143 蜘蛛VS地龍アラバ⑥
上は蜂。
下は火。
これなーんだ?
正解は、今の私の状況だよ、畜生!
おい、蜂。
お前ら鬱陶しいわ。
なんでこの状況で私に襲いかかってくんのよ!?
蜂の攻撃なんかいくら食らってもダメージにはなんないけど、その隙が命取りになりかねない今の状況では勘弁してくれ!
地面は今だに燃え盛っている。
その中心でアラバは私に向けてブレスを吐く。
空中でそれを避ける。
ついでに向かってきた蜂を鎌で両断。
落ちていった死骸が火炎に焼かれる。
火炎の中心にいるアラバも、無傷ではない。
無効とは違って、耐性だけではダメージを受ける。
それがたとえ自分で放った魔法だとしても。
火炎耐性は火耐性の上位スキル。
いきなり上位スキルを取れるっていうのもすごいけど、それでもやっぱりダメージを0にすることはできない。
今のアラバは、文字通りの身を焦がしながら私を討つ機会を窺っている状態。
HPの減少は高速回復のおかげでだいぶ遅い。
けど、徐々に、確実にその身は炎に焼かれていっている。
このまま逃げ続ければ自滅しないかなー。
なんて、甘いわけがないよね。
アラバの周囲の土が、アラバを守るように隆起する。
お得意の大地魔法で、燃え盛る火炎をガードした。
HPが急速に回復し始める。
激戦の間に、HP高速回復のスキルもレベルが上がっている。
治療魔法でもかけてんのかって疑うくらいのスピードでHPが回復する。
あー。
戦いの最中に成長するとかお前はどこの主人公だと言いたい。
そんな格好いい展開は主人公にのみ許された特権だよ?
チートだよチート。
卑怯だわー。
勘弁して欲しいわ。
ぶっちゃけよう。
正攻法での私の勝ち目はもはやない。
たとえ並列意思を全員戻してもムリだ。
それほどアラバの戦闘能力は激増している。
それを証明するように、縦穴の壁が燃え出す。
下どころか、横一面も火炎に包まれる。
地のあるところすべて火で埋め尽くされる。
私の逃げ場は地の届かない空のみ。
そして、その空さえ蹂躙するように、アラバの口腔に膨大なエネルギーが貯まる。
今まで撃てなかったアラバの究極の一撃。
それが、大地と火炎に守られ、ついに解禁された。
アラバが天空を貫くように、極大のブレスを吐く。
壁に広がる火炎さえ吹き散らすかのごとく。
地下の底から、天にまで届けと一条の光線が迸る。
という光景を想像した。
イヤイヤ。
あんなもん食らったら消し炭ですよ、消し炭。
ムリに決まってんでしょ。
転移で逃げましたとも。
現在地、上層と中層の間の、アークの死骸を放置していたところ。
流石に広大な迷宮の反対側とあって、激闘の余波は全くない。
これで、ここまで地響きとかあったらどうしようかと。
世界が崩壊するわ。
あー。
一休み。
アークをちょっと食べる。
相当SPも消費してたからね。
ここらで一旦補給しよう。
うわ、マズ。
アークを食べながらマーキングしたアラバのステータスと現在位置を確認する。
アラバは動いていない。
私を仕留めたと思って感慨に耽っているのか、それとも仕留め損なったと悔やんでいるのか。
どっちでもいいけどね。
すぐに戻るし。
私の毒は既にアラバの身を蝕んでいる。
本人はまだ気づいていないだろうけどね。
けど、私を倒さない限り、その毒はどんどん侵食していく。
まだ取り返しのつかないようなレベルじゃないけど、いずれはそうなる。
そうなれば、私の勝ちだ。
正攻法でHPを削りきれないのなら、別のアプローチをすればいい。
アラバは勘違いしてる。
私は闘争を生業とする戦士じゃない。
欺き、罠にかけ、相手を甚振る卑劣な狩人だ。
罠にかけることこそ私の最も得意な戦法。
毒をかけることこそ私の最も得意な武器。
アラバは既に私の術中。
アラバは既に私の毒を受けている。
あとは、私が殺されないように、じっくりと毒が侵食していくのを待てばいい。
その殺されないようにっていうのが難しいところだけどね。
不味いアークを食べてSPを回復させる。
飽食のストック分も食べる。
けど、アークの巨体はまだまだ残る。
これならしばらく食には困らないかな。
よし。
それでは再び戦場に舞い戻るとしますか。
転移。
アラバからは少し離れたところに転移する。
空間感知を取得したアラバの目の前に転移すると、手痛い攻撃を食らってしまうかもしれない。
と、思っていたら、転移したその場所に飛んでくるブレス。
慌てて回避。
転移したばっかりだから、未来視も見えなかった。
ちょっとだけ背中をかすって、ブレスの弾が通過していく。
集中しろ。
相手は今まで戦ってきた魔物の中で、間違いなく最強。
その相手には、一瞬の油断が命取りになる。
今のブレスは、完全に私の転移してくる予兆を察知して撃ったものだとわかる。
もう転移も気安く使えない。
逃げるだけならいいけど、戻ってくるときが最大の危険を伴う。
地面の火炎はまだ燃えている。
けど、壁面の火炎は消し飛んでいる。
ついでにあれだけブンブン飛び回ってた蜂どもも。
マジで私の想像した通りに、壁面の火を吹っ飛ばして、頭上の蜂を巻き込んで天までブレスが昇っていったっぽい。
転移が危ないって言っても、あのブレスだけは転移を使って避けなきゃ無理だわ。
私の回避力でどうこうできるレベルじゃない。
避ける隙間がなきゃ避けようがないもんね。
けど、大技であるが故に、消費も半端じゃない。
壁面を覆うほどの規模の焦土の発動に加え、極大ブレスを使ったアラバのMPはだいぶ減っている。
あのブレスをもう一度使うには、MPの回復を待たないといけない。
さて、そんなアラバの次の手は何かな?




