召喚士の走馬灯
本日2話目
どこで、間違ったのだろうか?
それとも、どこも間違っていなかったが故の、この結果なのだろうか?
わからない。
わからないが、私は死ぬ。
「これが、因果か……」
思えば、ラズラズという名のこのゴブリンは、最初に見た時から異質だった。
ゴブリンといえば戦いのことしか頭にない戦闘狂。
だというのに、ラズラズは深い知性を宿した目をしていた。
そして、直感に従い鑑定をしてみて、そのスキルを見てしまった。
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それは、悪夢と呼ばれた、あの蜘蛛の魔物にもあったスキル。
あの規格外の化物と同じスキル。
危険な予感がした。
同時に、チャンスでもあると思った。
このゴブリンを手懐ければ、後々私に恩恵をもたらしてくれると。
悪夢のような化物には届かないだろうが、普通のゴブリンよりも強くなるだろうと。
武器錬成という見たこともないスキルも魅力的だった。
このスキルがあれば、辺境でろくに武器の補充ができない苦しい状況から脱出できる。
ゴブリンが行動範囲を広げられていた理由がわかった。
私はラズラズをスキルによって従えることに成功した。
が、これはスタートラインに過ぎない。
魔物を真に従えるためには、忠誠度を稼がなければならない。
忠誠度は従えた魔物にのみ適用される特殊ステータスで、100になると最高となる。
100になった魔物は主の命令になんでも言う事を聞くようになる。
逆に忠誠度が低い段階では、一々命令しなければ寝首をかかれることすらある。
忠誠度を上げるのは簡単だ。
まずは心を折る。
それも、完膚なきまでに。
主には勝てない、逆らえない。
そう思わせることが重要だ。
ラズラズには隣にいたゴブリンを殺させ、食わせた。
これによって称号を獲得できる上に、親しいものを強制的に自分の手で、という強烈な体験をさせることで、心を折ることができる。
はずだった。
ラズラズの心は折れなかった。
それどころか、怒りで自我を保ってみせた。
同じ時に従えたラザラザは、村を守れなかった自責の念であっさりと心を折ることができたというのに。
それからも私はラズラズの心を折ろうと試みたが、いずれも失敗した。
それならばと、手段を変えてなるべく丁寧に接してみたが、忠誠度が0から上がることはなかった。
この時点で嫌な予感はしていた。
怒というスキルが日に日に上がっていき、呪などといったスキルまで獲得している。
それ以外のスキルも緩やかに上がっていて、ラズラズが虎視眈々とこちらの隙を伺っているのは明らかだった。
それでも、私にはラズラズを手放せない理由があった。
私には、早く手柄を上げて、帝国に帰らなければならない理由があったのだから。
ラズラズの能力はそれを為せるだけの魅力があった。
無から高性能の武器を生み出す能力。
見たことも聞いたこともないその能力を帝国の上層部に喧伝すれば、私のこの辺境送りも解除されるかもしれない。
そんな淡い期待があったのだ。
その欲を出した結果が、これだ。
「無様だな」
始まりは、やはり悪夢の討伐任務か。
あの時、私はできることならば任務になど行きたくはなかった。
この歳になって、妻に子供が出来た。
その子供が生まれる予定日が、ちょうど任務の期間とかぶってしまっていた。
生まれてくる我が子をその場で見届けることができない。
間が悪かった。
そして、遭遇したのがあの悪夢だ。
生き残ったのは私とロナント様だけ。
しかも、その後の話では、途中で逃げ出した案内人を追いかけて、悪夢が迷宮の外に出てしまったという。
任務失敗と部隊の損失、さらには危険な魔物を世に解き放ってしまった罪。
それらの責任を取らされ、私はこの魔の山脈に飛ばされた。
首が飛ばなかっただけ良かったのかもしれないが、家族と会うこともできなかった。
無事に女の子が生まれたという話だが、結局その姿を見ることはできなかった。
そして、つい最近になり、我が子が何者かに誘拐されたという手紙が妻から届いた。
すぐにでも帝国に戻りたかったが、今戻れば私は脱走兵扱いとなり、今度こそ首を飛ばされることになるだろう。
堂々と戻るためには、手柄を立てるしかなかった。
娘を拐った犯人は不明。
ただ、単独犯ではなく、複数の人間が関与している、組織的な犯行だとのこと。
高位の魔法使いまでそのメンバーにいるようで、風の魔法を使った形跡が発見されたという。
軍の知り合いが捜索に当たってくれているが、手がかりは無し。
私が戻っても何ができるかわからないが、遠い地で何もできずにいる今の現状は耐え難いものだった。
「私が、憎いか?」
ふと気になって聞いてみる。
聞いてから、愚問だということに気づいた。
憎くないはずがない。
家族を自分の手で殺させた相手。
そんなもの、許せるはずがない。
ああ。
そうか。
魔物にも、家族の情があるのだな。
最初にラズラズが食い殺したのは、弟か妹だったのだろう。
ラザラザは兄だったという。
私のスキルで支配され、豹変してしまった兄の姿を見て、何を思ったのだろう?
この惨状を引き起こすきっかけになったのは、きっとゴブリンの村を新たにもう1つ私たちが滅ぼしたのを、何らかの理由で察してしまったからだろう。
どうやって私のスキルから脱出したのかはわからないが、強い怒りが私のスキルの力を上回ったのやもしれんな。
こんなこと、今更考えたところでどうにもならんが。
ラズラズはこれが答えだと言わんばかりに、剣を高く掲げ、振り下ろした。
今まで私がラズラズにしてきた事を思えば、当然の結末。
だが、やり残したことがある私は、
「無念だ」
せめて、死ぬ前に1度だけでも、我が子の顔を見たかった……。




