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師匠を求めて3千里

 魔力を練り上げる。

 ダメじゃ。

 まったくもってなっていない。

 今まではこれで良かった。

 じゃが、あのお方の魔法を目にしてしまうと、儂の魔力操作が児戯にも思えてくる。

 

 構築速度。

 まるで亀の歩みのよう。

 構築練度。

 まるで砂上の楼閣のよう。

 魔力流動。

 汚泥に塗れた下水路のよう。

 完成魔法。

 最早見るに耐えん。


 なんということじゃ。

 今まで魔導にこの身を捧げ、打ち込んできた集大成がこれか?

 儂は今までこんな稚拙な魔法に満足しておったのか?

 そんな儂程度の腕で、帝国最高の魔法使いじゃと?


 人族の限界を悟ってしまう。

 余りにも低い限界を。

 なぜ、儂は人族に生まれた?

 こんな脆弱な種族では、到底あのお方がおわす高みになど追いつけない。

 

 儂はそんな暗鬱とした気分を引きずっておった。

 悪夢、そう呼称されるようになったあのお方の討伐に失敗した儂は、謹慎処分を言い渡され、帝国の首都にある屋敷に軟禁されておった。

 まあ、軟禁などとは言うが、転移魔法が使える儂を拘束しておくことなどできん。

 帝国の上層部もそれが分かっているからこそ、厳しい処分を言い渡さず、謹慎などという罰でも何でもない処分でお茶を濁しておるのだろう。

 帝国としては儂を手放したくないという思惑もあるじゃろうしの。


 帝国最高の魔法使い、それも、使い手がいない空間魔法の使い手でもある儂を帝国がみすみす手放すとは思えん。

 儂が帝国を見限るような動きをすれば、あの手この手で引き止めようとするじゃろう。

 それでもダメなら確実に暗殺者が仕向けられるじゃろう。

 帝国も貴重な戦力を失いたくないというのが本音のはず。

 であれば、儂のご機嫌を損なうようなことは早々出来んというわけじゃな。


 聞けば、儂と同様に生き残った召喚士のブイリムスは、失った使い魔の補充と新兵の訓練という名目で、魔族領との境目にある魔の山脈に放り込まれたという。

 魔の山脈には強力な魔物が生息しており、時折魔族も策謀を巡らせている危険地帯。

 半死半生の怪我を負って、使い魔をすべて失った男に行かせるような場所ではない。

 しかも、付けられた部下はどれも癖のある問題児ばかりだという。

 ブイリムスも帝国では充分優秀な将なのじゃが、使い魔のいない召喚士に用はないということか。

 せっかく助かった命、無駄に散らせてほしくはないが、こればかりは本人の力次第。

 儂には無事を祈ることしかできん。


 鬱々とした気分で日々を過ごしておると、とある噂が儂の耳に入ってきた。

 サリエーラ国に蜘蛛の神獣が現れた。

 すぐにピンときた。

 あのお方に違いない。

 サリエーラ国はエルロー大迷宮の出入り口があるオウツ国のすぐ隣。

 距離、かかった日数、ともに計算が合う。


 オウツ国と帝国は必死に隠そうとしておるが、帝国の部隊が魔物1匹に返り討ちにあった挙句、その魔物を迷宮の外に連れ出した、という噂が広まっておる。

 連れ出したわけではないが、あの後何らかの方法であのお方が外に出たのは間違いなかろう。

 大迷宮の出入り口を守護する砦が崩壊したという話は、最早隠しだてできていないのが現状。

 このタイミングで現れる、砦を崩壊させうる魔物など、あのお方以外考えられん。


 そして、サリエーラ国に現れたという神獣の話である。

 聞くに、盗賊を撃退し、領民を癒し、魔物を狩る。

 まさに守護者。

 神獣と呼ぶに相応しき業績。

 

 いてもたってもいられなくなった儂は、謹慎処分を無視してサリエーラ国にとんだ。

 まずは行ったことのあるオウツ国へと転移し、そこからは街道を移動する。


 万能に思える転移じゃが、行ったことのある場所にしか転移できないという欠点がある。

 使い手も儂以上の空間魔法使いと言われた先代勇者が崩御した今、人族では儂しか使えるものはおらんじゃろう。

 行軍で転移が使われないのは、そういった理由があるからじゃ。

 圧倒的な使い手の少なさは、まずこの魔法に適正があるものがほとんどいないことが最大の原因じゃ。

 1万人に1人いるかどうか。

 そして、その中でも他の魔法とは比べ物にならんほど複雑な魔術構築をこなせるもの。

 この2点をクリアしなければ、空間魔法を扱うことはできん。

 

 それを、あのお方はいとも容易く転移を行っておった。

 儂ですら、転移の予兆をほとんど感知することができなんだ。

 余りにも自然な空間の揺らぎ。

 美しいとさえ思える転移じゃった。


 馬車を乗り継いでオウツ国からサリエーラ国へ。

 じゃが、オウツ国からサリエーラ国に入るのに一悶着あった。

 どうも何か事件があったようで、両国の間に緊張が走っておるようだ。

 全く煩わしい。

 儂にはこんなところで油を売っている暇はないというのに。


 多少足止めされたが、最後は金の力に物を言わせて押し通った。

 儂も当代限りとは言え帝国貴族。

 金など掃いて捨てるほどある。

 何より、儂には家族がおらんからな。

 儂しか使わない金など、いくらあっても意味のないものよ。


 そうしてようやく噂の神獣がおるという、サリエーラ国のケレン伯爵領に到着した。

 じゃが、そこで儂を待っていたものは、予想だにしなかった話だった。


 神獣様、教会の手の者に討たれる。

 というな。

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