が僕のHPMPSPを吸収するというもの。
僕も呪怨というスキルを持っていて、効果も似たようなものだけれど、見ただけで相手の力を吸収できる魔眼に対して、僕のスキルは直接相手に触れないと発動できない。
見ただけでいいなんて、ちょっと高性能すぎると思う。
その分吸える量は少ないみたいで、僕のHPとかはあんまり変化していない。
静止が麻痺という状態異常を引き起こす魔眼。
どっちも厄介だけど、特にまずいのが静止の魔眼。
麻痺状態になったら、何もできなくなる。
今は抵抗に成功しているけど、時間が経てば効果が蓄積して麻痺してしまうかもしれない。
最悪さっき言ったように、あの赤い津波を延々くらわされるなんてことになりかねない。
そうしたら、いくら僕でもいつかは死ぬ。
死ぬ。
あれ?
僕は死にたいはずだ。
なのに、勝つことを考えている。
どうして?
僕の内心の戸惑いを無視するかのように、体は勝手に動く。
ダメージを受けることを覚悟で、影魔に突っ込み、切り伏せていく。
もちろん影魔にかかりっきりになった隙を突いて、赤い津波が僕に襲いかかる。
体が飲み込まれ、溶かされていく。
それを雷と炎で吹き飛ばす。
ん?
出力が、弱い?
ハッとして雷刀と炎刀を見る。
雷刀と炎刀は、刀身が半分溶け、耐久値を大きく減らしていた。
やられた。
僕の体は耐えられても、僕の持つ武器までは耐えられなかった。
狙っていたのかどうかはわからないけど、武器破壊は僕にとって相性が悪い。
悪いけど、最悪ではない。
雷刀と炎刀にMPを注ぎ込む。
修復。
幻想武器錬成のスキルレベルが上がり、僕は魔剣の修理ができるようになっていた。
これで、雷刀と炎刀もまだいける。
けど、失ったMPは馬鹿にできない。
幻想武器錬成は便利な反面、MPの消費が激しい。
そう何度も何度も修復はできない。
こうなると、長期戦は逆に僕のほうが不利。
僕が憤怒を発動させずに勝つには、MPが切れる前に接近戦を挑むしかない。
異次元に保管してある他の魔剣も惜しげもなく使うしかない。
それだけこの少女は強い。
出し惜しみしていたら勝てない。
少女が再び影魔を召喚する。
徹底的に遠距離戦に徹する構えだ。
それなら僕は、如何にして接近するかが肝になる。
まただ。
また僕は勝つことを考えている。
少女が強ければ僕を殺してくれる。
それでいいじゃないか。
それで、よかったはずだろ?
なんで僕は勝つことを考えている?
葛藤を抱えながら、僕は少女に向かって突っ込んだ。