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血15 幼女虐待警報発令中

 し、死ぬ。

 冗談抜きに死ぬ。

 アリエルさんと白織と行動し始めてまだ1日。

 初日から私は死にかけていた。


 原因は白織だ。

 朝、出発する時になって、メラゾフィスが私を抱き上げようとしたのをあいつは止めやがった。

 ただ一言「歩け」だけ言って。

 メラゾフィスが理由を聞いても答えない。

 代わりにメラゾフィスに赤い液体の詰まった瓶を手渡していた。

 多分中身は血なんでしょうけど。


 アリエルさんから吸血鬼について少し聞いていた。

 私は真祖なんだそうで、吸血鬼としての弱点を克服しているらしい。

 だから日光に当たっても血を飲まなくても大丈夫。

 けど、メラゾフィスはそうもいかない。

 メラゾフィスも吸血鬼の中では特別らしいけど、日光に当たればダメージを受けるし、血を飲まないと生きていけない。

 普通の吸血鬼だったら日光に当たっただけで死んじゃうくらいのダメージを受けるらしいから、メラゾフィスはそれに比べると随分マシなんだと思う。

 アリエルさん曰く、吸血鬼になった時に会得した「HP自動回復」というスキルがあるので、肌の露出を抑えた服装をして、帽子をかぶっていれば外に居てもダメージを相殺できるだろうとのことだった。


 そんなわけで、メラゾフィスは白織が作ったという白い帽子をかぶっている。

 もともと着ていた服も昨日の騒動で破けてしまっているので、これまた白織が作ったという白シャツに白ズボンという、白づくしの格好となっている。

 吸血鬼というと黒いイメージがあるんだけど。

 白織同様白一色となったメラゾフィスが、赤い瓶を持っているととても目立つ。

 瓶を受け取るとき、メラゾフィスの顔が若干引きつったのは私の見間違いじゃないはず。


 驚いたのは出発する際、それまであったテントやら食器やらを白織が異空間にすっぽり収納してしまったことだ。

 空間魔法はかなり貴重だと聞いていたんだけど、白織はこともなげに使っていた。

 2度も死んだと言われていたのに、ひょっこり生きている理由がこれなんでしょうね。

 きっと死んだと見せかけて転移で逃げてたんでしょう。


 そして、出発して、私は足がガクガクになるまで、というか、ガクガクになっても歩かされ続けた。

 私、まだ赤ん坊なんだけど…。

 普通2歳にもなってない赤ん坊に森の中歩かせる? 

 転生者だからか、それとも吸血鬼だからか、一応私も年齢よりかは動けはするわよ?

 けど、いきなり森の中をハイキングって、それはハードルが高すぎるんじゃないかしら?


「お嬢様、大丈夫ですか?」


 もう何度目かもわからないメラゾフィスの問いかけ。

 同じセリフを少なくとも4、5回は聴いてる気がする。


「たいしょうふやない」


 もともと舌足らずな言葉が、疲労も合わさって余計に聞き取りにくくなる。

 ほとんど掠れるような音しか出てなかった。


 メラゾフィスに聞き取れたかどうかもわからないけど、どっちにしろ聞き取れても何もできない。

 何もさせないのだ、白織が。

 ここまでメラゾフィスは何度も私のことを抱き上げようとしたり、手を引いいたりしようとしたけど、ことごとく白織がそれを止めた。

 黙って首を振るだけなので何が目的なのかよくわからないけど、その断固とした態度は私に自力で歩けと如実に物語っている。

 訳がわからない。


 アリエルさんも助けてくれない。

 「頑張れー」と他人事みたいに声援を送るだけ。

 実際他人事なんだろうけど。


 そんなわけで、朝から半日、森の中をずっと歩き通した。

 途中で足に血豆ができたり、木の枝とかで切ったり、転んで擦り傷を作ったりしたけど、私にも「HP自動回復」のスキルがあるらしく、そういった怪我は時間を置くと消えていた。

