王都の戦い③
シュン視点
「あー、シュン。聞きたいんだが、いつの間にこんな騎竜を育てたんだ?」
俺たちは今、空中を飛んでいる。
竜の背に乗って。
「えーと、こいつ、つい最近までは確かに竜なんてもんじゃなかったんですけど、召喚のスキルで契約してたら、いつの間にか進化してました」
俺たち4人を乗せても余裕があるほどの巨大な白い竜。
元々は俺が召喚の進化前のスキルである調教で従えていた、ペオラートという名前の割とそこらじゅうにいる蜥蜴に似た姿の魔物だった。
魔物といっても掌の上に乗るくらいのサイズで、害もほとんどない。
それが、いつの間にか進化して下位竜になっており、勇者になってから再び呼び出した時には、上位竜になっていた。
しかも、希少な光竜に。
「勇者補正ですかね?」
「でしょうね」
カティアと先生がそう言うように、たぶん俺が勇者になったことで、従僕の魔物にも影響が出たんだと思う。
他にも何体か契約している魔物がいるんだが、そいつらもみんな進化していた。
「このチート野郎め」
「わざわざ日本語で言うなよ」
言われると思ったけどさ。
「そろそろ隠密と迷彩で隠れるぞ」
俺の言葉に、皆が気配を殺す。
その上に、俺が迷彩を発動し、夜の闇に溶けるように消えていく。
あとは、無音で音を消せば、よほどのことがない限り地上からは発見できないはずだ。
そう思っていたのに、眼下に王都の街並みが見えてきたあたりで、俺は慌てて魔法の構築をし、放った。
「え?ひゃっ!?」
至近距離で魔法と魔法がぶつかり合い、激しい爆発が起こる。
「シュン!」
「狙撃されています!相手はかなりの魔法の使い手です!」
「馬鹿な!?この高空に向かって、正確無比な魔法を放つだと!?」
俺たちが飛んでいるのは、上空約1000メートルほど。
普通の魔法だったらこんな長距離にまで届くはずがない。
俺は千里眼を発動し、さっきの魔法を放った術者を探す。
探す必要がないほど、その老人は堂々と城の防壁の上にいた。
老人の魔術の構築を見る。
その完成度の高さに、思わず感嘆の声を漏らす。
それほどまでに、高度な魔法構築だった。
「第二射、来ます」
あらかじめ警戒を呼びかける。
俺は竜の手綱を握る。
高速で飛来する魔法を、紙一重で躱す。
竜には逆鱗と呼ばれる魔法減衰効果のあるスキルがあるが、過信はできない。
もはや発見されてしまっている以上、隠密行動にこだわる意味はない。
「加速します!しっかり捕まって!」
手綱を操作し、高空から一気に地上に向けて、落下するかのように加速していく。
老人が放つ魔法を避けたり迎撃したりしながら。
[あ、やべ。こりゃ、勝てんのう]
[ちょっ!?老師!?]
[やめじゃやめ。撤退するぞい]
そんな念話のやり取りを傍受する。
一瞬罠かと警戒したが、本当に転移でどこかへと消えてしまった。
驚いたことに、城の中に感じていた大きな魔力を持った人間全員がだ。
「え、終わり?」
拍子抜けしてそう呟いてしまった。
そのまま少しの間呆然とする。
「攻撃が来なくなりましたわね?」
「あ、ああ。どうやら、勝ち目がないって言って撤退していったっぽい」
「えらいあっさりと引いたものだな。これは、罠の可能性が高そうだ」
「いや、念話を傍受した感じではそんな雰囲気じゃありませんでしたね」
「どっちにしろ、慎重に行こう」
「はい」
しかし、気合いを入れ直して慎重に行くと、あっさりと城の中に潜入できてしまった。
「本当の本気で撤退したんですの?」
「かな」
ちょっと拍子抜けしてしまう。
光竜を送還し、今更かもしれないがもう一度隠密行動を開始する。
[先生、レストン兄様の現在地は?]
