11 いーとーまきまき いーとーまきまき♪
2本の前足の間に、白く細い糸が張られる。
外側に引っ張ると、ミョーンと伸びる。
力を抜くと徐々に元の長さに戻っていく。
うん。
狙い通りゴムっぽくなった。
何してるかって?
蜘蛛糸もスキルだってことがわかったから、熟練度稼ぎのついでにいろいろ実験してんのよ。
今まで糸を使うのは、網を張る時と、そこにかかった獲物を拘束する時にしか使わなかった。
だから、自分のことながら、あんまり糸についてはよくわかってなかったんだよねー。
え?
マイホームから出てレベル上げ?
ムリムリ。
レベルアップ直後はなんかテンション上がっちゃってたけど、冷静になってみるとムリじゃね?って思うわけよ。
だって考えてみてよ。
ゲームだけが取り柄の女が、リアルファイトで勝てると思う?
ムリムリ。
体は魔物でも、それを動かす中身がしょっぱければ意味ないし。
ゲームと実際に体を動かすのじゃ、天と地ほど差がある。
ゲームのキャラなら疲れるなんてことはないけど、リアルだと動けば動いた分だけ疲れる。
まして私は前世では学校に通うだけで、息切れするようなもやしっ子だったんだし。
野生の本能で生きてる本物の魔物相手に、戦って勝てるかというと、難しいんじゃないかと思う。
やってやれないことはないかもしれないけど、失敗したときイコールで私の死亡っていう、あまりにリスキーな選択肢は避けたい。
だったら、網張って哀れな獲物が罠にかかるのを待ってたほうが、断然勝率は高い。
こっちのほうが安全だし、ダンジョンの中を当てもなく徘徊するよりかは、ずっと効率的だと思う。
いつかはマイホームから出るときは来ると思うけど、もうちょいレベルを上げて、安全マージンが確保できてからがいいな。
ネトゲでは無茶なロマン仕様のキャラを使ってたけど、他のRPGなんかじゃ、序盤でレベルを上げまくるのが私流だ。
レベルを上げまくって、ボスを鼻歌交じりに倒すのが快感だったりする。
特に今回は自分の命がかかっていることだし、他の魔物に勝てるっていう確信が持てるまでは、慎重に行動していこう。
んで、今はそのレベル上げの一環として、蜘蛛糸のスキル熟練度を上げてるわけだ。
思えばこの蜘蛛糸、私の生命線でもある。
マイホームが作れなくて、未だにダンジョンの中を彷徨っていたらと思うと、ゾッとする。
その場合、多分私は生き残ってなかったんじゃないかな?
安心して休憩することもできないし、獲物を取ることだってできない。
今こうして快適な暮らしができるのも、全部蜘蛛糸のおかげだ。
そう考えると、蜘蛛糸のレベルを上げるのは最優先でやっておきたい。
具体的にレベルが上がると、何がどう変わるのかはよくわかんないけど、上げて損はないはず。
で、ただ糸を出しまくって熟練度を上げるくらいなら、ついでに糸の性質をもっとよく知るために、色々と検証してみようと思ったわけ。
糸を出しまくるのから始まって、太さの調節、粘着性の調節、強度の調節、伸縮性の調節を検証してみた。
太さの調節は結構簡単にできた。
細くしようと思うと、かなり細くできた。
目に見えないほど細くはさすがにできなかったけど、髪の毛と同じくらいの細さにまでできた。
暗がりのこのダンジョンの中では、この細さでもだいぶ見にくいはず。
ただ、そのあとやった強度の実験でわかったけど、細くすればするほど、糸が切れやすくなっちゃう。
まあ、こればっかりは仕方がない。
普通に考えれば細ければそりゃ脆くなるよね。
レベルが上がればもしかしたら強度が上がるかも知れないし、そこに期待しておこう。
逆に、太くすると強度は上がる。
今の私が出せる一番太い糸は、だいたい直径2cmくらいの太さ。
普通のロープくらいかな?
まあ、あくまで素の状態で出せる最大値ってだけだから、太くしようと思えば、何本も束ねることでもっともっと太くできる。
その分手間はかかるけどね。
粘着性の実験は、正直やらなきゃよかったと後悔してる。
蜘蛛の糸はみんなベタベタしてると思われがちだけど、実は全く粘着性のない糸もあったりする。
蜘蛛自身が自分の糸に引っかからないのは、その粘着性のない糸をうまく使ってるおかげだったりする。
それは、本能で網を作った時に理解した。
で、それをより深く知ろうと、実験してたわけだけど、見事なまでに全身に絡まった。
ああ、うん。
粘着性のある糸とない糸を使い分けなきゃいけないってことは、そうする必要があるってわけで、それをしないと自らの糸に絡まっちゃうわけだ。
私は間抜けにも、私自身で出した蜘蛛糸に囚われちゃったわけ。
焦ったわ。
実際、粘着力は出したあとでも下げられるってことに気づかなかったら、自分の罠にハマって死ぬなんて、間抜けすぎる最期を迎えるとこだった。
お尻から出した糸は、お尻につながったままの状態なら、ある程度性質を変化させることができるようだっていうのが、不可抗力で分かった。
そのあと試しに、お尻から切り離した糸の性質変化もやってみたけど、ちょっとだけなら変わることがわかった。
気を取り直して、強度の確認。
細いと脆くなって、太いと頑丈になるのは確認したけど、じゃあ、どこまでの力に耐えられるのかというのは、残念ながらわからなかった。
なんでって?
強度MAXにすると、私がどんなに力を込めても切れなくなったからだ。
恐ろしいことに、牙で噛み切ろうとしても切れなかったくらいだ。
この糸に絡め取られたら、そりゃ早々脱出はできないわな。
まあ、私よりもっと力のある魔物だったら、千切ることもできるかもしれないので、過信は禁物だけどね。
で、最後の伸縮性の実験の結果が、今私の手元でビヨンビヨンいってる糸ってわけ。
うん。
このゴム状の糸は結構使えそうだ。
適当な石とか括りつければ、簡単なスリングとして使えそう。
その他にもいろいろと役立ちそう。
実験結果に大いに満足する。
けど、こんだけやってもレベルは上がらなかった。
それに、結構無視できない問題が起こった。
糸を出せば出すほど、エネルギーを消費する。
つまり、私は今、蛙を食べてからそんなに経ってないのに、猛烈にお腹が空いていた。
燃費が悪いわけじゃないけど、大量の糸を使うときは、お腹を満たしておかないと危なそうだ。