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血20 ご主人様は鬼畜

 3年と少し経った。

 ええ、3年です。

 こっちの世界での3年だから、地球換算だとおよそ3年半。

 私は未だにアリエルさんとご主人様にくっついている。


 ご主人様?

 ご主人様はご主人様よ。

 そうとしか私は呼べないのよ。

 呪いのせいで。


 あれはそう、1年くらい前のこと。

 ご主人様がいきなりトランプを持ってきた。

 トランプ。

 前世では馴染みの深いカードゲームの基本。

 まあ、私はボッチだったので友達とトランプをした記憶なんてないのだけれど。


 この世界にはトランプというものがない。

 そもそも娯楽があまり多くない。

 絶えず魔族と戦争をしているせいか、その日の食い扶持に困る人が多く、遊んでいる暇もないからだ。


 だというのに、ご主人様はそのトランプをどこからともなく持ってきた。

 どこから持ってきたのか聞いてみると、「Dのところ」という答えが返ってきた。

 ディーという地名なのか、よくわからない。

 素面の時のご主人様は必要最低限のことすら話さないので、よくわからないことが多い。

 結局詳しく聞いても答えてくれなかったので、どこから持ってきたのかは今以て不明。


 これがただのトランプだったのなら私も驚かない。

 いや、確かにこの世界にトランプはないし、不自然ではあるんだけど、ご主人様が自作したってこともあるし、どこかに依頼して作らせたのかもしれないし。

 ただのトランプだったら作れなくもない。


 けど、そのトランプはただのトランプではなかった。


 それを知らずに、ババ抜きをやろうというご主人様の提案に乗ってしまったのが運の尽き。

 ババ抜き。

 数あるトランプの遊びの中から、それを選んだのには理由がある。

 私、トランプでルール覚えているのがババ抜きくらいしかないの。


 だって仕方ないじゃない!

 前世ではトランプなんかやったことないんだもん!

 やる相手がいなかったんだもん!

 悪い!?


 そういうわけで、ルールがわかるババ抜きに決まった。

 メラゾフィスも当然トランプのルールなんて知らないから、それを理由に他の遊びを拒否した。

 メラゾフィスは「ルールを知らなくてすいません」としきりに恐縮してたけど、ごめんなさい、私も知らないの。


「大丈夫。ババ抜きなら簡単だしすぐ覚えられるわ」


 そう言った時のアリエルさんのかわいそうなものを見るような目が、脳裏に焼き付いて離れない。

 あの人、多分気づいてる。

 お願いします、そんな目で見ないでください。


 そして始まったババ抜き大会。

 問題は、ただ遊ぶだけじゃつまらないということで、提案された追加ルール。

 1位抜けした人がビリに命令できるというもの。

 王様ゲームみたいな感じね。

 王様ゲームもしたことないけど。


 私はそれを了承した。

 なぜ、了承してしまったのか。

 その先の結末を知っていたのなら、当時の自分を殴ってでも止めたでしょうね。


 ちなみに、ご主人様は邪眼なんて厨二能力の持ち主らしいのだけど、不正防止のため発動を禁止されていた。

 おかげで、普段は閉じている目を開けていたので、ちょっと気味が悪かった。

 普段はその目を隠すために閉じていて、透視で視界を確保しているそうだ。

 というのを、本人ではなくアリエルさんに聞いた。 


 1回戦。

 1位はアリエルさん。

 ビリはメラゾフィス。


 この結果、メラゾフィスがルールをまだ理解しきれていなかったこともあるけど、単純に運がなかったというのがある。

 ジョーカーが最初から最後までメラゾフィスの手元に残ってしまったのだ。

 そういうわけであっさりと終了。


 アリエルさんが出した命令は、次の1戦、空気椅子で頑張れというものだった。

 その言葉が終わった直後、トランプから禍々しい波動が飛び出て、メラゾフィスに命中した。

 そして、メラゾフィスは強制的に空気椅子の姿勢になった。


「白ちゃん、これなに?」

「呪いのトランプ」

「どうしてそんな呪いがあるのかな?」

「さあ?」

「え、これどうやって呪い解くの?」

「解けない」

「うん?」

「解けない」

「ううん?」

「解けない」

「オイィィィィ!? どうすんのこれ!?メラゾフィスずっとこのまま!?」

「次の1戦が終われば元に戻る」

「ハッ!?そうか!」


 というわけで、メラゾフィスを救うための2回戦目。

 1位はご主人様。

 ビリはメラゾフィス。


 1回戦目と違い、2回戦目は自業自得の敗北だった。

 辛い姿勢で判断力が鈍ったのか、まだトランプに慣れていなかったせいか、メラゾフィスはせっかく揃っているはずの手札を場に出し忘れていたのだ。

 そのせいで敗北。

 けど、勝負が着いた瞬間、メラゾフィスは空気椅子から解放された。


「メラ、次の1戦が終わるまで脱げ」


 あー、これで終わったと思ったその時、衝撃の言葉が発せられた。

 同時にトランプから飛び出す禍々しい波動。

 メラゾフィスの服が脱げた。

 全部。


「おおお!」

「キャアア!」


 全裸で放心状態で口をパクパクさせるメラゾフィスと、なぜか嬉しそうな声を出すアリエルさんと、普通に悲鳴を上げる私と、なぜかドヤ顔のご主人様。

 何かおかしいと思ったら、お酒飲んでる!

 この人酔っ払ってる!

 

 このままでは呪いのせいでずっと全裸になってしまうため、メラゾフィスの名誉を守るための3回戦目。

 結果は、1位ご主人様。

 ビリ私。

 私。


 もうわかるわよね?

 どうして私がご主人様なんて言ってるのか。


「今後私のことはご主人様と呼ぶように」


 ええ。

 そういうことよ。

 おかげで私はご主人様のことをご主人様としか呼べなくなった。

 声に出すだけじゃなくて、心の中でも。


 どんだけ強力な呪いなのよ。

 アリエルさんが診断してくれたけど、結果分かったのは解呪不能だということのみ。


 ちなみに、翌日酔いがさめて正気に戻ったご主人様は、何言ってるの、という顔をしやがった!

 あんたがそう呼べって言ったんでしょうが!

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― 新着の感想 ―
[一言] ほんとどっから持ってきたそのトランプwwwwwwwwww 思ったとおりじゅんちょおにイヂられてはいるけどまさかの酔っぱらいがイヂり属性とは思ってもみなかったw
[一言] 酔い白織…やっぱり…ヤバいやつ…
[一言] こういう感じがけっこう減っちゃったのが書籍版は残念 あれはあれで好きなんだけど
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