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第四話-1

第四話 呪いを解く方法 占い師に頼ってみる。


「利休、凛ちゃん最近見ないけど、どうしたの?」

 朝から俺の母親から尋ねられる。

 佐野家は共働きなので基本的に日中は誰もいない。仕事の時間によっては両親のどちらにも会わない事は珍しい事ではない。

 ちなみに母はかつては美人だったと自慢しているが、残念ながらおばちゃんである。まあ、俺や妹の母親なので、ちょっと美人だった事は認めてやろう。

「札子のところで女子力磨くらしいよ」

「札子ちゃんはマネれないでしょうね」

 さすがに母も苦笑いしている。

 まあ、そうだろう。アレを真似ようとしたら、それこそ『顰に倣う』の故事を再現する事になる。成績はそれほど良くないが、いかに妹でもそれくらいは分かるはずだ。って言うかアレを真似ると女子力下がるんじゃねーの?

「でも、あんまり迷惑を掛けたらダメよ?」

「そこはわかってると思う」

「利休じゃないから大丈夫よね」

 笑顔でヒドい事を言う母親だ。そんなに娘の方が可愛いか。俺は長男なのに。

「どれくらい向こうで預かってもらってるの?」

「夏休みの間、じゃないかな?」

「それなら手が掛からなくて良いわね」

 と、母は笑顔で言う。

 つい先程迷惑を掛けるなと言っていたはずだが、やっぱりヒドイ母親である。

 俺の性格はこの母親では無く、独自に磨かれたものだ。

「利休も札子ちゃんの所に行っていいのよ? いっその事婿養子に行ってくれれば、お母さん楽できるんだけど?」

 それは俺に人身御供になれ、と言う事か?

「遠慮しなくても、この家はお母さんが活用してあげるから心配いらないわ」

「父がいるだろ?」

「ああ、アレは良いのよ」

 本当にヒドイ母親である。自分の旦那をアレとか言っちゃってるし。

「でも、いっつも札子ちゃんに迷惑かけてるから、何かお土産みたいなのも用意した方が良いのかしら? 利休、何を用意したら良い? たこ焼き?」

「なんでたこ焼きが出てきたんだよ」

「札子ちゃん、庶民の味とか知らないんじゃないの? ほら、テーブルマナーとかうるさそうじゃない」

 銭丸グループのイメージで考えると確かにそうだが、札子はそういうテーブルマナーなどは大嫌いなのである。なので、ファミレスやジャンクフードなども好きで、女子高生が一人でふらりと入るには抵抗がありそうな、知る人ぞ知るラーメン屋などにも入っていける。

