血24 入学
本日2話目
魔族の子供たちは、5歳になると学園に通うようになる。
私もちょうど5歳なので、その条件は満たしている。
学園に通う期間は5歳から15歳まで。
学園を卒業したあとは、地球で言うところの大学に通ったり、自立したりと進路を選ぶことになる。
この世界では大学に通う人は少数で、ほとんどは何らかの仕事に就くようだ。
私が通う事になる学園は貴族の比率が高く、卒業と同時に貴族としての仕事に就くものがほとんど。
貴族の位は上から順に、公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵の5段階。
王族というものは存在しない。
というのも、魔族の頂点である魔王が、位に関係なく選ばれるためで、世襲制でないために王はいても王族というものは存在しないのだ。
代々の魔王の子供や親類もいるにはいるが、彼らが王族を名乗ることはなく、大抵は公爵あたりの貴族としてその後収まるそうだ。
その関係上、公爵の位を持つ人たちは過去の魔王関係者が多い。
侯爵、伯爵あたりにも薄いながらも過去の魔王との繋がりがあったりして、そこらへんの家の歴史を調べてみると面白そう。
逆に、男爵になると平民からの成り上がりが多く、過去の魔王との関係性はほとんどなくなる。
力こそ全て、とまでは言わないけれど、魔族だと力があると割と簡単に男爵の位は手に入れることができる。
失うのも簡単だけれど。
力によって得た位は、力を失えば簡単に剥奪される。
当代が優秀でも、次代以降が不出来なら簡単に没落してしまう。
それが魔族の貴族の常識なのだ。
なので、公爵家でさえ力がなければ没落することもある。
力とは、戦闘能力だけのことではない。
財力、権力、政治力、軍事力、それらも力だ。
公爵家が男爵家のようにポンポン入れ替わらないのは、こうした力を代々に渡って溜め込んでいるから。
それも失ってしまえば没落は免れないけど。
と、そんな感じの魔族の貴族の知識をアリエルさんに教わり、私は学園に入学した。
私は途中編入という扱いになり、編入試験を受けさせられた。
この試験は私の現在の学力や戦闘能力などを測るためのもので、結果が悪くても落とされることはないそうだ。
なので、気楽に受けることができた。
筆記試験は教科によってバラつきが出た。
算数なんかは仮にも地球で高校までの勉強をした私に解けないはずがない。
言語学も、アリエルさんに読み書きと旅の途中でみっちり教わっていたので問題ない。
人族語も魔族語もバッチリである。
けど、歴史なんかの問題は知らないので解けなかった。
実技は簡単だった。
まず、使える魔法の種類を聞かれたので、素直に答えた。
私が使える魔法は水と氷、影、闇、風、雷である。
水と氷に至っては上位の魔法まで使える。
闇も一応影の上位と言えるので、私は上位の魔法を3種使えることになる。
ご主人様の見て覚える教えを、旅の間の4年間続けてきた成果である。
試験を担当していた教師が半信半疑の視線を向けてきたので、その場で魔法を披露した。
周りに被害が出るといけないので、被害が出ないようにコントロールして。
結果、魔法の腕は認めてもらえた。
次に接近戦の実技を受けたのだけれど、なぜか魔闘法と気闘法を発動させた段階で合格をもらった。
私、何もしてないのだけど。
実力を見る試験で何も見ないってどういうことなの?
ともあれ、無事入学した。
貴族が通う学園ということで、1つの学年に在籍している人数はあまり多くない。
大体100人程度で、3つのクラスに分けられている。
最初の数年間は実力なんかは無視して、完全にランダムなクラス分けらしい。
私は途中編入なので、1番人数が少ないクラスに入れられることになった。
「今日から仲間になったソフィア・ケレンちゃんです。みんな仲良くしてくださいね」
教師の紹介が行われる。
小さい子供の視線がたくさん。
考えてみたら私と同じ歳ということは、みんな子供だった。
今まで周りは年上ばっかりだったからなー。
ご主人様は同じ年だけど、見た目は上だし。
教師が去ってから私はちみっこどもに質問攻めにあった。
皆が皆好き勝手に話しかけてくるものだから、1人1人が何を言ってるのか聞き取れない。
五感強化持っていても、そんないっぺんに話しかけられたら対応できないって。
「お前たち、少しは貴族として落ち着きを持て」
もみくちゃになる私を救ったのは、金髪碧眼というザ・王子様という外見の子供だった。
「僕は公爵家のワルド・K・アトモス。何かあれば僕を頼るといい」
はー。
子供なのにしっかりとした子だ。
自分のことは棚に上げる。
これでも中身は元高校生だもの。
私はその後、ワルドによって整列させられた子供たちからの質疑応答をした。
私の設定は、世界を旅してきたさるお方の弟子というもの。
その方は長年人族領に潜入しており、この度帰国。
私はその方に連れられて同時に帰国した、という設定だ。
さる方は重要なので、その正体を明かしてはいけない、ということになっている。
実際魔王様だし、間違ってはいない。
子供たちはさる方の正体をしつこく聞いてきたけど、答えられるわけがない。
次に食いついてきたのが平民であるというもの。
私が平民であると言った途端、侮るような空気がした。
けど、一部の子供たちは逆に警戒を強めた。
どうも、この学園には平民というものはほとんどいないらしい。
そして、そんな学園に入学できる平民というのは、大抵並外れた才能を持っているのだとか。
私、そんな才能ないんですけど。
なんてところに入学させてるのよ、アリエルさんは。
今後の事を思うと胃が痛くなりそうだけど、私はちみっこだもに囲まれながら学園生活をスタートさせた。