149 もしもしこちら邪神です
見なかった。
私は何も見てない。
『もしもし。Dです』
あーあー。
聞こえない聞こえない。
『ああ、なんということでしょう。私の手にはなぜか蜘蛛自爆ボタンが』
ごめんなさい許して!
ていうか、何そのボタン!?
いつの間に作ったのさ!?
『冗談ですよ。そんなものありません。なくても蜘蛛を汚い花火に変えることくらいできますから』
え、えー。
全然安心できないんですけど。
『ご安心を。あなたのように面白可笑しい人材を無駄に散らすようなことはしません』
あ、そうっすか。
光栄っす。
じゃ、そういうことで。
『自爆』
ごめんなさい!
『冗談ですよ。冗談』
全く抑揚のない声で言われると冗談に聞こえないって。
『よく言われます』
で、ホントは何の用なのさ?
『単なるお祝いですよ。不死に至った』
ああ。
ねえ、この不死ってなんでこんなスキル作ったの?
『人は満たされると最終的に何を目指すと思います?』
え?
『富、名声、武力、権力、そして不老不死。どこの世界でも人の目指すものなんて、その程度です。そして、それが本当に手に入ると知ったら、どうすると思います?』
何が何でも手に入れようとするだろうね。
ああ、そういうこと。
『そういうことです。たとえ手が届かないとわかっていても、人は縋りたくなるものです。何を犠牲にしてでも。そうして頑張って頑張って、結局は手に入れられずに力尽きる。その頑張った結晶は管理者が美味しく頂く。実に効率的だと思いません?』
相変わらず性格の悪いことで。
『邪神ですので』
じゃあ、それ私ポンと手に入れちゃったんだけど、どういうこと?
『ザナ・ホロワはもともと不死の魔物という設定ですから。まさか本当に進化してしまう個体が出るとは予想していませんでしたけれどね』
おーい。
進化しちゃいけない魔物だったんかーい。
『いけないということはありませんよ。ただ、最初のゾア・エレも非常に発生が希な種ですし、発生したとしても進化前に死ぬように設計してありましたから』
え?
何それ?
『ゾア・エレには腐蝕攻撃がありましたね?けれど、腐蝕耐性はありませんでした』
え?
そうなの?
『はい。ですから、普通のゾア・エレは腐蝕攻撃を使った瞬間、自分も死ぬことになります。良かったですね。耐性を持っていて』
危な!?
マジかー。
私知らないうちに死にかけてたのか。
『耐性を持っていたおかげで鎌が使えなくなる程度で済んでいましたからね。普通なら即死です』
なんていう欠陥品。
『相手を殺して自分も死ぬ。そんな様から不吉を象徴する魔物と言われるようになったくらいですからね』
あー。
言われてみればそりゃ不吉だわな。
はた迷惑この上ない。
『エデ・サイネも本質は変わりませんし、より強力な死滅の邪眼を得ていますから。進化する前に死んでしまいますね』
今までザナ・ホロワに進化した個体っているの?
『いません。おめでとうございます。あなたは世界で唯一のユニークモンスターになりました。パチパチ』
嬉しいんだけど、あんたに言われるとなんかあんま嬉しくならない。
『せっかく祝福してあげたというのに』
いやー、だってねえ、今までのあれとかこれとかを見てると、ねえ。
『邪神ですから』
ハア。
禁忌といい不死といい、ホント性格悪いわ。
『もう少し品のある言い方にしてくれると嬉しいですね。例えば、純然たる悪意とか』
自分で言ってる時点でアウトだわ。
あんたえげつなさすぎでしょう。
『禁忌はよくできたシステムだと思いません?』
思わないね。
私みたいな半分部外者だから不快な思いする程度で済んだけど、元からのこっちの世界の住人は禁忌カンストした時点で発狂するんじゃない?
『過去に禁忌をカンストさせた人間は、碌な最期を迎えていませんね』
でしょうね。
『それを含めての、禁忌ですよ』
やっぱえげつないじゃん。
まあ、自業自得なんだろうけどね。
『それで、あなたは禁忌の内容を知り、今に至ると』
だね。
我ながらどうかしてると思うよ。
ちょっと前までの私だったらそんなん知るかって言ってふて寝してただろうね。
『それもこれも、あなたが並列意思を使って活動している影響でしょうね』
だろうねー。
『あまり自覚がないようなので言っておきますが、あれはシステム外攻撃ですよ?』
あ、そうなの?
『少なくとも私はあなたが行っているようなことができるスキルを実装した覚えはありません』
へえ。
てことは、私は神の領域の片鱗を使ってるって事?
『そうなります』
ふふふ。
これは私が神になる日も近いようだな。
『期待していますよ』
いや、そこ華麗にスルーしないで突っ込んで欲しかったなー。
『本心ですよ。私はあなたが私たちの領域にたどり着くことを期待しています』
本気?
『ええ』
あんたの目的って、何?
『言ったはずですよ。娯楽だと』
ああ、そうね。
そうだったわ。
『今日は気分がいいので、少しサービスして色々とレクチャーして差し上げますよ?』
マジで!?
『ええ。私の教えられる範囲でしたら、その世界のこと、色々教えて差し上げます』
おお、マジっすか。
じゃあ、何を聞こうかな?




