115 蜘蛛VS火龍③
集まってきた魔物が参戦する前に決着をつけなければならない。
ただでさえ火龍の攻撃を避けるので精一杯の今の状況で、他の雑事に構っている余裕はない。
火龍の攻撃を避けるのと同時に発射した毒弾は、火龍の体に到達する前に消え去った。
逆鱗のスキル効果によって魔法の構築に干渉され、威力が弱まったところへの火炎纏の炎。
威力の弱まった毒弾では、火炎の鎧の前に燃やし尽くされるだけだった。
火龍自身はなんの迎撃アクションも起こしていないのに、毒弾はそれだけで無力化された。
即死級の攻撃力に、生半可な攻撃ではダメージを与えることすらできない防御力。
加えてスピードも私以上。
その気になれば、今の毒弾も回避と確率大補正のスキルの力とスピードで避けることもできたはずだ。
まったく、嫌になる。
呪いの邪眼のおかげでジリジリと相手のHPは減ってきてる。
けど、減ってるのは飽食の効果で底上げされた分。
私と違って、火龍の底上げされたHPは1200とスキルレベルの限界までストックされていた。
MPも同様。
SPだけは限界までストックされていなかったけど、それでもかなりの量があった。
はっきり言って、この量を邪眼で削りきるのはムリだ。
その前に私が力尽きる。
ステータスの減りも期待できない。
少しではあるけど減ってはいる。
けど、その減るスピードも他の魔物に比べるとかなり遅い。
効果が実感できるくらいにステータスが下がるには、これまた相当な時間がかかる。
やっぱりそれより私が死ぬほうが早いだろう。
一発逆転の可能性を秘めた麻痺の邪眼。
これも、あんまり期待しないほうがいいかもしれない。
火龍の状態異常耐性のスキルレベルが、2に上がっていた。
たまたま熟練度が限界近くまで貯まっていたのならまだいいけど、そうでない場合、私の麻痺の力が蓄積するよりも、相手の耐性が上がっていくほうが早いことになる。
さすがに完全に防がれているってことはないと思うけど、火龍が麻痺してくれるのを願うのは、都合が良すぎるように思えた。
あれもダメ、これもダメ。
そうなってくると、私に残された手段は限られてくる。
その中で最も効果的な方法、それは、毒を相手の耐性が上回るレベルで叩き込むしかない。
私の蜘蛛猛毒は私が持つ攻撃手段の中で、最も高い致死力を持ったスキルだ。
いかに状態異常耐性を持つ火龍でも、蜘蛛猛毒を食らって無傷でいられるとは思えない。
けど、一発じゃ多分コイツは死んでくれない。
ラッキーパンチを当てても、意味がない。
もっと確実に、しっかりと攻撃を当てなければならない。
けど、それには火炎纏が邪魔だ。
かすっただけでHPが削られるほどの激しい炎。
これを突破しないことには私はろくに攻撃をすることもできない。
できなければ、攻撃に転じてもただ焼かれるだけになってしまう。
思考を重ねる間にも、体担当は必死に火龍の攻撃を避けている。
攻撃を完全に捨て、回避に専念してやっとのレベル。
魔法担当が迎撃の魔法を撃っても、逆鱗と火炎纏のコンボの前に、あっさりと吹き飛ばされてしまう。
この前魔物を大量虐殺した毒霧も、火炎纏の前では無意味だ。
火龍が空中に舞い上がる。
それを見た私は急いで毒合成で目当ての毒を調整していく。
直後、火龍の口から、火炎が迸った。
極大のブレスが地上を襲う。
火竜スキルレベル10で覚える獄炎ブレスだ。
その広範囲殲滅の死のブレスは、周りの地面を吹き飛ばし、融解させ、あたりを新たなマグマの海に変える。
私は咄嗟にジャンプし、その上で毒合成によって弱毒を発動。
合成できる最大の量で生成し、その巨大な水玉の中に避難した。
ダメージ関連を最低に設定し直していたからHPの減りはそこまでない。
私が弱毒の水玉の中に避難したのと、火龍のブレスが大地を埋め尽くしたのはほぼ同時だった。
余波だけで弱毒が蒸発していく。
直撃を受けていないのに、HPが減る。
弱毒が蒸発し切る前に天井に糸を伸ばし、慌てて避難する。
そのまま脇目も振らず天井つたいに逃げる。
当然火龍が後を追って飛んでくるけど、追いつかれる前に新たに形成されたマグマの上から脱出することに成功した。
火球が私に迫る。
天井を蹴り、空中に身を躍らせる。
火球がさっきまで私のいた位置に炸裂する。
空中に投げ出された私の体は、そのまま重力に引かれて落下していく。
それを待っていたとばかりに、空中で迫る火龍の牙。
私は火龍に見えにくいように、こっそりと天井に飛ばしていた糸を引く。
それと同時に蜘蛛猛毒を麻痺付きで合成。
私の真下を火龍の体が通過していく。
火龍の体が空中できりもみする。
強化された私の視覚は、火龍が口を閉じる瞬間、慌てて身を捻って毒を飲み込むのを回避するのを目撃していた。
これまで中層の魔物をことごとく葬ってきた毒身代わりの戦法が敗れた。
けど、私はその火龍の隙を突いて、地上に再び降りることに成功する。
それが、失敗だった。
地上には、さっき火龍が呼び寄せた魔物が集まってきていた。
魔物に囲まれ、身動きのできなくなった私。
そこに、火龍の再びの獄炎ブレス。
私の体は、なんの抵抗も許されずに、その炎に飲み込まれた。
そして、抵抗すらできずに、あっさりとその体は炎に焼き尽くされ、消し炭さえ残らず消滅した。




