210 吸血鬼主人懐柔作戦
『では、お嬢ちゃんに質問。あなたは転生者ですか? マルかバツで答えなさい』
目を覚ました吸血っ子に魔王が念話でそう質問する。
私はわかりきってるんだけど、本人の口から喋ってもらうのがメラを納得させる一番手っ取り早い方法だしね。
しばらく沈黙が続く。
その間、作った料理を食べる。
うーん。
不味くはない。
けど、美味しいかと言われると微妙。
適当に味付けしてみただけだからなー。
暇ができたら本格的に料理でも習おうかなー。
むう。
何が悪かったんだろう?
肉がちょっと淡白だったかな?
やっぱファンタジーの設定通り野菜ばっか食べてるのかな?
血抜きしたのは、吸血鬼2人に飲ませるのを考えると間違ってはいなかったはず。
なんかタレでも作って、漬け込んでから焼いたほうが美味かったかな?
『わ、私をどうするの?』
料理の反省で悩んでる間に、吸血っ子が意を決したように口を開いた。
念話だから口は開いてないけど。
『はいブー! マルかバツで答えよって言ったじゃーん』
魔王が腕でバツの字を描きながら口を尖らせる。
『ぶっちゃけ今君らの生殺与奪の権利はこっちが握ってるの。私は別に敵じゃないから危害を加える気はないけど、味方でもないからねー。機嫌を損ねるとこの魔物もいる深い森の中に放置してどっか行っちゃうかもよー?』
そんな気もないくせに。
けど、効果は抜群だったみたい。
吸血っ子の顔に隠しきれない焦りが浮かぶ。
その焦った顔を見て、というか、念話で吸血っ子が会話に応じた段階で、メラは驚き口をあんぐり開けている。
吸血っ子の反応を見て、魔王が言ったことの信憑性が増した。
それを頭では理解しているんだけど、心が拒否してる感じ?
で、結果フリーズと。
『まあ、どうするかは君の態度次第ってことだよ』
『わかりました。さっきの質問の答えは、マルです』
魔王がその返答ににこやかに笑い、メラが天を仰ぎ見た。
『じゃあ、軽く自己紹介してくれる? あ、メラゾフィス君にもわかりやすくね』
『は、はい』
しばらく間があり、吸血っ子はポツポツと話し始めた。
『名前は、ソフィア・ケレンです。前の名前は、根岸彰子です』
『うんうん。それで?』
『それで、えっと、生後1年2月の赤ん坊です』
こっちの世界の1年は411日で、それを10分割したのが1月だそうだ。
つまり、41日が1月。
余った1日は新日と呼ばれ、年の初めの日を、どこの月にも属さない特別な日として扱うのだそうな。
こっちの世界基準で1年2月だと、地球換算だと1年4ヶ月ってところか。
『うんうん。それで?』
『え? それで、え? えーと』
『大切なこと隠してるんじゃないかなー?』
『あ、う、ああ。はい』
『じゃあ、それ、ゲロっちゃいなよ』
ニヤニヤしながら吸血っ子の返答を待つ魔王。
吸血鬼だってことを言わせたいんだろうけど、知ってるくせにもったいぶって本人の口から言わせるとか、いい性格してるわ。
というか、さっきの騒動の時にエルフが思いっきり吸血鬼って言ってたんだけど、聞いてなかったのかな?
それとも聞いてたけど、それどころじゃなくて忘れてるとか?
吸血っ子はチラチラとメラのことを窺ってる。
メラはそんな吸血っ子のことを目を逸らさずに見つめている。
『私は、吸血鬼です』
やがて、観念したように白状する吸血っ子。
『うん。知ってる』
『え?』
『ちなみにメラゾフィス君にもさっき教えた』
『え? ええ?』
めっちゃ慌てる吸血っ子。
マジで大丈夫かこいつ?
メラは吸血鬼になってんだから気付かない訳無いでしょ。
「お嬢様、私は自分が吸血鬼になってしまっている自覚もありますし、お嬢様が吸血鬼であるということも理解しております」
メラが念話ではなく、肉声で吸血っ子に伝える。
『ごめんなさい。あの時は、あれしか方法が思い浮かばなかったの』
「謝らないでください。謝るのならば、私の方です」
『え?』
「お嬢様を守りきれませんでした。申し訳ございません」
メラが土下座する。
この世界、マジで土下座文化あるんだ。
「それに、ああしなければ私は死んでいました。感謝こそすれ、恨む気持ちはございません」
『でも、吸血鬼よ? もう、人としては生きていけないのよ?』
「覚悟の上です。お嬢様をお守りするためには、むしろちょうど良いかもしれません」
『メラゾフィス。あなた、まだ私のことを』
「私は旦那様と奥様にお嬢様のことを託されました。であるならば、この命が尽きるまで私はあなたをお守りいたします」
『メラゾフィス』
イイハナシダナー。
え、魔王泣いてんの?
これで感動できるの?
えー。
私の感性がおかしいのかなー?
「話は聞かせてもらった! 君たち、私のもとに来い! 私が責任もって保護してやる!」
あー。
魔王がなんかスイッチ入っちゃったよ。
まあ、いいか。
助けた手前、ここでじゃあはいさよならっていうのもなんだかなーって思うし。
「悪い話じゃないと思うよ。なんせ私ってば魔王だし。言っとくけど、この世界で私に勝てるやつなんかほぼいないからね。そんな最強の私の保護を得られるっていうのはお得だと思うよ。君らを襲ってたあの連中は私が目を光らせてる限り手を出してこれないだろうし。おまけに、君らもうまともに人族社会では生きていけないだろうし。ならいっそ、私と一緒に魔族領に行かないかい?」
吸血っ子とメラが顔を見合わせる。
「私はお嬢様の決定に従います」
『わかった。けど、少し考えさせてください』
「いいよいいよー。大いに悩んでくれたまえ」
『あと、いろいろ話も聞かせてくれますか?』
「こっちが答えられることならなんでも」
『じゃあ、あの、あれ、何を食べてるんですか?』
「ん? 白ちゃんの手料理。メニューはエルフ肉野菜炒め」
吸血っ子の顔がものすごく引き攣った。




