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116 蜘蛛VS火龍④

 戦いが終わり、火龍は自身が作り上げたマグマの海を見下ろす。

 そこには配下の魔物の姿はあれど、蜘蛛の姿はない。

 配下の魔物には炎熱無効があるが、蜘蛛にはそれがない。

 火龍の最大のブレスの直撃を受けて生きていられる道理はなかった。


 とでも思ったかバカめ!


 火龍の上空に巨大な毒の水玉が発生する。

 その毒はさっき私の体を包んだ弱毒とはわけが違う。

 麻痺を最大に乗せられた、強力な致死毒、蜘蛛猛毒だ。

 猛毒は勝負がついたと思い込み、無防備になっていた火龍に直撃する。

 巨大な猛毒の塊は、火炎纏の防御を突破してその身を侵食していく。


 かーらーのー、渾身の鎌攻撃!


 猛毒の水玉によって一瞬消えた炎の隙を付いた完璧な一撃。

 その攻撃には私のありったけの力が込められている。

 すなわち、猛毒攻撃と腐蝕攻撃のダブルコンボが!

 腐蝕でその硬い鱗を切り裂き、猛毒でその身の内部を蝕む。

 我ながらえげつないと思う、私の物理最強攻撃。


 火龍は苦しみの声を上げてマグマの中に落下していく。

 私は素早くくっつけていた糸を辿って天井に戻る。

 

 火龍にははっきりと私を葬る映像が見えたはずだ。

 きっと今頃は混乱しているに違いない。


 私が生き延びた経緯は簡単だ。

 そもそも私はあいつのブレスなんて食らっていない。

 それ以前に、天井から地面にすら降りていない。


 それを可能にしたのは、外道魔法レベル6幻夢の効果だ。

 私がずっと発動を見計らっていた、切り札その1。

 幻夢はいわゆる幻覚を見せる魔法だ。

 毒合成で生成された毒を飲み込みかけて慌てている、その心の隙に魔法をぶち込んだ。

 外道魔法もこういう隙を見て撃ち込まないと、逆鱗と自前の抵抗力で簡単にレジストされてしまうのが辛い。

 火龍には私が地面に降りたように見えただろうけど、実際にはそのまま天井に張り付いていたのだ。


 そして、勝負がついたと油断したそこからの奇襲攻撃。

 私の最強の物理攻撃の前に、さすがの火龍も大ダメージを受けたというわけだ。


 幻覚を使って逃げることも一瞬考えた。

 けど、ここで逃げたらダメだ。

 逃げてばかりの蜘蛛生。

 けど、それじゃいつまで経っても、あの人間にマイホームを焼け出された時から変われない。

 誇り高く生きる。

 その目標を達成できない。

 私のプライドはいつまでたっても取り戻せない。

 それはダメだ。

 私は傲慢の支配者。

 傲慢たる私は誇り高く生きなければならない。

 だから逃げない。

 たとえ勝ち目が薄かろうと、勝ち目が絶対にないわけじゃない限り、逃げ出さない。


 ここで私は龍に勝つ。

 龍に勝って今までの弱い私にさよならを言おう。

 そう、忌々しい龍に勝って。


 …?

 忌々しい?

 あれ?

 地龍のことを怖いとは思ったけど、忌々しいと思ったことはなかったはず?

 あれ?

 この感情はどこから来てるんだ?


 と、今はそんなことどうでもいい。

 でかい一撃をお見舞いしたといっても、以前不利な状況に変わりはない。

 なんせ私のHPは1。

 忍耐が発動している状態。

 少しずつ削られた上で、さっきの攻撃の反動でこうなった。


 腐蝕攻撃は強力だけど、その分反動もでかい。

 けど、今回のダメージはそれだけじゃない。

 火炎纏の熱が、毒をぶっかけて鎮火した状態ですら私にダメージを残したのだ。

 

 MPは、まだある。

 つまり、まだ死にはしない。

 けど、火龍の攻撃はどれも即死級。

 対する火龍も、私の渾身の一撃でだいぶダメージが蓄積したとはいえ、それでもまだ余力がある。

 加えて加勢に来た魔物ども。

 まだまだ不利な状況。


 私はマグマを避けて今度こそ本当に地面に降り立つ。

 火龍はまだマグマに沈んだままだ。

 他の魔物も、火龍のブレスの余波と、その直後に降ってきた火龍の体に押し潰されるような形になって、私に構う余裕がない。

 今がチャンスだ。


 私は闘いが始まってからずっと準備していた切り札その2を発動させる。

 ものすごい勢いでMPが減っていく。

 今の私の状態だと、MPの消費イコールで生命の消費に他ならない。

 けど、それでもこの魔法は対価を支払ってでも発動させる価値がある。


 そうだろ?

 魔法担当、1号(・・)2号(・・)

{おうよ!}

〈任せんしゃい!〉


 レベルアップした並列意思による、2人分の力を使っての魔法発動。

 2号がずっと準備を進め、1号が補助に回ってようやく発動が可能になるその魔法。


 さあ、今こそ開け、地獄門!


 途端、辺りが暗くなる。

 マグマから発せられる光さえ飲み込む極大の闇が地面から這い上がってくる。

 それはまるで、地下に存在する地獄の闇が、この世に漏れ出しているかのようだった。

 マグマを飲み込み、地面を飲み込み、魔物を飲み込む。

 溢れかえる闇はすべてを飲み込んでいく。


 深淵魔法レベル1地獄門。

 地獄の始まりを告げる、闇の最上位魔法。

 それが、この世に顕現した。


 闇は全てを飲み込み、収束し、唐突に地面へと吸い込まれて消えた。

 それはまるで、封印されたかのように。

 地獄の門が再び閉ざされたかのように。

 

 後に残ったのは私と、ボロボロになった火龍のみ。

 マジかい。

 あれすら耐えるか。

 けど、火龍の残りHPも少ない。

 MPとSPもほぼない。

 スキルの力を使ってHPに変換したに違いない。

 でないと、地獄門に耐えられた説明ができない。


 私も地獄門を使ったせいでMPがかなり減った。

 つまり、それだけボロボロってことだ。

 

 お互いボロボロ。

 勝負は次の一撃で決まる。

 

 火龍が選んだ攻撃方法、それは、最も原始的な攻撃。

 すなわち、体当たりだった。

 ああ、正解だ。

 MPもSPもないに等しい状態で、火龍の取れる最も有効な攻撃手段はそれしかないだろう。

 火龍の巨体とステータスなら、最も効果的な攻撃手段だろう。


 相手が私でなければ。


 私は蜘蛛だ。

 蜘蛛の最大の武器はなんだ?

 毒か、爪か、牙か?

 どれも違う。


 火龍の体が止まる。

 火耐性付与の万能糸によって。

 火耐性を付与されても、この中層では使えるのは一瞬。

 それで十分。

 火炎纏の剥がれた火龍の動きなら、一瞬だけとは言え止められる。

 

 そこに振り下ろされる私の鎌。

 片方はさっきの攻撃で潰れたけど、私の鎌は両手にある。

 そして、渾身の攻撃が火龍の体を切り裂いた。

重大なミスがあったので修正しました。詳しくは活動報告にて

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― 新着の感想 ―
いいね、こういう精神論や突然の覚醒ではなく、とんでも理論でもない、ちゃんとした戦術と前準備をもって強敵を打ち破る描写は実に素晴らしい。
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