✿「入れ替わりの病」(3)
雨の上がった空はとても綺麗だった。
後ろを見ると、申し訳ないとでも言いたそうな桜庭の顔と、不機嫌そうな俺の顔。
「…入れ替わった…のか?」
俺がそうたずねると、桜庭と入れ替わった佐川があどけなく笑った。
「はは…まあ、同じ関西弁やしばれる心配はないと思うで。」
「なんで変わってしもうたんでしょう…?」
「悪いが、桜庭…俺の顔でその口調は勘弁…」
2012年 *月/**日 午前8時19分。
仕事をしている最中だったという桜庭は、神童を起こしに廊下を通っていたらしい。
そのとき、猛ダッシュで走っていた俺である佐川と衝突して…
つか、なんでいちいち走っているのだろうか…?
2012年 *月/**日 午前9時09分。
俺達はしばらく行動をともにすることにした。
この時間帯は神童の部屋に桜庭が起こしに行かなくてはいけない時間。
とりあえず、桜庭である佐川が起こしにいかないと…。
俺達は、神童の部屋に続く廊下を歩く。
「なあ、雨傘の兄さん?」
佐川が桜庭に尋ねる。
「僕は桜庭ですよ、佐川様」
「おおっと…そうやったな…」
どうやら桜庭はこの状況を少なからず理解しているようだ。
焦った顔をしながら佐川は俺に近づく。
そして内緒話をするかのように耳に手を近づけ…
「なあ、雨傘の兄さん…」
「なんだよ?」
「桜庭の姉さんの体、結構いいむ…あだっ!?」
急に桜庭の上から拳骨が跳んできた。
「佐川様?…あとで覚悟しておいてくださいね?」
だから俺の顔で恐ろしいことを笑いながらいうなよ…。
そんなことを思いながら俺は神童の部屋のドアノブを捻る。
「ほら、行けよ佐川」
そういって俺は桜庭の体を押す。
「あ、ああ。えっと、鏡華様…?」
佐川はぎこちなく歩を進めて、神童の元へと歩み寄る。
「あ、お早う御座います六花。今日は皆さんでこられたのですか?」
「あ…そうですっ。いやー何か急に中身が入れ替わっ…ブッ?!!」
本日二回目の拳骨が桜庭の頭にヒット。
「おいおい…大丈夫なのか?仮にもお前の体なのに」
俺がそう聞くと、桜庭は平然とした顔で言い放った。
「別に大丈夫や。痛覚は今は佐川様が感じるからな。」
「雨傘…さん?」
神童が急にこちらを見る。
「え…?な、なんで、しょう?」
「やっぱり、何かあったんですね?…話してください。」
神童の鋭い瞳は男である俺達でも恐ろしく怖かった。
どうやら彼女は俺達が入れ替わってしまったことに気づいたようだ。
その瞳に怖気づいたのか、佐川は全てを話してしまった…。