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第三話-2

「じゃ、安かったヤツから始めますか」

 井寺坂はそういうと、色取り取りの紙束を手に取る。

「じゃんぬ、それはどうやって使うの?」

 札子が警戒しながら井寺坂に尋ねる。

「火を点けるとか言わないよな?」

 俺は井寺坂を睨みながら言う。

「そんな物騒な使い方じゃないッスよ」

 胸を一突きとか、物騒極まりない事を言っていたのはどこのどいつだ。

「これはッスね、魔払いのお札らしくて、玄関とか自分の部屋のドアに貼ると悪い何かが近付かないらしいッス」

「井寺坂の説明だとそのお札は予防法みたいだが、妹に必要なのは予防法ではなく治療法だろ? 意味無さそうだが」

「妹ちゃんに直接貼ってみる?」

 札子はお札の一枚を手に取ってみる。

 俺も一枚お札を手に取ってみる。

 和紙の様な手触りに、いかにも呪術っぽい文様を書き込んでいる。俺が手に取ったのはそれっぽい魔法陣とフランス語の一文が魔法陣を囲んでいる。

仏文は『Eloim,essaim,frugativi,appelavi』と書かれている。和訳すると『エロイム、エッサイム。我は求め、訴えたり』という、日本でも耳にする有名な呪文である。

 有名な文言なだけに、嘘臭さも異臭レベルである。

 ちなみに札子の手にあるお札は中国風の魔除けのお札っぽい。

「そのお札、貼れるんですか?」

 妹も一枚手に取ってみる。

 妹の手に取ったものは俺と同じ、魔法陣の描かれた札だった。

 魔法陣や中国風の魔除けの他には、写経されているっぽい漢字が書き連ねてあるモノや、象形文字の様な絵や記号で書かれているものなどの種類があった。

 ちなみに漢字の羅列はすぐに調べられるので調べてみたが、般若心経と法蓮華経を適当につないだ様な、まったく意味をなさない写経っぽい漢字を並べただけのモノだった。

 これなら梵字の方がまだマシである。

「ほら、後ろにシールがあるから貼れるみたいよ。えい」

 札子が自分が持っていた札を、妹の額に貼り付ける。

「これ、大丈夫なんですか?」

 妹はすぐにはがすが、本当にただのシールの様で、瞬間接着剤のようなモノではなかったので、まったく問題無かった事を確認する。

「大丈夫そうね、えい」

 改めて札子が別のお札を取ると、また妹の額に貼り付ける。

「これ、効果があると思いますか?」

 今度はお札を貼り付けたまま、妹が首を傾げている。

「俺にはこれに効果があるとは思えないけどな」

「駅前の外人さんは、効果抜群だって言ってたんスけどね」

 井寺坂は、そういうと、妹の制服の肩に一枚貼り付けている。ガムテープという事も無いので、制服にテープ跡も残らない。再利用出来る便利テープを使った、用途に合わせて使い分けられる便利なお札らしい。

「いくらだったんだ、このお札」

「十枚で三百円」

「思ってた以上に安いな」

 俺はそういうが、いくら三百円だったとしてもコレを買おうと思うのも、なかなか大したものだと思う。

「でも、これで不安を解消できるなら、安いし効果も抜群でしょうね」

 妹は額にお札を貼ったまま言う。

 呪いの解呪にはポジティブシンキングが大きな効果がある事を考えると、このどう考えても偽物のお札でも、それっぽく作られているので渡し方や渡された相手によっては三百円以上の効果があるだろう。

 もっとも、今回はまったく何の役にも立たなかったわけだが。

「ダメだったか。せっかくだから残りもさのりんにあげるね」

「もう十分いただいてますから、これ以上はいりません」

 すでに額と両肩に一枚ずつお札を貼られている妹は、それをはがそうとはしていないが、全部貼り付けようともしていない。

 効果が無かった事で、このお札には興味を失ったのだろう。

 それは札子も同じで、もう興味はお札からお守りに目を移している。

「じゃんぬ、コレは?」

「これは魔除けのお守りッス。コレを首に掛けて印を結ぶんだそうッス」

 井寺坂がお守りを手に取って言う。

「印って何ですか?」

 額に貼ったお札を貼ったまま、妹は井寺坂に尋ねる。

「知らない?臨、兵、闘、者、皆、陣、列、在、前って真言と手で印を結ぶんだけど、多分調べれば出てくるよ?」

 井寺坂はそういうとネットで調べて、妹に見せている。

「この手の形を作りながら、真言を唱えると魔払いが出来るとかなんとか」

「見えづらいですね」

 そう言って妹は額に貼っていたお札をはがす。

 これで吸着してはがれない、という事があれば本物っぽかったのだが、そこは十枚で三百円のパチモノである。

 絵は上手くても不器用な妹は、井寺坂と一緒に苦労しながら印を結びながら真言を唱えている。

「利休はやらないの?」

 井寺坂と妹が苦労しながら九字を切っているのを見ながら、札子が俺に尋ねてくる。

「それで魔払いが出来るなら、それでいいさ。ただ、井寺坂の用意したお守りって言うのもイマイチ信用できないからな」

「まあ、お守りって基本的に工場で作られてるモノだからねえ」

 それでも効果があるのは、やはり自身を戒める精神的効果が非常に高いためである。学業成就のお守りを買ったから大学入試も上手くいく、という事などあり得ないが、学業成就のお守りも買ったから頑張らないと、という気持ちになる事の方が大事というわけだ。

