冒険者VSオーガ
[討伐クエスト:オーガ特異個体]
[近郊の森にオーガが出現した。通常のオーガ種と違い、高い戦闘能力を持つ特異個体である。先遣隊はほぼ全滅。生存者の情報からオーガはいくつかの特殊な能力を持つと推測される。推定危険度B~]
ギルドのクエストボードに張り出されたその依頼を、人だかりが眺める。
彼らは件のオーガが出現した際、他のクエストで出かけていたり、休暇を取っていて討伐に参加しなかった高ランクの冒険者だ。
彼らの目的は1つ、オーガ特異個体の討伐クエストを受けること。
同じギルドの仲間が殺された敵討ち、ランクを上げるための足がかり、報酬の金、討伐した際の経験値。
理由は様々だが、皆一様にオーガを狙っていた。
しかし、相手は情報の少ない特異個体。
しかも、Cランク以上の冒険者パーティーを複数相手にして、その全てを返り討ちにするほどの危険度。
危険度B~とは、最低でBということで、その上限は未だ不明。
それゆえに、ギルドマスターは今回の討伐を、冒険者を複数集めて数の暴力で一気に決める作戦に出た。
ギルドに集まったのは、その討伐戦に参加する意思を持った冒険者たちなのだ。
「諸君、よく集まってくれた!」
集まった冒険者を前に、ギルドマスターが声をかける。
「知ってのとおり、今回の相手はオーガの特異個体だ!ステータスは通常のオーガよりも高いと思われ、スキルも未知のものを含めて通常種を上回っている!」
ギルドマスターの言葉を、普段は粗野な冒険者たちが黙って聞いている。
「特筆すべき特徴は3つだ!」
それは、生き残った数少ない先遣隊の冒険者が持ち帰った情報だった。
「1つは異常な回復能力!既存のスキルでは説明のつかん、異様な回復の仕方をする!体が突如発光したかと思うと、次の瞬間には傷が跡形もなく消え去っていたそうだ!しかも、MPやSPまで回復していた節さえあるという!オーガを追い詰めたパーティーもいたが、この回復のせいでやられてしまった連中もいる!」
ギルドマスターの言葉に、冒険者がザワザワとしだす。
そんな中、1人唇を噛む青年の姿があった。
ルクッソと呼ばれる若手の有望株。
彼は、先遣隊の生き残りだった。
そして、彼を逃がすために犠牲になった仲間の敵討ちのため、傷を癒して討伐クエストに参加していた。
「2つ目!急激な戦闘能力の上昇!気闘法に似ているが、明らかに違う!発動時間は短いが、これが発動している間はステータスが跳ね上がっている!見た目の変化はないから勘で対処しろ!」
なんとも大雑把な対応だが、それこそが冒険者の戦いでもある。
臨機応変。
それこそが冒険者にとっての基本であり、奥義でもあるのだから。
「3つ目!オーガは魔剣を所持している!しかも、2本だ!」
さっきまでよりも大きなざわめきが起こる。
特殊な力を持った魔剣は、非常に数が少ない希少品。
それを、オーガが持っている。
通常のオーガが持つ武器など、木の棒や石斧くらいのもの。
異常だった。
「静まれ!」
ギルドマスターの一喝で、騒いでいた冒険者が一斉に黙る。
「ギルマス。1つ質問だ」
そんな中、1人の男が手を挙げる。
Aランク冒険者のゴトーだ。
「オーガ討伐後、その魔剣の所有権はどうなる?」
ギルドマスターに視線が集まる。
その眼差しには、隠しようもない欲がある。
魔剣を持つのは冒険者にとって一種の憧れであり、同時に純粋なステータスとなる。
「最も功績の大きかった2名にやる」
歓声が上がる。
冒険者のやる気が一気に上がる。
「では、出発!」
士気は高く、練度も高く、数も多く。
それゆえに彼らは負けるということを考えない。
「聞いてないぞ、オイ」
ゴトーは周囲で巻き起こる絶叫の中、1人冷や汗を拭った。
錯乱した冒険者がゴトーの隣を走り抜け、その下半身が消し飛んだ。
何もなかったはずの地面が、いきなり爆発したのだ。
その謎の爆破攻撃に、冒険者たちはあっという間に混乱の渦に叩き落とされ、次々と数を減らしていく。
どこから攻撃が来ているのかさえわからない。
逃げ惑うにしても、どこに逃げればいいのかわからない。
ただ、走り回った末に爆破される。
そんな地獄絵図が展開されていた。
もしこの場に転生者がいれば、それが地雷原の景色であるとわかったかもしれない。
冒険者たちは謎の攻撃から逃げているつもりで、実際には自分から地雷を踏みに行っているのだ。
仕組みは単純。
幻想武器錬成によって、自爆の効果とありったけの炎の属性を持った魔剣を錬成し、地面に埋めておくだけ。
自爆の効果はその名のとおり。
魔剣に宿ったエネルギーを一気に爆発させ、通常よりも大きな破壊力を生み出す攻撃。
そのかわり、1度使えばその魔剣は耐久値を全て無くし、壊れてしまう。
地雷原の中を右往左往する冒険者たちに、今度は遠距離からの攻撃が飛来する。
その直撃を受けた冒険者は、その身に大きな風穴を空けて吹き飛んだ。
まるで砲弾でも直撃したかのような有様。
しかし、飛来したそれは、剣。
耐久値に特化した剣を、筒状の入れ物に入れ、自爆魔剣の爆発を利用して飛ばす。
即席の大砲だった。
下からは地雷が、遠くからは砲撃が、冒険者たちを容赦なく襲う。
ゴトーは状況を確認し、引き返す。
ゴトーはその観察眼によって、爆発する攻撃は背後では起こっていないことを見抜いていた。
後退するならば、爆発の攻撃は来ない。
ゴトーは逃げ出したのだ。
当たり前である。
勝ち目がないのだから。
下からは地雷が、遠くからは砲撃が、では本体は?
ゴトーはその答えを見てしまった。
千里眼のスキルによって。
そこには、ゴトーとなじみの深い、同じAランクの冒険者のネッグ、その生首をぞんざいに放り捨てるオーガの姿があった。
ゴトーが覚えている限り、ネッグのしていた話ではオーガの身長は人と大して変わらず、進化する毎に大きくなっていくという。
ゴトーが千里眼で見たオーガの身長は、人よりも一回り大きかった。
進化し、Aランクの冒険者さえ軽くひねり潰す実力。
その上での、この地獄を作り出す未知のスキル。
この日、ゴトーは生き残り、他の冒険者の大半が蹂躙された。