13 大変不名誉な称号を承りました
兄弟の襲撃を難なくやり過ごすことに成功した。
いやー。
コイツが馬鹿で助かったわ。
実際ガチの勝負になったら危うかった。
私は自分の特性をある程度把握している。
ゲームみたいにステータスを確認することはできないので、かなり手探りではあったけど、それなりに自分の能力を客観的に判断できていると思う。
そこから考えると、私の最大の武器は、糸と毒牙だ。
糸で拘束して、毒牙で止めを刺す。
この黄金コンボが私の常勝テクであり、逆に言えば、これが通用しない時、私の敗北が決定する。
それだけ私にとって、というよりも、私たち蜘蛛の魔物にとって、糸と毒牙は重要な武器なのだ。
それを、この馬鹿な襲撃者は全く理解していなかった。
私は、同じ種族が相手なのだから、先に糸で拘束したほうが勝利すると、戦いの結果を予想していた。
だから、あとはいかにして相手に糸を取り付けるか、その駆け引きが戦いの根幹になると予想していたのに、結果はこのザマ。
まさかなんの策もなく飛びかかってくるとか、アホなの? バカなの? 死ぬの? あ、もう死んでたわ。
むしろあんな馬鹿がよく今まで生きてたなーと、逆に感心するくらいだわ。
マイホームの外の魔物は、ぶっちゃけ今でも勝てると思えないんだけど、あいつはどうやって今まで生き残ってたのかな?
ま、考えても仕方ないし、もう死んじゃったしー。
そんでもって、私のテリトリーの中で死んだ奴がどんな末路を辿るのかというと、わかるよね?
私お腹ペコペコ。
見た目キモいけど、そんなことで気後れする精神なんて、最初に蛙を食べた時に投げ捨てた。
兄弟?
だから何?
もともと共食いするような種族なんだからいまさらでしょ?
というわけで、いただきまーす。
ふう。
御馳走様でした。
見た目はあれだけど、蛙よりもむしろ美味しかった。
やっぱあれかな?
蛙は毒と酸と両方あるのがダメなのかな?
まあ、これも毒持ちだから美味しくないことに変わりはないんだけど、蛙よりかはましだった。
と、人心地着いたところで、天の声(仮)の機械みたいな音声が聞こえてきた。
《条件を満たしました。称号『悪食』を獲得しました》
《称号『悪食』の効果により、スキル『毒耐性LV1』『腐蝕耐性LV1』を獲得しました》
《『毒耐性LV1』が『毒耐性LV3』に統合されました》
《条件を満たしました。称号『血縁喰ライ』を獲得しました》
《称号『血縁喰ライ』の効果により、スキル『禁忌LV1』『外道魔法LV1』を獲得しました》
ホワッツ?
え、何これ?
天の声(仮)が聞こえるといつも驚かされてばっかだけど、今回は驚いたというより、呆然としてしまった。
称号って、なんだって?
ちょっと落ち着かないか?
こういう時はあれだ、糸でも出して和んでいよう。
糸を適当に出してクルクル巻いていって、白い毛玉を作る。
ふう、ちょっと落ち着いた。
えーと、称号ね。
これは、あれか?
特殊な条件を達成するともらえるのか?
多分そうなんだろうけど、私がもらったのって、とてつもなく不名誉かつ猟奇的なものなんですけど…。
『悪食』って、称号っていうより悪口じゃん!
『血縁喰ライ』って、字面だけでアカンってわかるじゃん!
これって他の人には見えないよね?
鑑定のレベルが高ければ見えるかもしれない。
うわー。
もし見られたら一発でアウトじゃん。
ま、私モンスターだし、称号の前に人に姿見られた時点でアウトなんだけどね。
けど、字面を無視すればこれはとんでもなく大きいんじゃないか?
なんせ一気にスキルが4つも増えたし。
毒耐性は元から持ってたからあれだけど、天の声(仮)の言い草からして、熟練度に加算されたんじゃないかな?
こういう時詳しい情報が見れないのは不便だなー。
鑑定のレベルが早く上がってほしい。
それよりも気になるのは残り3つのスキルだ。
腐蝕耐性は、まあなんとなくわかる。
腐ったものでも食べれば熟練度が上がるかも知れない。
進んで食べようとは思わないけど…。
問題は残り2つだ。
禁忌って、やばそうな名前のスキルだけど、効果が全くわからん。
ぶっちゃけ想像もできない。
えー、説明文プリーズ。
効果が分かんなきゃ使いようがないよ。
外道魔法もそうだ。
使い方が全くわかんない。
何?
呪文でも唱えればいいの?
て言っても、私蜘蛛だから喋れないんですけど…。
キチキチっていう鳴き声っていうか、歯軋り?しか出せないんですけど…。
いや、喋れても呪文なんてわかんないし、使えないことには変わりないんだけどさ。
試しに心の中で「外道魔法」って念じてみる。
…
…
…。
うん、何も起こらん。
使えねー。
あれ?
棚ぼた的に称号ゲットしてスキルゲットって思ったけど、実質獲得できたの腐蝕耐性だけ?
いや、まあ、毒耐性も多分内部的にはプラスされてるんだと思うけどさー。
そう考えると、役に立ったのって、『悪食』の称号だけじゃね?
『血縁喰ライ』って、何の役にも立たなくね?
あー、考えてみたら、『血縁喰ライ』の称号の獲得条件が、そのまま血縁の誰かを食べるって条件なら、同じ称号持った兄弟が結構いっぱいいるはずなんだよねー。
でも、ここまでやってきたのはさっき私に食われたバカだけ。
ということは、『血縁喰ライ』の称号を得ても、戦闘能力とかそんな変わんないわけだ。
使えないんじゃ意味ないもんね。
なるほどー。
簡単な条件にはそれなりの理由があるってことか。
条件の緩い称号はそれだけ効果も低いと。
けど、称号なんてものがあるってわかったのは大きい。
称号を集めることができれば、効率よくスキルを集められるかもしれない。
ちょっと新たに称号を獲得できないか、色々と試してみるのもいいかもしれない。