エルフの里攻防戦⑧
【シュン】
背後で先生が意識を失う気配があった。
傷は深いけど、致命傷ではないはずだ。
「アナ、先生の治療を」
「はい」
急いで駆けつけたため、肩で息をするアナに追い打ちをかけるようだが、仕方がない。
俺は千里眼で前線の様子を観察していた。
そして、ユーゴーが現れたのを見て、すぐさま駆けつけたのだ。
エルフの指示を無視した勝手な行動だが、ここでユーゴーを仕留めることは大きな意味を持つ。
それで独断専行を帳消しにしてもらいたい。
それに、ユーゴーだけは俺の手で決着をつけなければならないと、そう思っていた。
「ハイリンスさんは先生とアナを守っていてください」
「承知した」
短く、ハイリンスさんが首肯する。
普段だったら俺1人で敵の大将とやりあうことを止めるだろう。
けど、今回ばかりは俺も譲れない。
それをハイリンスさんは察してくれたんだと思う。
「では、私はユーリの相手でもしていますわ」
「カティア、ユーリは」
「わかっています。かつての私と同じ。殺しはしませんわ」
カティアの顔には、複雑な感情が見て取れた。
ユーゴーに対する怒り。
ユーリに対する哀れみ。
それだけではなく、ユーリにはかつての自分の姿を重ねて見ているのかもしれない。
同じユーゴーに洗脳されていた身として。
何かが違っていれば、今俺の隣に立っているのは、逆だったかもしれないのだ。
カティアもユーゴーに対しては並々ならぬ強い思いがあるはずだ。
けど、それを抑え込んで、俺に譲ってくれた。
その意志を無駄にはしない。
「あーあーあー。岡ちゃんだけじゃなくてお前もいたのかよ」
「ああ。お前を倒すためにな」
「ハッ! ウケる。お前が? 俺を? できるわきゃねえだろうが!!」
ユーゴーの体から、この場を支配するかのような圧力が吹き出す。
俺は剣を構えながら、ユーゴーを鑑定する。
『人族 LV61 名前 ユーゴー・バン・レングザンド
ステータス
HP:3169/4831(緑)(詳細)
MP:1542/1711(青)(詳細)
SP:2577/2577(黄)(詳細)
:2663/3255(赤)+0(詳細)
平均攻撃能力:3889(詳細)+400
平均防御能力:1255(詳細)+400
平均魔法能力:998(詳細)+200
平均抵抗能力:2384(詳細)+200
平均速度能力:2939(詳細)+400
スキル
「HP自動回復LV6」「MP回復速度LV2」「MP消費緩和LV2」「SP回復速度LV7」「SP消費緩和LV7」「魔力感知LV3」「魔力操作LV2」「魔神法LV2」「魔力付与LV2」「魔力撃LV1」「破壊強化LV4」「斬撃強化LV4」「打撃強化LV2」「貫通強化LV1」「衝撃強化LV1」「外道攻撃LV4」「闘神法LV2」「気力付与LV2」「気力撃LV5」「剣の天才LV4」「投擲LV2」「立体機動LV2」「連携LV2」「統率LV4」「集中LV10」「思考加速LV3」「予測LV1」「演算処理LV1」「記憶LV1」「命中LV8」「回避LV8」「隠密LV3」「無音LV1」「無臭LV1」「鑑定LV10」「征服」「自失」「水魔法LV1」「雷魔法LV1」「呪怨魔法LV1」「外道魔法LV2」「魔王LV1」「矜持LV2」「激怒LV4」「過食LV3」「強欲」「色欲」「破壊耐性LV1」「打撃耐性LV2」「斬撃耐性LV2」「状態異常耐性LV3」「外道耐性LV4」「苦痛耐性LV7」「視覚強化LV3」「聴覚強化LV2」「嗅覚強化LV2」「味覚強化LV2」「触覚強化LV2」「神性領域拡張LV3」「天命LV10」「魔蔵LV2」「瞬発LV5」「持久LV5」「剛力LV8」「堅牢LV4」「術師LV2」「護法LV2」「疾走LV9」「禁忌LV9」「n%I=W」
スキルポイント:217
称号
「魔物殺し」「強欲の支配者」「味方殺し」「人族殺し」「色欲の支配者」「人族の殺戮者」「無慈悲」「魔物の殺戮者」「狂乱の主」「覇者」「率いるもの」「王」』
ちぐはぐなステータス。
全体的に低いが、数の多いスキル。
端数がある中途半端な数字のスキルポイント。
これが強欲によってユーゴーがかき集めた力。
一部強力なスキルは、おそらく称号の効果によって得たものだろう。
色欲と強欲の支配者の称号で得られるスキルは強力だろうし、狂乱の主なる俺も見たことがない称号がある。
そして、気になったのが魔王のスキル。
魔王と勇者のスキルは、大量のスキルポイントを使うか、熟練度によって獲得することはできる。
ユーゴーは勇者を自称しているので、わざわざ自分から魔王のスキルを得るとは思えない。
つまり、ユーゴーは熟練度によって魔王のスキルを得たことになる。
魔王のスキルを得るための熟練度の稼ぎ方は、俺も知らない。
ただ、勇者のスキルはそれらしい行動をすれば得られることがあると言われている。
現にハイリンスさんは勇者のスキルを熟練度によって得たという。
つまり、勇者と対になる魔王のスキルも、おそらくは勇者と同じような条件があると思われる。
ユーゴーはそれを達成した。
達成してしまった。
闘神法と魔神法を発動し、ステータスを底上げしたユーゴーを見据える。
その顔には、狂ったような笑がある。
もう、後戻りができなくなってしまったような。
俺は静かに、そんな元級友に剣を向けた。