 たこ焼きも当然食べた事などもあるが、下手な高級料理より好まれる事だろう。

「それじゃ利休、戸締りよろしくね」

 母は笑って仕事へ行く。

 色々言い訳を考えていたのだが心配して無さそうだったので、誤魔化す事は出来たようだ。楽天的な母親で良かったと思う。


「アレ? 井寺坂早いな」

 俺が部室に行くと、いつもは一番遅い井寺坂が一人パソコンの前に座っていた。

「ぶ、部っ長? はは、は、早いッスね」

 あからさまに挙動不審な井寺坂は、俺を見て慌てている。

「何慌ててんだよ。大方デジカメのデータでも転送してたのか?」

「なっ、何故それを! エスパーッスか? やっぱりエスパーなんスか?」

 そんな馬鹿な。っていうか、お前が分かりやす過ぎるんだ。

「札子と妹は?」

「今日はまだッスねー。さのりんが銭丸先輩の所に行ってから、来るのが遅くなってるッスよねー」

 口調はのんびりしているが、井寺坂の手元はせかせかと動いている。

「いや、一番最後に来るお前に遅くなってるかどうかなんてわからないだろ?」

「いきなりバレますか。部っ長、空気を読んで欲しいッス」

 井寺坂はそう文句を付けてくるが、こいつの適当発言をいちいち拾ってやる事が空気を読むとは言わない。

 海に行った時には翌日には目に見えて小さくなった妹だが、井寺坂が持ってきた解呪グッズを使った後、妹は小さくはならなかったが元にも戻っていない。

 そのまま八月に入り、夏休みも中盤。

 今の所、妹を元に戻す手がかりは無い。

 俺も色々と調べているが、呪文の内容に予想がついた程度で手詰まりになっている。

 例えばアブラカタブラやエロイムエッサイムなどは、呪文の一部ではあるが言葉としての意味をなさない。サンなんとか語の呪文の中にもそういう部分があるようだが、それがどこで何かもわからない。

 それでも呪文や魔法陣に書かれた単語を追うと、この呪術は時間と大きさに関わる呪術である事はわかった。つまり時間が経つにつれて大きさが変わっていくのは、妹を見ていても分かる。札子が以前言っていた様に、時間が経つと元に戻る可能性もまったく無い訳ではないと思うが、呪術である事を考えると、時間が経つと元に戻るどころか、そのままミクロンサイズまで小さくなる可能性もある。

「なんとしても元に戻してやりたいんだが、手詰まりなんだよな」

「部っ長、コレがあるッスよ」

 井寺坂は机の中に入れている『解呪の短剣』を出す。

 持ち歩いていると銃刀法違反で捕まる恐れもあるので、部室の机の中に隠していると本人は言っている。

 ただ机の中に入れている状態を隠しているとは言わないと思うが、井寺坂的には良い隠し場所なのだそうだ。

「コレで一突きすれば、元に戻る可能性は十分あるッスから」

「お前はなんで妹を刺したいんだ」

「元に戻してあげたいんスよ。それにはこの百ドルの短剣が」

「いや、それで胸を突いたら確実に死ぬって。女子高生が後輩を短剣で刺したら、新聞に載るどころか全国ニュースになるぞ。一躍有名人だ」

「それは勘弁して欲しいッスね。テレビでは名前を伏せられても、ネットでは簡単に個人情報突き止められるッスから。怖い世の中ッスよね」

 オカルト研究部所属の女子高生、名前は聖女と書いて「じゃんぬ」と読ませる少女が後輩を刺したとなったら、ネットでは祭りになるだろう。

「そういう訳で、その短剣は封印だな」

「コレの効果でさのりん小さくならなくなってるんじゃないッスか? あの時、確かにこの短剣光った様に見えたんスけどね」

「自分を刺してみたらどうだ? いや、ゴメン。嘘だから。信じるなよ?」

「痛そうだから止めとくッス」

 井寺坂に下手な事を言うと本当にやりそうだったから、俺はすぐに否定しておいたが、さすがに井寺坂も自傷行為をするつもりは無さそうだ。

「でも、部っ長。部っ長だけは何も具体的な案を出して無いッスよ?」

「何の具体的な案だ?」

「さのりんを元に戻す方法ッスよ。銭丸先輩は口実だったかも知れないッスけど、最初に海の件を出したッスよ。私だって解呪グッズを試したっしょ? 部っ長、何か無いんスか? 可愛い妹を元に戻したくないんスか?」

 妙に勝ち誇った顔で井寺坂が言う。

 こいつらは遊んでいるだけだったが、確かに言う通り俺は何か具体的な方法を示していないのは弱味と言える。

 方法、か。

「素人だけでは手に負えないと言う事は分かった。出来る事なら札子から、その著名な呪術師ってヤツを呼んで欲しいんだが」

「あー、私も会ってみたいッスね。だって本物の呪術師ッスよ? だんだん人が小さくなっていくって、けっこうマジで凄い呪術ッスからね」

 考えると確かにコレは冗談抜きの超常現象である。初心者向きのお試し呪術でこの効果と言うのであれば、プロ仕様の呪術となったらどんなレベルの事を出来るか、恐ろしくもあるが気にもなる。