[南の尖塔にいます]
[わかりました]
念話で情報のやり取りをし、慎重に進んでいく。
城内は不気味なくらい静まり返っている。
人が一人もいない。
[変だ]
[罠、でしょうね]
罠を警戒し、慎重に進む。
けど、何も起こらないまま、あっさりとレストン兄様の監禁されている尖塔に到着する。
問題は、兄様の傍にあと二人ほど、人の気配があることだ。
千里眼を発動し、中の様子を見る。
[兄様の他に、人が二人。アナとクレベアです]
[様子はどうだ?]
[虚ろな感じです。十中八九洗脳を受けていると思います]
[了解。シュン、策があるといったが、人数が三人に増えてもなんとかなるか?]
[何とかします]
[とりあえず、襲いかかってくることも考えられます。戦闘の準備をいたしましょう]
[そうだな。まずは俺が突入しよう]
緊張感が増す。
ハイリンスさんが手で合図をし、突入していく。
そのあとに続く。
ハイリンスさんが盾を構えたままギョッと固まった。
俺たちの突入と同時に、三人が三人とも自死をはかったのだ。
ハイリンスさんが硬直から復帰し、なんとか止めに入ろうとする。
けど、間に合わない。
手に持った太い針のようなものを、躊躇いもせずに自身の目に突き刺す。
針が深々と眼窩に埋没し、その先にある脳を破壊する。
この世界の防御力というものは、たとえ目などの地球では柔らかい部位であろうと発揮される。
触感はそのままに、傷がつきにくくなる。
そのはずなのに、その針はなんの抵抗もなく三人の目の中に入っていってしまった。
どうやら、針に何かしらの付加効果があったようだ。
「クソッ!?」
ハイリンスさんが倒れる三人の体を、剣と盾を放り投げて器用に受け止める。
「シュン!回復を!」
ハイリンスさんにもわかっているはずだ。
もはや手遅れであると。
けど、俺はそのハイリンスさんの言葉に従う。
背後ではカティアと先生が苦い表情をしているのが分かる。
けど、心配はない。
三人の目から針を引き抜き、俺は回復魔法を構築する。
特殊な回復魔法を。
破壊された肉体が再生する。
同時に、止まっていた心臓が鼓動を再開する。
なくなりかけていた魂が蘇る。
《熟練度が一定に達しました。スキル『禁忌LV6』が『禁忌LV9』になりました》
聞こえてくる神言。
俺以外には聞こえないとわかっていても、心臓が跳ねそうになる。
先生に禁忌があるのを、俺は知っていた。
なぜなら、俺にも支配者スキルがあるのだから。
「慈悲」のスキルが。
そして、その効果は死者蘇生。
代償は、一人蘇生するごとに、禁忌のレベルが上がること。
だから、俺も先生のことを言えない。
俺自身も、禁忌持ちなのだから。
驚くハイリンスさん達に目で合図を送り、蘇生した兄様たちの体を抱き上げる。
そして、俺たちは城から脱出した。
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「すまんのう。本物の勇者は儂の手に余るんで逃げてきたわい」
「構わねえよ。今頃は大切な人の死に様を目撃して呆然としてることだろうよ。ククク」
「ああ。じゃからあんなに城の中を空っぽにしておいたのか」
「あの甘ちゃんのことだから絶対に来るって思ってたからな。あいつが泣き叫んでるところを見れないのはちょっと残念だが、俺の本命はこっちだからな」
「まったく。戻ってきたばかりじゃというのに、老人をこき使いおって」
「文句があるなら強制的に働かせてやってもいいんだぜ?あんたを洗脳で縛らないのは、あんたくらい強くなると洗脳するのも一苦労するってだけだからな。苦労はするけど、できなくはねーんだぜ?」
「わかっとるよ。じゃからちゃんと仕事はこなしておるじゃろうが」
「それでいいんだよ。それじゃあ、エルフの里を壊滅させに出陣するとしようか。アハハハハ!」
(まったく。マジで見切りをつけて隠居してしまったほうがいいかのう?)