 だからと言って怪我は治っても疲労は取れない。


 お昼ご飯を食べるために立ち止まった時には、もう立っているのがやっとの状況だった。

 途中で拾った杖に手頃な木の枝がなかったら、立ってもいられなかったと思う。

 ガクガクする足でゆっくりと座る。

 極限になると、座るのさえ大変だというのを生まれて初めて知ったわ。


 無理をしすぎたせいか、「持久」「瞬発」「SP回復速度」「SP消費緩和」なんてスキルが新たに手に入ったみたい。

 SPというのが何かよくわからなかったけど、状況的に多分スタミナ関連のステータスなんだと思う。


 昨日の夜は白織が料理したらしいけど、今度はアリエルさんが料理するらしい。

 白織が異空間から取り出す食材に、妙なものが混ざっていないかよく確認する。

 朝ご飯はまともだったけど、油断はできない。

 渡される食材が普通のものだったので、ひとまず安心する。


「よろしく」

「ホントにやるの?」


 そんなやりとりが白織とアリエルさんの間であったけど、疲れきっていた私は座ったままの状態でぐったりしていた。

 アリエルさんが調理を始める。

 水魔法なのか、何もない場所から水の玉が出てきて、鍋の中に落ちていく。

 その鍋を燃料もないのに発生した火が熱する。

 こういう光景を見ると、異世界なんだなーと痛感させられるわ。

 

 野菜が切り揃えられ、鍋の中に入れられる。

 調味料を入れられて、グツグツと煮込まれる鍋から芳ばしい香りが漂ってくる。

 ついさっきまで疲れすぎてあんまり食欲はなかったけど、体は正直みたいで、お腹が小さく鳴った。

 無音のスキルのおかげで多分外には聞こえてないと思う。

 普段の生活でこのスキルが役に立つとは思わなかったわ。


 鍋を煮込んでいる間に、アリエルさんは乾燥させた芋のような野菜の粉と水を合わせて、軽く塩を振って捏ねる。

 そこにさらに数種類の粉を混ぜて、できた生地を薄く伸ばして焼き上げる。

 地球で言うところのナンみたいな料理ができた。

 煮込み終わったスープと合わせて、昼食が完成した。


「「「「いただきます」」」」


 メラゾフィスにも日本式の挨拶を教えて、全員で声を揃える。

 ナンもどきをスープに浸し、口に運ぶ。


 え、苦!?


 何これ?

 我慢できなくはないけど、苦い。

 正直美味しくない。

 けど、それを言ったら作ってくれたアリエルさんに失礼だし。


 て、メラゾフィスどうしたの?

 なんだか顔色が悪いけど?

 吸血鬼になってから顔色が前より青白くなったけど、今はさらに青くなって真っ青よ?


「大丈夫大丈夫。死なない程度に薄めてあるから」

「お嬢様!食べてはなりません!毒です!」


 アリエルさんのほんわかした声に反して、メラゾフィスが焦ったように叫ぶ。


「だから大丈夫だって。ソフィアちゃんは状態異常耐性持ってるんだから。これは毒耐性を上げるための食事だよ?ちゃんと死なないように計算して毒の強さを調節してるから問題ないよ。不味いのには目をつぶってもらわないとだけどね」


 え、これ本当に毒入りなの?


「食べたくなければ食べなくてもいいけど、餓死しても知らないよ?」


 アリエルさんは突き放すようにそう言って、毒入りの食事をペロリと食べてしまった。

 その横では白織も当然のように完食している。


 メラゾフィスと目を見合わせる。


「たべましょう」

「はい、わかりました」


 どっちにしろ生殺与奪はこの人たちに握られているのだもの。

 大人しく食べるしかないわ。

 そして、私とメラゾフィスは毒入りの食事を完食した。

 アリエルさんの言うとおり、状態異常耐性のレベルが1つ上がって、メラゾフィスには毒耐性のスキルが生えたらしい。

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― 新着の感想 ―
白ちゃんは百獣の王だったらしいw
[一言] うんそれ全部白ちゃんは蜘蛛子時代に『産まれた直後』からやってたから諦めてぇ~(汁 この蜘蛛さんが誰か育てる時ぜってースパルタするんだぜ思ってたのが1ミリもズレてなかったわ(汁゛
[一言] スパルタ教育だ
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