人魔大戦④
【勇者ユリウス】
襲いかかってきた魔族を切り捨てる。
僕らは砦に攻めてきた魔族の軍を、側面から攻める遊撃部隊として動いていた。
初めは砦の上から迎撃戦をしていたんだけど、そのままだとジリ貧になりそうだと判断して、打って出ることにした。
僕らはまだまだ戦えても、他の部隊がもちそうになかったからだ。
それならばと、僕らは魔族軍の突破を試みた。
うまくすればこのまま突破して、大将格の魔族のもとまで行けるかもしれない。
大将さえ討ち取ることができれば、戦況を覆すこともできる。
魔族語で何かを叫びながら斬りかかってくる魔族。
何を言ってるのか、僕は魔族語が喋れないのでわからないけど、襲い来る剣ごとその魔族の体を両断する。
そのまま前に進む。
目の前の魔族が慌てて盾を構える。
走る速度を落とさずに剣を盾に向かって横薙ぎに振り抜く。
盾ごと後ろの魔族が真っ二つになる。
襲いかかってくる魔族をすべて一刀のもとに切り捨てる。
そのうち、魔族が怯んでくる。
「道を空けろ! 逃げるものを追うことはしない!」
かすかな期待を込めて叫ぶ。
けど、それで逃げ出す魔族はいなかった。
「いや、ユリウス。人族語で話しかけても通じんと思うぞ?」
ハイリンスの冷静な指摘に、僕はここが戦場だというのに恥ずかしさでちょっと居心地が悪くなった。
「けど、脅しとしては効いてますね」
見れば、周りの魔族たちは僕らの周りを囲みながらも、攻めることを躊躇している。
「ユリウスのでたらめな強さに恐れをなしてるでやす」
「このまま退いてくれれば話は早いんだけどね」
僕の呟きに、魔族の囲いが割れる。
そこから一人の魔族がこちらに向かってきていた。
「勇者だな?」
「わざわざ人族語で尋ねてくるなんてね。そうだ。僕が勇者。勇者ユリウス・ザガン・アナレイトだ」
魔族の男は一つ頷き、剣をゆっくりと抜く。
「俺は魔族軍第七軍団長ブロウ。勇者よ。いざ尋常に勝負!」
「受けてたとう」
睨み合う。
周りの魔族も、仲間たちも、両方とも固唾を飲んで僕と魔族の将の一騎打ちを見守る。
先に動いたのはブロウと名乗る将の方だった。
袈裟斬りの斬撃。
それに合わせるように、僕も剣を振る。
両者の剣が交差する。
本気で切りつけたにも関わらず、ブロウの剣を切ることはできなかった。
仕方なく純粋な力でブロウを吹き飛ばす。
「おい、あの魔族、ユリウスの剣を止めたぞ?」
「あの魔族も充分化物だな」
吹き飛ばされ、体勢を崩したブロウに追撃を加える。
ブロウは剣で受けるのはマズイと判断したのか、僕の剣撃を避ける。
けど、それじゃ、避けきれない。
剣に纏っていた聖光を解き放つ。
聖光は衝撃破を伴った斬撃として剣を避けたブロウに襲いかかる。
驚いたことに、ブロウはこれも剣を盾にして防いでみせた。
体勢を立て直すブロウ。
僕はもう一度聖光を剣に纏い直す。
同時に、聖光球を10個展開する。
「ユリウスが本気になりましたね」
「それだけ相手も本物ってことでやすか」
僕の周りを漂う聖光球。
その1つ1つに指示を送る。
そして、それらをブロウに向けて飛ばす。
聖光球は全て僕の意思によって動く。
避けてもどこまでも相手を追いかけていく。
ブロウは迫り来る聖光球を迎え撃つつもりのようだ。
1つ目の聖光球とブロウの剣が当たる。
聖光球はその瞬間、あたりに破壊の光を撒き散らした。
衝撃をまともに食らい、吹き飛ぶブロウ。
そこに残りの聖光球が容赦なく炸裂する。
僕は剣を構えたまま、周りを見回す。
唖然とする魔族たち。
仲間は当然の結果だと言わんばかりに平然としている。
「まだ、だ」
声に視線を戻す。
驚いたことに、ブロウは体中から血を流しながらも、立ち上がっていた。
その傷が、みるみる回復していく。
魔法が発動した感じはないので、回復魔法ではない。
おそらくは魔力治療か気力治療のどちらかのスキルを使って、傷を治したのだろう。
「無理はしないほうがいい。実力の差はわかったはずだ」
「まだ負けたわけじゃねえ! このままおめおめ負けて帰ったら、兄貴に合わせる顔がねえ!」
そうか、この男には兄が居るのか。
僕にも兄が居る。
けど、どっちかって言うと僕はシュンのお兄ちゃんという感覚の方が強い。
兄としては、弟には無理をするよりも、無事に帰ってきてほしい。
そう思うはずだ。
「兄弟が居るなら尚更ここで死ぬわけにもいかないんじゃないかい? 軍を引け。深追いはしない」
「引くわけにはいかないんだよ!」
ブロウが突撃してくる。
僕はその振られる剣ごとブロウを叩き伏せる。
聖光の力が容赦なくブロウの身を破壊する。
それでもブロウは立ち上がってきた。
何度も何度も。
それも、ついに終わりを迎える。
ブロウの回復が途絶えた。
「終わりだ」
「まだ、お、わ、れ」
「終わりだよ。忠告はした。そして君はそれを無視して、敗北した」
僕は静かにブロウに歩み寄る。
ゆっくりと剣を掲げ、振り下ろした。
「ちく、しょ、う。あ、に」
途切れ途切れの言葉は魔族語で話されていた。
けど、僕にはその意味がなんとなくわかってしまった。
苦い気持ちが湧き起こる。
けど、敵に情けは無用だ。
静まり返る魔族。
その中から、前に進み出るものがいた。
それは白かった。
そうとしか表現できない、白い少女だった。
そして、その閉じられていた瞳がゆっくりと開けられた。




