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剣王と魔法使い

「それで、そのオーガを取り逃がしたと?」

「そうじゃな。あの逃走の時のスピードを考えるに、あのまま戦い続ければこちらのほうがやられていたやもしれんの」


 実際ただでさえニョドズと互角だったしの。

 儂の援護がなければニョドズも危うかったやもしれん。

 無駄に剣聖とまで呼ばれたニョドズですらそうなのじゃから、そこいらの冒険者や一般兵でどうにかなるとは思えん。


 儂はそれを目の前の男に報告した。

 レングザンド帝国の頂点に立つ、剣帝その人に。


「そうか。正面から倒そうとすればいたずらに被害を広げるだけか」

「そうじゃの。帝国の精鋭をかき集めればなんとかなるやもしれんが、儂とニョドズくらいしか動かせぬであろう?」

「その通りだ」


 剣帝は深々と溜息を吐く。

 普段であれば誰かしらが注意でもしたかもしれんが、この場には儂と剣帝しかおらん。

 溜息くらいは吐かせてやろう。

 こやつもいろいろと溜め込んでいるはずだしの。


「苦労しておるようじゃの」

「内にも外にも信用できる人間が少ないのでな」

「ほう。そういうことは儂は信用しておると?」

「ある意味では信用しているとも。そなたが興味があるのは魔道に関することのみで、権力など眼中になかろう?魔道に関する知的好奇心という餌さえ用意しておれば、素直に働いてくれる」

「かっかっか!言いおる!」


 間違ってはおらんがな。


「儂を左遷させたのもなにか思惑があってのことかの?」

「1つは神言教の圧力。2つは自由に動かせる戦力として、3つは余計なゴタゴタに巻き込ませないように。そんなところか」

「やはり儂をどうこうしようという動きがあるということか?」


 予想はしておったのだが、それ以上に儂って切羽詰っておったのかのう?


「神言教はそなたの事を疑っておる。勇者の救出劇は出来過ぎであるとな。実際のところ、どうなのだ?」

「さての。儂も勇者を救うという役目を与えられたに過ぎん。本来ならその後勇者を儂の手で育て上げるつもりだったのじゃがな」


 ユリウスは少ない間じゃったが、儂の教えをよく吸収しておった。

 素直な性格故か飲み込みが早かった。

 それだけに、もっとちゃんと教える期間があれば、いずれは儂を超えて魔道の真髄に到達できたかもしれんというのに。

 惜しいことじゃ。


「勇者はアナレイト王国の王子で神言教も加担している。我が国が長期間預かる事などできぬ」

「わかっておるわい。じゃから、儂の方から出向いて教えても良いというたのに、神言教の脳足りんどもが拒否しおったんじゃろうが」

「向こうにしてみれば、真実を隠すような輩は信用できんということだ」


 なんじゃい、お主まで。

 儂はやましいことはしておらんぞ。

 ただ、あのお方のご指示に従ったまで。


「余にも真実を話す気はないのであろう?」

「話したところでどうにもならんわ。安心せい。帝国の仇になるようなことはせぬよ」

「だといいのだがな」

「あんまりくだらんことばかりしておると、儂の方から愛想を尽かすやもなぁ」

「それは困るな」


 割と冗談ではないのだがのう。

 これ以上肩身の狭い思いをするくらいであれば、爵位と遺産をすべて帝国に返納して野に下るのも面白そうじゃ。


「今そなたに見限られたならば、帝国の未来は暗いであろうな」

「大げさじゃな。儂1人の力などたかがしれておるわい」

「そなたはもう少し自分の価値というものを見直すべきだな」

「見直したからこその判断じゃよ。今までの儂は思い上がりも甚だしかったと理解したまでのことよ」


 あの方に出会ったからこそ、己の未熟さを自覚することができた。

 そして、まだまだ高みがあることを。


「余から見れば、そなたは十分思い上がるに足る実力を持っておると思うがな」


 剣帝が大げさなくらいの溜息を吐く。

 まあ、こやつも実力のなさで苦労しておる口じゃからのう。

 当代剣帝は親の七光り。

 そう言われておるのも事実。

 剣帝を名乗りながらも、実力ではニュドズに劣り、かと言って政治能力が突出しておるわけでもなく。

 要は凡人なのだ。


 隠居した先代剣帝が偉大だったというのもあるがの。

 なんせ先代勇者の剣の師匠じゃし。

 隠居してなお、ニュドズを圧倒するような剣士じゃからのう。


 その偉大な父親の背中を見せられて育ったこやつは、儂の目から見るとよく頑張っておる。

 頑張ってはおるのだが、いかんせんやはり上に立つ器量ではないわな。

 魔族が大人しくしておったせいで、戦争らしい戦争もなかった昨今、貴族が内からはばをきかせるようになり、それを押さえ込んで帝国が空中分解するのを防いでおるだけでもよくやっておるわい。

 それも、貴族連中がこやつの後ろに先代の姿を見て、下手な行動に出ておらんから保たれておるものじゃがの。


 親が優れておると子は大変じゃのう。

 そういえば、こやつの息子も優れているということらしいが、大丈夫かのう?


「時に、息子はどうなのじゃ?」

「ユーゴーか?あれは、良くないかもしれんな」

「む?噂では大層な化物じゃと聞いておったのじゃがな」

「人の息子を化物呼ばわりしないで貰いたいものだ。が、許そう。余から見てもあれは化物だ。体も、心もな」


 何やら深刻そうじゃの。


「あれは生まれながらにして神に愛されている。だが、それに慢心している。そしてその慢心を正せるだけの力の持ち主がおらん。こんな時父上がいればいいのだが、あの方はどこにいるのかもわからぬ」

「儂が根性叩き直してやろうか?」

「できぬだろうな。余に見切りをつけた貴族があれを囲っている。あれは才能に溢れているが、精神は未熟そのもの。貴族に煽てられてどこまでも付け上がっておる。情けないことに余ではあれを抑えることも、貴族から引き離すこともできぬ。そなたが接触しようとしても、邪魔が入るだけであろうよ」

「メンドイのう。それなら儂はパスじゃな」

「そうした方がそなたにとっても良かろう」


 酷なようじゃが、子育ては親のするもんじゃな。

 儂は面倒そうじゃし深入りしないでおくとするかの。


「話を戻すが、例のオーガは暗部に任せることにした」

「暗部?」

「うむ。直接戦闘は避け、オーガを魔族領に誘導する」

「ははーん。魔族に押し付けるわけじゃな?」

「そのとおり。うまくいくかどうかは分からぬが、いたずらに兵を損耗するよりかはよっぽど現実的であろう。既にいくつかの村が潰されておる。被害がこれ以上広がる前に、オーガを人族領から追い出さねばならん」


 ま、妥当なところかの。

 うまくすればオーガと魔族が潰しあってくれて万々歳じゃしな。

 できることならあのオーガとは対話をしてみたかった気もするが、あの様子では無理じゃろうしの。

 あんな殺意を振りまいておる危険生物だったら、魔族とて対話を試みようとは思わんじゃろ。

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