108 炎海の主②
さて、体担当。
[きついね。足場がないのが一番きつい]
とりあえず体担当は回避最優先で。
[OK]
できれば火竜を常に視界に収めてくれれば言うことなし。
[善処するけど、回避の方優先するからね]
それでいい。
邪眼で少しでも削れれば勝機もある。
で、魔法担当。
{相手の攻撃の迎撃、及び雑魚の掃除でOK?}
OK。
意思疎通レベルは最大で。
情報は随時流すから。
[{了解}]
同調レベルを最大に上げ、3つの意識を重ね合わせる。
この状況だと、少しの齟齬も許されない。
けど、そこは問題ない。
意思が3つだろうがそれは全て私だ。
私と意見が食い違うことなどありえない。
まずは使える足場を増やさないといけない。
現在私がいるのは小さな島だ。
ここじゃ、回避もままならない。
けど、他の島に移ろうにも、あたりのマグマには魔物がウヨウヨ浮いてる。
飛び移ろうとしても、空中で迎撃されかねない。
思考する私をよそに、火竜が吼える。
それを合図に、周りの魔物どもが火球を一斉に掃射してくる。
上に跳ぶ。
足場にしていた島が火の海に沈む。
飛んだ私をさらなる火球が襲うが、毒弾を発射してそれらを迎撃する。
毒弾には物理的な攻撃力も多少備わっている。
私の魔法の中で一番迎撃に向いた魔法だ。
糸を天井に飛ばし、すぐさま回収。
天井に逃れる。
素早く移動を開始。
その際毒弾と毒合成を発動しまくり、毒をばら撒く。
毒弾は精密射撃で。
毒合成は量を増やして面攻撃。
毒合成によって発生した毒が魔物の頭上に降り注ぐ。
それだけでバタバタと魔物が死んでいく。
けど、魔物の火球も私に向かって飛んでくる。
天井を蹴って、島に向かって落下していく。
向かってくる火球は毒弾で迎撃。
無事新たな島に着地する。
その瞬間にはまた飛び上がって天井に避難する。
特大の火球が私のいた島を直撃する。
火竜の火球だ。
今のはおそらく火竜のスキルレベル5で習得する火炎球か、スキルレベル7で習得する大火炎球か、どっちかだろう。
大火炎球の方ならいいけど、火炎球の場合、さらに強力な火球攻撃があることになる。
どっちにしろあれを食らったらアウトかな。
止めどない火球の嵐をひたすら回避し、迎撃に毒を撒いていく。
《経験値が一定に達しました。個体、ゾア・エレがLV8からLV9になりました》
《各種基礎能力値が上昇しました》
《スキル熟練度レベルアップボーナスを取得しました》
《熟練度が一定に達しました。スキル『気闘法LV3』が『気闘法LV4』になりました》
《スキルポイントを入手しました》
ヤバ!?
脱皮が始まる。
そのせいで私の体の動きが一瞬鈍った。
魔物の火球が私に直撃した。
くうっ。
効いた。
けど、耐えた。
雑魚魔物の火球で良かった。
HPはごっそり減ったけど、死ぬほどじゃない。
まさか今まで助けられてきたレベルアップの脱皮のせいでダメージを食らうとはね。
タイミングが悪かった。
天井を駆け回り、時折着地しては、また天井に逆戻りする。
それを繰り返す。
地味に上がり続けてきた立体機動のスキルが役に立ってる。
ステータスの伸びのおかげもあって、鰻と戦った時よりもスムーズに天井でも移動ができる。
地上に比べればまだまだ遅いけど、雑魚魔物の火球を避けるくらいなら容易い。
問題は、3匹いる鰻と、火竜の攻撃だ。
この4体の攻撃だけは食らうわけにいかない。
食らったら一発でアウトになる可能性もある。
とにかく今は避けることに専念して、時間を稼ぐ。
時間さえ稼げれば、私の勝ちだ。
鰻の1匹が大きく仰け反る。
火炎ブレスが来る。
けど、そうはさせない。
外道魔法を発動する。
外道魔法レベル5の魔法、催眠を。
私に向かって火炎ブレスを吐こうとしていた鰻は、標的を変えて隣の鰻にブレスを吐き出した。
鰻には炎熱無効があるから効果はないけど、動きを阻害することはできた。
催眠の効果は一時的に対象に魔法発動者の言うことを強制的に聞かせることができる魔法だ。
鰻レベルの魔物になると一瞬しか操れないけど、それでもこうやって攻撃の手を別に向けさせることもできる。
ただし、発動には結構複雑な術式構築が必要なうえに、相手の抵抗力に合わせて大量のMPが消費される。
魔導の極みがなかったら戦闘中に即座に発動なんかできないような魔法だ。
それに、鰻には一瞬効いてくれるけど、火竜には効果がない。
火竜の攻撃は諦めて全部避けきるしかなさそうだ。
私は天井を逃げる。
火球がそのあとを追う。
そんな鬼ごっこを延々続ける。
私が逃げながら戦っていることもあって、最初にいた場所からはだいぶ離れた。
けど、その鬼ごっこももうすぐ終わりだ。
雑魚の魔物が次々に脱落していく。
私がさっきからずっと発動し続けている魔法、毒魔法レベル6毒霧に耐え切れなくなって。
毒霧はその名のとおり、毒を含んだ霧を発生させる魔法だ。
毒合成で発生させた毒だと、蒸発した瞬間毒性は失われてしまう。
その弱点をカバーし、広範囲に毒を撒き散らす魔法、それが毒霧だ。
効果は蜘蛛猛毒なんかとは比べ物にならないくらい低い。
けど、長時間その霧を含む空気の中にいれば、徐々にその体は毒に蝕まれていく。
それは、時間が経てば弱い魔物では耐え切れなくなるほどに。
《経験値が一定に達しました。個体、ゾア・エレがLV9からLV10になりました》
《各種基礎能力値が上昇しました》
《スキル熟練度レベルアップボーナスを取得しました》
《熟練度が一定に達しました。スキル『毒魔法LV6』が『毒魔法LV7』になりました》
《熟練度が一定に達しました。スキル『毒強化LV6』が『毒強化LV7』になりました》
《スキルポイントを入手しました》
《条件を満たしました。称号『竜殺し』を獲得しました》
《称号『竜殺し』の効果により、スキル『生命LV1』『竜力LV1』を獲得しました》
《『生命LV1』が『身命LV1』に統合されました》
さあ、後残ったのは邪眼で見続け、弱体化した火竜と、鰻3匹のみ。
どう料理してやろうか?
 