「札子が来たら呼んでもらえないか話してみよう。って言うかそれしかない」

「でも、いざ呼んだ時、日本語通じるんスかね? サンなんとか語で話しかけられたら、私達じゃ会話出来ないんじゃ無いッスか?」

「確かにそうだな。井寺坂、たまに鋭い事言うよな」

「だてにメガネ掛けてる訳じゃないッスから」

 いや、メガネは関係無いだろう。

 俺はそう思ったが、胸を張る井寺坂には言えなかった。

「部っ長も頭使わないと、メガネが泣くッスよ?」

 どういう理屈だ。それに俺は十分頭を使っている。井寺坂や札子と一緒にされる筋合いは無い。

「だとすると、お前のメガネは泣いてるぞ。ダメガネと呼ばせてもらおう」

「私の本体はメガネッスからねー。私のメガネの性能がこれくらいなんです。だからダメガネじゃなくて、性能を十分引き出していると言えるッスね」

「どう考えてもそうは言えないだろう。コンタクトにしてしまえ」

「コンタクト怖くないッスか? 部っ長はコンタクトにしないんスか?」

「怖くはないけどな。小学生の頃から眼鏡派だったから、いまさらコンタクトにするのもな、というくらいだ」

「あんたは何も分かってない」

 と、真顔の井寺坂に怒られた。

 今度は何を言い出すんだ?

「あんたにメガネを語る資格は無い。わかりますか? 眼鏡派とかじゃなくて、メガネはその人の一部なんスよ。私の場合には本体と入れ替わるくらいなのに!」

「一回短剣で自分を刺した方が良いかもな。何かにヤられてる恐れがある。特に頭だ」

 こいつはダメだ。話にならない。

 そう思ったので、とりあえず井寺坂は放っておく事にする。

「妹達、来ないな」

「来ないッスね。今日は来ないんじゃないんスか?」

 まあ、熱血運動部でもない俺達オカルト研究部では、必ず毎日部活に来ないといけないなんて事は無い。

 しかしその場合には俺のところに連絡くらい入りそうなものだが、今日は特にそういう連絡は入っていない。

「だとすると、この前の海の件の話なんだが……」

「おはよー」

 この前の取引の話をしようとすると、札子がやってくる。

「おは……!」

 井寺坂があいさつを返そうとしたが、言葉を失っていた。

 かくいう俺もそうだった。

「どうしたの? ダブルメガネが豆鉄砲食らったみたいな顔になってるけど」

「いや、お前の連れ、妹か?」

「そうよ? 見たらわかるでしょ?」

 札子は呆れた様に言うと、手を引いた人物と部室に入ってくる。

 見て分からないから聞いたんだが、まあ、札子が言うんだから妹なんだろう。

 だが、札子が連れているのは、見た目で言えば妹ではない。

 ソレは一メートルくらいの、パンダの着ぐるみである。

「さのりん、パンダになってる!」

 井寺坂が驚いて叫ぶと、パンダの着ぐるみは頷く。

「うをーう、超可愛い! ちょっと写真撮って良い?」

 井寺坂は海でも持っていたデジカメを手に取ると、パンダの着ぐるみを写している。

「暑くないのか?」

「アレは中に冷却ファンが入っているから、意外と暑くないわよ。すっかり気に入って、脱ごうとしないのよ」

 俺が札子に尋ねると、札子はそう答えてソファーに寝転がる。

 脱ごうとしないのは気に入っているからだけでは無い、と思うんだが。

「て言うか、妹ってあんなに小さくなかったよな?」

「今朝になって小さくなってたからね。凹んでた妹ちゃんに、私のコレクションの中でもちょっと変わったヤツを着せてみたの」

 パンダのサイズを見ると、確かにもう外をウロウロ出来る大きさでは無くなっているので、隠すのは仕方がない。しかし、着ぐるみで外を連れて歩くのも、外を出歩くのも大したものだ。

