142 蜘蛛VS地龍アラバ⑤
ちょっと待って欲しい。
いくらなんでもそれはないだろ。
糸で拘束しても多分倒せはしないかもなー、とは思ってたよ。
たとえばブレスを自分に向けて撃つとか。
全力のブレスなら、流石に私の糸も耐えられないと思う。
それなら、多少自分にもダメージが入るけど、大地無効を持っている限り、アラバ自身が致命傷を負うことはない。
私に無防備なまま魔法を撃ち込まれ続けるよりも、よっぽど現実的な脱出手段だと思う。
私が考えつくんだし、アラバがそれを実行してもおかしくはない。
けど、アラバのやったことは、私の予想していないことだった。
完全に当てが外れたといっていい。
しかも、最悪な方向に。
スキルポイントはレベルアップで手に入る。
けど、どうもそれ以外にも手に入る方法があるっぽい。
種族としては同格であるはずのアークタラテクトとかのスキルポイントを見ると、明らかに私のほうが少ないからだ。
ステータスの差は生きてきた年月の差で説明できる。
レベルアップしなくても、日々生きてるだけでステータスは徐々に上がっていく。
私は野生の魔物と違って、積極的にレベル上げをしてるから短い期間で急激に成長してきた。
その分レベル以外でのステータスの上昇値が低い。
けど、普通の魔物は餌を狩る時以外はそんなに好き好んで戦おうとはしないと思う。
だから、レベルが上がるのも遅い。
どれだけの年月をかけて、成長してきているのかはわからないけど、私とのステータスの差を見る限り、相当な長さだと推測できる。
アークと私の魔法と速さ以外のステータス差は、2000以上。
1日1ずつステータスが上がるって計算でも、私とは生きてきた年月が2000日、6年弱違うことになる。
1日1ずつステータスが上がるなんてことはないから、実際にはもっともっと長い年月が経ってるはずだ。
なら、スキルポイントも、生きてきた年月が長ければ、一定量貰えるんじゃないだろうか?
たとえば誕生日に100ポイントとか。
いや、たぶん違うと思うけどさ。
けど、年月が経つことによってポイントが貰えるって推測は当たってると思う。
そうでもないと、私とのスキルポイントの差が説明できない。
もしかしたら、私の知らない未知のポイント取得条件があるのかもしれないけどね。
まあ、何が言いたいのかというと、恐らくとんでもない年月を生きてきたであろう地龍アラバには、それに見合うだけのスキルポイントがあった。
今まで見てきた魔物もそうだったけど、恐らくアラバはスキルポイントを生まれてきてから一度も使ったことがない。
ポイントを使って得たようなスキルが見当たらないし、何より膨大なポイントを無駄に抱え込んでる時点でそうと判断できる。
もったいないけど、魔物にそんなポイント使えって言っても通じないだろうし、使わない分にはあってないようなもんだから、私も気にしないようにしてきた。
そのアラバのスキルポイントが、減った。
それも、あったポイントを、全て使い切るような勢いで。
41100あったスキルポイントが、たったの100になる。
そして追加されたスキルに、私は息を呑む。
「獄炎魔法LV1」「火炎強化LV1」「火炎耐性LV1」「暗黒耐性LV1」「空間感知LV1」。
私の弱点、火の最上級魔法である獄炎魔法。
その魔法を強化する、火強化の上位スキルである火炎強化。
自らの魔法で傷つかないため、もともと持っていた火耐性をさらに高め、火炎耐性を取得。
私の主武器である暗黒魔法に抵抗するための暗黒耐性。
転移対策だと思われる空間感知。
全てのスキルが私のためだけに揃えられたスキル。
文字通りの全力を注ぐためのスキル。
私を倒すことだけを考えて取得したスキル。
長い時をかけ、積み上げたそれを、私のためだけに使い切った。
しかも、ポイントとは別に、死闘によって開花したスキルもある。
「集中LV1」「予測LV1」「並列思考LV1」「演算処理LV1」「外道耐性LV1」
よっぽどこの危機をどうにか脱出する術を、真剣に考えたんだろうね。
流石にこの戦いの最中に、私の思考加速と予見の黄金コンボにまでスキルが進化するとは思えないけど、厄介さが増したことに変わりはない。
外道耐性までついちゃったから、外道魔法はもう通用しないと思ったほうがいいかもしれない。
破魂は別だけど、あれを使うなんてありえないし。
しかし、やばい。
これは、やばい。
今まで相性の差は少なからずあった。
けど、対策をされたことなんか一度もなかった。
アラバはもともと相性がいいとは言えない強敵。
その強敵が、私の対策をしてきた。
アラバを拘束する糸が焼き切れる。
アラバを中心に、地面が赤熱していく。
大地が焼ける。
獄炎魔法レベル1の魔法、焦土。
広範囲の地面を火炎が埋め尽くす地獄の原に変化させる、範囲殲滅魔法。
しかも、この魔法の恐ろしいところは、効果が持続するということだ。
私は既に上空に逃れている。
けど、眼下の大地は見渡す限り轟々たる炎熱が埋め尽くしている。
大地はもともとアラバのフィールド。
それが、完全に私のアウェーとなった。
火炎が全てを飲み込む。
余波だけで熱い。
地上に残されていたグレータータラテクトらの死骸が燃え尽きる。
あ、ああ!?
私のご飯が!?
さっきまでのアラバとの死闘で結構な数の死骸が吹っ飛んでたけど、この火炎のせいで完璧になんもなくなった!
なんてこった。
よくもやってくれたな!
ご飯の恨み、晴らさでおくべきか!
対策?
それすら超えてみせるわ!
かかってこいや!




