爺×2VSオーガ
もっともっと見せてやろう
前話の弟子1号を弟子2号に変更しました。
1号は爺の中ではユリウスです。
「手はず通り頼んだぞ、弟子2号」
「マジで私がやるっすか?あー、失敗しても知らないっすからね!」
弟子2号が魔法を構築し始める。
むう。
遅いわ。
ああ、そこの構築はこの前教えたじゃろうが。
あ、また無駄なところに厚みを持たせてロスしておる。
なっとらんのう。
時間をかけて弟子2号が魔法を完成させる。
上空から空気の塊が地面に打ち付けられる。
暴風魔法「空落」。
元々は殺傷力を求めた魔法ではなく、敵の大軍を足止めするためのものじゃが、威力を高めれば相手を圧殺することも可能な広範囲魔法じゃな。
魔法は狙い通り地面に埋まっておるという魔剣を爆発させる。
ちゅうか、どんだけ埋めとるんじゃ。
そこいらの地面が一帯吹き飛んだぞい。
こりゃ、無策で突撃しておったら全滅しておったのう。
「もう、ダメ……」
弟子2号が魔力切れで突っ伏す。
まあ、よくやったほうかの。
「今こそ好機!全軍突撃!」
ニョドズの号令で騎士たちが突撃していく。
む?
何か飛んできたの。
あれは、剣か?
見れば何本もの剣が飛んできて地面に突き刺さっておる。
「爆発するぞ!近づくな!」
ニョドズが注意を喚起するが、儂にはそれが爆発する魔剣だとは思えん。
騎士たちと距離が開きすぎておる。
投擲された剣が突き刺さっておるのは騎士たちよりも横に離れた地面。
全ての剣が騎士たちを避けるようにして投げられている。
爆発しても距離があってそこまでの被害は出ないはずじゃ。
これは、何か別の意図がある攻撃じゃな。
一体、何が狙いじゃ?
儂の疑問に答えるかのように、また剣が飛来する。
今度は騎士の中心に向けて。
直後、紫電が爆ぜた。
四方八方に広がる雷が、騎士たちを蹂躙していく。
さらに、追い打ちをかけるように次々と剣が飛来し、その度に雷が轟く。
「おホウ!見よ!素晴らしいではないか!」
儂は興奮して叫ぶ。
素晴らしい!
これは雷の魔剣をただ爆発させているわけではない。
最初に地面に突き刺さった魔剣、あれが雷を吸収しておるのじゃ。
騎士を取り囲むように配置された魔剣。
おそらくあの魔剣には雷を吸収し、集める能力があるのじゃろう。
本来なら極小規模な範囲にしか影響しない雷が、魔剣に引き寄せられて拡散しておる。
ちょうど、魔剣の範囲の中を蹂躙するように。
これを見越して魔剣を配置しておったのか。
やりおるわい。
「あの魔剣がこんな働きをするとはのう!いやはや見事!見事じゃ!ははは!」
「し、師匠、割と、笑い事じゃ、ない、す」
「そうですぞ!動けるものよ!地面に刺さった魔剣をどうにかするのだ!」
あ、やめい!
という儂の心の声も虚しく、比較的無事だった騎士が1本の剣を引っこ抜く。
直後に魔剣が爆ぜて、雷が騎士の体を焼き尽くした。
「こんな手の込んだトラップを作る奴が、剣を抜かれた際の対策を要しておらん訳が無かろう」
騎士が倒れたすぐ近くの地面に、新しい剣が突き刺さる。
「実にそそられるが、このままだと全滅してしまうのう。仕方ない。ちとやる気を出すか」
オーガの能力とこの運用方法には目を見張るものがあるが、このままだとこちらがやられかねん。
残念なことこの上ないが、少々本気で行かせてもらうかの。
「ということで、行ってこいニュドズ」
「むむ!?」
万里眼でオーガの位置を確認。
転移魔法発動。
オーガの目の前にニュドズが出現する。
驚き目を見張るオーガ。
ニュドズも驚いておるようだが、さすがというべきか、無駄に立ち直るのが早い。
ニュドズの剣がオーガに迫り、オーガが腰に差していた魔剣で受け止める。
拮抗、そして、両者は弾かれたように同時に後退する。
そして、ニュドズとオーガの剣戟が始まった。
肉眼でなければ鑑定はできんが、見た限りニュドズとほぼ互角かのう。
ニュドズはあれで剣聖などと呼ばれておるんじゃが。
人族の中では間違いなく最高レベルの剣士なんじゃが、それと互角か。
儂の見立てでは、剣の技量ではニュドズの方が上。
単純な腕力でならオーガの方が上といったところかの。
じゃが、報告にあった急激なパワーアップも気になるところ。
ニュドズがやられるようなことがあれば、本気で敗北もありうる。
無駄に高潔なニュドズは嫌うかもしれんが、ここは加勢させてもらうぞ。
火と雷はオーガも使う属性であるが故に、通りにくいことが予想できる。
となると、他に遠距離に秀でている属性は、光かの。
魔法を構築。
射撃。
光の魔法の利点は、発射と着弾がほぼ同時で、狙撃する箇所を狙いやすいという点じゃな。
おかげで激しく動き回るニュドズを避け、オーガにのみ魔法を直撃させることができる。
光の魔法は狙い通りオーガの足を撃ち抜く。
「相変わらず、人間業じゃないっすねー」
弟子2号が呟くが、このくらいは出来てもらわんと今後困る。
魔法の直撃を受け、オーガの動きが鈍る。
ニュドズもその隙を見逃さず、果敢に切りかかる。
オーガが右手に持つ剣を振り、その切先から炎が迸った。
猛る炎は、しかしニュドズまでは届かない。
ニュドズが持つ剣もまた、風の魔法が込められた魔剣。
吹きすさぶ風が炎の侵攻を防ぎ、散らす。
どころか、ニュドズはそのまま炎を突っ切るようにオーガに斬りかかった。
オーガが左手に持つ魔剣で受け止める。
その左手の魔剣から、雷が迸る。
ニュドズの体が吹き飛ぶ。
じゃが、この程度ではあやつは死なん。
ニュドズを押しのけて一瞬の隙を作ったオーガに、再び儂の魔法が直撃する。
今度はさっきよりも威力を込めた魔法が。
頭を撃ち抜かれるオーガ。
さしもの奴も、頭をやられれば生きてはおられまい。
ぐらりと体を傾けるオーガ。
倒れながら、その手に持った剣を投擲する。
最後の悪あがきじゃが、雷の魔剣が迫る騎士の体に直撃し、その命を奪う。
運のない騎士じゃ。
じゃが、これで終いじゃの。
が、オーガはその直後、一瞬発光して立ち上がる。
その頭には、儂が撃ち抜いた傷が消えておった。
なんということじゃ!
完全回復などという能力のことは聞いておったが、致命の傷まで回復してしまうのか!?
いかんな。
これでは不死身の化物を相手にしておるようなものじゃ。
頭を撃ち抜いてさえ回復が間に合うのであれば、体を再生する間もなく木っ端微塵にするくらいしか倒す手立てが思いつかん。
儂がいよいよ敗北することも視野に入れ始めた時、オーガは踵を返して逃げ去っていった。
その速度は目を見張るものがあり、話に聞いていたパワーアップの能力を、逃走のために使用したと思われた。
なぜ、回復したのに逃走したのか。
回復には何かしら条件があり、そうホイホイ使えるわけではなかったということかの?
わからん。
わからんが、命拾いしたかもしれんの。