鬼6 奴隷
武器を錬成する。
ただひたすらに錬成し続ける。
殺意と憎悪を込めて。
ゴブリンの村は壊滅した。
生き残ったのは僕と、僕と同じように魔物使いの男に支配されてしまったラザラザ兄だけ。
その他にも逃げ延びたゴブリンがいるかもしれないけど、その確率は低いと思っている。
誇り高いゴブリンが敵に背を向けて逃げるなんてするはずがないから。
あるいは、子供だったら逃がしていたかもしれない。
けど、住む場所を追われた子供のゴブリンが、あの厳しい山脈で生き残れるとは思えなかった。
人間たちはゴブリンの村に7日ほど駐留し、使えそうなものをあらかた回収して引き上げていった。
僕とラザラザ兄を連れて。
連れてこられたのは山脈の麓にある小さな村だった。
その村はできてからそこまで時間が経っていないようだった。
数年、少なくとも十年単位は経過していないと思う。
老若男女の人間たちが暮らしていて、その中心に魔物使いの男が率いる部隊があった。
魔物使いの男はおそらくどこかの国の兵士なんだと思う。
部下の連中はガラの悪い雰囲気だけど、魔物使いの男からはどことなく気品を感じる。
元は貴族とかだったのかもしれない。
名前はまだわからない。
というのも、魔物使いの男は2通りの呼ばれ方をしていた。
言葉がわからないので、どっちが名前なのかわからない。
多分どっちかが名前で、もう一方が隊長だとかそんな感じの意味なんだと思う。
僕の体は相変わらず言うことを聞いてくれない。
魔物使いの男の命令だけに従う。
それはラザラザ兄も同じようで、僕と一緒にいるときでも喋ることさえできなかった。
きっとラザラザ兄も僕と同じように、胸の内で殺意を沸き上がらせているに違いない。
人間の村についてから、僕らは少しの自由を与えられた。
人間を襲わない、人間の不利益になることをしない、逃げ出さない、自死しない、率先して人間のためになるように行動する、などの条件を与えられて。
けれど、僕は結局ラザラザ兄と話をすることはできなかった。
ラザラザ兄とは別の場所に隔離されてしまったからだ。
僕にはラザラザ兄とは別に、与えられた指令があった。
武器を錬成せよ、というものが。
そして僕は武器を錬成し続けた。
命令によって手抜きはできなくされている。
僕が作る最高の武器が出来上がっていく。
それを、僕の村を滅ぼした連中が使う。
屈辱だった。
もし呪いで男たちを殺せるのなら、今頃この村は廃墟になっていただろう。
それくらいの憎悪を錬成する武器に込め続けた。
《熟練度が一定に達しました。スキル『呪LV1』を獲得しました》
ハハ。
本当に獲得しちゃったよ。
けど、それを使うことはできない。
人間の不利益になるから。
使いたくとも、体がそれを使うことを拒否する。
なんて厄介な強制力なんだ。
そうして僕はできる限り武器錬成を続けていた。
意外だったのは、魔物使いの男が僕を割と丁寧に扱っていたことだ。
最初のあの扱いから、僕はてっきり使い捨てにされるくらいの覚悟をしていた。
けど、武器錬成も限界以上にやらせないし、食事や寝床もきちんと用意してくれる。
鑑定石もそのまま持たされていた。
相変わらず言葉は理解できないけど、魔物使いの男が僕のことを労っているのはなんとなくわかった。
だからと言って、この殺意と憎悪が消えることはない。
魔物使いの男が僕から武器を受け取り、その武器を鑑定して笑みを浮かべるたびに殺意が沸く。
この力は、お前のために磨いてきたわけじゃない。
魔物使いの男は僕と同じように鑑定石を持っているようだった。
それも、僕が持っているものより高レベルのものを。
どうやら初めて会った時に感じた悪寒は、鑑定されたときに生じるものらしい。
きっと僕のことを鑑定して、スキルに武器錬成があるのを見つけたから、こうして従えているんだろう。
僕はMPが切れるまで武器錬成をする。
MPがなくなったら回復するまでは武器錬成ができない。
その間にこっそりと自らを鍛える。
僕に与えられたのは、村の倉庫だった小屋を急遽改装した場所だ。
元は小さな倉庫だったから狭い。
そして、魔物使いの男によって従わされている僕に、見張りのようなものはない。
それだけ魔物使いの男の能力は信頼されているということだろう。
僕は狭い室内でもできる筋トレをする。
腕立て、腹筋、背筋、スクワット、など。
これでどうにかできるとは思わない。
けど、少しだけでもプラスになるはずだ。
僕はいつまでも魔物使いの男に従っているつもりはない。
いつか必ず、あの男を殺す。
今はまだあの男の呪縛から逃れる方法がない。
けど、チャンスを待つ。
そのチャンスを生かすために、少しだけでも強くなっておく。
でないと、折角のチャンスを棒に振ることだってありえるんだから。
正直、そんなチャンスが来るのかどうかさえ、僕にはわからない。
けど、一縷の望みは捨てない。
諦めてなるものか。
そのチャンスが来るまで、僕はこの殺意と憎悪を燃え上がらせ続ける。
いつかその業火があの男を焼き尽くすことを夢想しながら。




