ψ「煙と汗とワンピース」
立ち上る煙草の煙。
俺は、煙草の匂いがどうも駄目だ。
とうとう耐えなれなくなって、部屋を出る。
ああ、また匂いが服に染み付いてしまった。
季節は夏。汗と匂いが混じる服は煙草以上に臭い。
小さなー…といっても普通の住宅のリビングほどまであるーを出た俺は、中でのお堅い会議に
うんざりしながら自信の部屋へと向かった。
部屋にはそこを出なくてもいいくらい、ちゃんとしたひとつの部屋になっていて、キッチンやトイレ、
そして風呂までもが取り付けられている。
小さいころ不登校だった自分は、ずっとこの部屋の中で生活していた。
汗を流すため、風呂場の洗濯籠に着ていたワイシャツを放りいれる。
前髪を上げていた髪飾を取ると、あの頃の自分に戻った気がしてあまりこの髪型は好きじゃない。
そういえば高校生のときに「鬼太郎」とかっていわれたっけ。そう思いながら
大浴場ばりの風呂に足を踏み入れた。
「ふぅ……」
濡れた髪をタオルで拭きながら、リビングへと戻る。
着替えなおしたティーシャツにポタポタと雫が垂れた。
「愁様、お客様が参られました」
「おう、ありがとなー舞子さん」
余談だが、俺はここで働く女性従業員の名前を全て記憶している。
彼女が聞いたら、怒るだろうか?
いや、きっとにこやかに微笑みかけてくれるだろう。
「おーい」
母の趣味で作られた花畑の中に、真っ白なワンピースを着た彼女の姿が。
手を振りながら呼びかけると、彼女はにっこりと微笑み、手を振り返してくれた。
あの時と変わらない、優しげな瞳を見せて。