血14 嘘と本当
「ここで問題です。私たちは何故タイミングよく君らを助けることができたんでしょうか?」
アリエルさんが唐突にそんな問題を出してきた。
そういえば、どうしてだろう?
いろいろありすぎて考えてなかった。
『エルフを追ってきた、とか?』
なんだか敵視してるみたいだったし。
「ブー。ハズレ」
『じゃあ、戦争の経緯を見守っていた?』
神言教のことにもかなり詳しいようだったし。
「ブー。それもハズレ」
『すいません。わからないです』
私にはそれ以外の理由が思いつかなかった。
敵対しているらしいエルフも関係なく、戦争の行く末を見守っていたわけでもないのなら、わざわざアリエルさんがあの場にいた理由が思いつかない。
自称魔王がたまたま観光していたというのは、いくらなんでも出来すぎている。
「正解は、君を助けるためでしたー!」
パンパカパーンという擬音を口にしながら正解を告げる。
その内容に首を傾げる。
私を助けるため?
何のために?
『私が、転生者だからですか?』
少し身構えながら聞く。
エルフや神言教がどうして私を狙ってるのかわからないけど、転生者というのは狙われるだけの存在であるということ。
だとしたら、この人も何らかの理由があって私を手元に置いておきたいんじゃないか?
命があるだけエルフに比べればマシなのかもしれないけど、私を利用しようとしているのなら、全面的に信用することはできなくなる。
「うーん。そうとも言えるし、そうじゃないとも言える」
帰ってきた答えはなんとも煮え切らないものだった。
『どういうことですか?』
「まあ、白ちゃんが助けたいって言ったから助けたんだよ」
『え?』
え?
どういうこと?
「あんなだから勘違いされがちだけど、白ちゃんってなんだかんだお人良しだからねー。困ってる人とか助けを求めてる人がいたら思わず手を差し伸べちゃうのよな。捨てられてた子猫を拾わずにはいられないタイプ。私はおまけで白ちゃんの手伝いをしただけで、君を助けようと動いたのは白ちゃんだよ」
え?
『で、でも、そんな素振りしてなかったじゃないですか!?』
「あー。白ちゃん悪ぶりたい難儀な性格してるからね。善行積んでもいろいろ理由つけて自分の行動を自分で貶めるんだよねー。悪い意味で理屈屋というか。無償の善意で動いてるくせにそれに無理矢理対価をくっつけて、これを得るために私はこうしてるんだ、だから善行なんかじゃないんだからね!ってなふうにツンデレるわけよ」
『なんですか、それは…』
「君の場合結構前から気にかけてたっぽいよ。君がいたあの街の近くに巣を作ったのも君の事見守るためだったんじゃない?君が吸血鬼だってこと見破ってたんだろうし。多分そのうちそれがバレて面倒なことになるから、最悪のパターンを考えていつでも助けに行けるようにしてたんじゃないかな?」
『そんなこと、いえ、でも、そんな』
「あの時期白ちゃんは厄介な追手に追われててね。実は言うと一所に留まってるのは危険な状況だったんだよ。それを無視してあんな目立つ場所に巣を作る意味って、理屈を考えればないんだよね」
『追手?もしかして、いなくなった時に戦ってた、神言教の?』
「それそれ。まあ、神言教とは無関係なんだけどね。都合がいいから神言教の仕業にしちゃえって神言教自身がホラ吹いてるだけで」
『そうなんですか?』
「そうなんですよ。神言教は割とそういう嘘情報流すの得意よ?なんせ情報ネットワークは世界最大だからね。そういう自分らに都合のいい嘘情報流すのなんて朝飯前なんだよねー。その時の情報を引き金に戦争が起きたわけじゃん?神言教は女神教と戦争起こしたかったわけで、女神教が神獣と崇める魔物が何者かに討伐されたって情報は都合が良かったんだよ。これを自分たちがしたことにすれば、女神教との軋轢に使えるってね」
『その嘘情報にまんまと踊らされたということですか?』
「そういうこと。まあ、女神教はそれがなくても戦争せざるを得ない状況に追い込まれてただろうけどね。遅かれ早かれってやつ。白ちゃんの言うとおり、白ちゃんは本当にダシに使われただけで、神言教とは一切関わりがないんよ」
そんな。
だったら、あの戦争が起きたこと自体が間違いだった?
けど、アリエルさんの話を聞く限り、どっちにしろ戦争にはなっていたらしい。
白織はそれに巻き込まれただけで。
あれ?
でも、ちょっとまって。
『ですが、その後あいつは戦場に現れて敵味方の区別なく虐殺して回ったと聞いています』
「それね。私もその場にいたわけじゃないから詳しくは知らないんだけど、私が独自に調べた感じじゃ、白ちゃん初めは神言教のことだけ攻撃してたっぽいよ。そのあとなんでか無差別になったぽいけど。まあ、白ちゃんの性格考えると、女神教側から攻撃されたから反撃でもしたんじゃないかな?あの子、1度敵と認定したら容赦しないから」
『どうして味方である女神教が神獣に攻撃するんですか!?そんなはずないじゃないですか!』
「そうとも言い切れないんだなー。私らから見ると人族ってめっちゃ弱いのよ。体も、心もね。戦場で敵を容赦なく虐殺するような強大な存在がいたら、しかもそれが形の上では神獣と崇めてはいても、魔物だったら。会話もできない行動も理解できない、そんな存在が目の前で暴威を振るっていたら。ふとした弾みに暴発することもあり得るんだよねー。しかも白ちゃん威圧だとかのスキル持ってたはずだし。恐怖に錯乱した兵士が暴走するのはむしろ自然な流れかもね」
じゃあ、何?
もしそれが本当だとしたら、今のサリエーラ国の状況は自業自得だって言うの?
味方である神獣を裏切って攻撃したから。
その報復で自軍を半壊させられて。
そんなこと、認められない。
「まあ、納得できないだろうね。私もこれは推測でしかないから何とも言えないし。ただ、これだけは覚えておいて欲しいんだ。白ちゃんはここしばらくの間身動きができない状況だったんだけど、動けるようになった途端慌てて君のこと助けに駆けつけたってこと。本人に聞いても否定するだろうけど、君のことかなり心配してるみたいだったよ」
でも、けど。
私、そんなこと言われても、すぐには気持ちも切り替えられない。
「ま、一緒に旅してく途中で徐々に打ち解けていけばいいんじゃない?」
アリエルさんの言葉に頷きかけて、はたと思いとどまる。
白い繭から何かが飛び出してきていた。
それは、足だ。
白くて長い蜘蛛の足。
それが繭の糸をかき分けて出てくる。
姿を現したのは、下半身が蜘蛛の姿の白織。
繭から出てきて伸びをする。
蜘蛛の足が伸びる。
そして、直後に吸い込まれるかのように長いローブの中に消えていった。
どう言う仕組みになっているのか、もう見た目は普通の人間と変わり無い。
けど、さっきのあの姿、まんま化物じゃない!
あれと打ち解ける?
できるの、私?