「そしたら超可愛くてね。ちょっと躍ってもらってたら遅くなっちゃって」

 何して遊んでるんだ、お前たちは。

 妹も小さくなっていく自分を満喫しているのか、もはや自我を保っていられないのか、パンダになっている。

 おそらく、今日一日はパンダのままで過ごすつもりだろう。

「しかし、コレは問題だな」

 井寺坂と戦っているパンダを見て、俺は真剣に思う。

 妹がパンダになっているのは、この際目を瞑る事にする。実際に本物のパンダになっている訳ではないので、そこは心配無い。

 問題は相当縮んでいる妹のサイズである。

 元々高校生にしては相当小柄だった妹だが、今の身長のサイズで言ったら幼稚園児並みの身長と言う事になる。これは不自然極まりない。

 パンダの着ぐるみでウロウロするのもどうかとは思うが、妹の身長のサイズを考えるとパンダの着ぐるみの方がまだマシである。

「札子、呪術師って人に会って解呪をお願い出来ないのか? さすがにこれはマズいだろ? 夏休み中に元に戻せなければ、本格的にヤバいって」

「大丈夫だと思うけどねー。ま、パパに言ってみるわ。でも可愛いから私はこのままでも良いと思うんだけど」

「いや、良くねーから」

 これ以上小さくなると、着ぐるみですら外に出られなくなる。ベビーカーですら不自然だろう。

 この呪術は幼児退行していくわけではなく、そのままの体型でスケールだけが小さくなっていくので、身長や大きさが幼児並みになったとしてもそれは大きさだけで、見た目は女子高生のままなので非常にマズい。

「いくら呪術が初心者用のお試し呪術だったとしても、やっぱり素人が頭をひねらせたくらいで解呪は出来そうにない。妹のためにも早く元に戻してやりたいんだが」

「お兄ちゃん、心配し過ぎじゃないの?」

「普通は心配すると思うんだが、どうなんだ? 銭丸家なんかはお前が小さくなっていくなんて事になったら、佐野家どころの話じゃないと思うぞ?」

「あー、何となく理解した。ウチだったら大騒ぎかもねー」

 大騒ぎどころか、大問題、下手したら国際問題に発展しかねない。

「で、呼んでもらえるのか? ホントにヤバイって」

「パパに伝えてみるわね。でも、約束は出来ないわよ」

 相手は著名とはいえ呪術師という、胡散臭さ全開の存在である。正直に言うと、俺も妹がこんな風になるまで絶対偽物だと思っていた。しかし、どんな事をしてでも呼んでもらわないと困る。

「それで、利休的にはそれでおしまい?」

 札子に言われ、俺は眉を寄せる。

 確かに、それは一方的に投げるだけで、俺は特に何かやってるわけではないかも知れない。ついさっきも井寺坂に言われたので、何か引っ掛かるところがあった。

「そうだな、出来る事は全力でやるべきだな。ここはプロに相談してみようか」

「まだ呼んでないわよ?」

「いや、この町って占い師とか多いじゃないか。ちょっとプロの霊能力者に解呪のヒントを得られないかと思ってな」

「部っ長、それ面白いッス! さのりんも行くよね?」

 井寺坂が食いついてきて、パンダの着ぐるみも大きく頷く。

 妹は、今日は徹底してパンダモードで行くようだ。

「部っ長、どこから攻めるッスか?」

 別に攻め込むワケじゃないけどな。

 俺はそう思うが、しかし考えてみるとコレで相談事を見抜いたり、解決法を見つけられればその占い師は本当に何か見えているのだろう。逆に的外れな事を言うのは、残念ながら能力は高くないと言えるかもしれない。

 占い師にはわからない事だが、確かに攻め込むと言えなくもない。

「そこで、札子。かかる経費について相談したい事があるんだが、いいかな」

「あー、ちょっとカッコ悪いわね。ねえ、妹ちゃん」

 札子に言われ、パンダが大きく頷いている。

 お前のためなんだぞ、妹よ。協力してくれよ。

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