 なので、この手のお守り信じている人を否定するつもりは無いが、俺は信じる気にはなれない。

「札子はやらないのか?」

「妹ちゃんには悪いけど、ちっちゃい妹ちゃんが可愛くて。夏休みの間はちっちゃいままでいいんだけどね」

 驚いた事に、札子は本心からそう思っていたらしい。

 意外と長身の事にコンプレックスでもあるのか、小柄な妹が羨ましいのかもしれない。

 また、札子の兄は歳が離れている上に、札子には妹も弟もいないのでうちの妹を本当の妹の様に可愛がっている事も間違いない。

 困った事があるとすれば、一般人と感性がかけ離れている事くらいだ。

「利休はこう言うのは信じないの? オカルト好きなんでしょ?」

 井寺坂と妹が印の結び方を練習しているのを見ながら、札子は三百円のお札をヒラヒラさせながら尋ねてくる。

「信じているからオカルトが好きと言う訳じゃないからな。あと、俺が興味あるのはどちらかと言えばオーパーツの類だから、呪術やらは専門外なんだ」

 まったく興味が無いわけではない。超常現象の類には知的好奇心を刺激するモノがある。

 だが、お守りの方はともかく、この十枚三百円のお札の方は悪意を感じるので信じていないと言った方が正確だろう。

 妹の場合どうでもいいと考えているようで、両肩に貼られたままの札を剝がそうとしない。

「じゃ、一連の動作を流してやっていくわよ?」

「はい、よろしくお願いします」

 印の結び方を練習していた井寺坂と妹の方で一段落ついたらしい。

 自然と俺も札子もそちらの方に目を向ける。

「じゃ、せーの」

『臨、兵、闘、者、皆、陣、列、在、前』

 井寺坂と妹の二人で、リズムを取りながら真言を唱え、印を結ぶ。

 当然の事ながら、何も起きない。

「あれー? コレは効果が有るかと期待してたんスけどね?」

 井寺坂は首を傾げて言う。

 井寺坂の事だから、印を結ぶとお守りが光って元に戻るとでも思ったのだろうが、あいにくと何も起きなかった。

 呪術が本当にあるんだから、解呪法も実在してもおかしくは無かったが、九字護身法ではこの呪いには効果が無かったというわけだ。

「あとはこの蝋人形?」

 札子が黒い蝋人形を手に取る。

「コレは黒魔術入門セットの中にあった、呪い返しの人形『身代わり跳ね返し君ブラックタイプ』と言うスグレモノで、黒魔術の呪いの身代わりになったり呪い返しをしてくれたりと、すごく便利な一品らしいッス」

 と、井寺坂は説明している。

 これまででも十分だったが、これまた胡散臭さが強烈なのが出てきたな。

 しかし、黒魔術入門セットなる胡散臭いオカルトグッズまで買ってたのか。井寺坂は一回お金の使い方をいうものを考え直した方が良い。

「ちなみに黒魔術入門セットって高かったのか?」

「三千円くらいッス」

 俺の質問に井寺坂は答える。

 解呪の短剣と合わせると、この二つで一万円を超えている。十枚三百円のお札はともかく、井寺坂家は佐野家と同じくそこまで裕福という事は無いはずだ。

 自分の身を守るための投資だったが、それを妹のために使えるのだから、井寺坂は井寺坂なりに妹の事を考えてくれているようだ。

「で、『身代わり跳ね返し君ブラックタイプ』はどう使うの?」

 札子は黒い蝋人形をくるくると回しながら尋ねる。

 お札やお守りにはすぐに興味を失っていた札子だが、黒い蝋人形に関しては手に取ったままである。

 黒い蝋人形『身代わり跳ね返し君ブラックタイプ』は、人型の蝋燭で、凝った作りでは無い分ディフォルメされているので黒魔術独特の不吉さは無い。

「えっとですね、ちょっと待って下さい」

 井寺坂はリュックの中から『黒魔術入門セット』と表紙に書かれたムック本を取り出し、それを開いている。

「この本によるとですね、この『身代わり跳ね返し君ブラックタイプ』に火を点けて、呪いの実行者を頭に思い浮かべてこう唱えるみたいッス」

 井寺坂は深呼吸する。

「この××野郎! てめーの呪いなんざ効くか! ××野郎にふさわしく陰険な呪いはそっくりそのまま××野郎に返してやるぜ! ざまーみろ! らしいッス」

「えらく感情的だな」

「いやいや、本当に書いてあるッスよ?」

 井寺坂に本を見せてもらうと、確かに井寺坂が唱えると言っていた感情的な文章が、伏字込みで一字一句間違いなく書かれていた。

「それで呪いが解けるものなのか?」

「そうやって強い念を『身代わり(略)』に送り込んで、火を消すと呪いを跳ね返せるらしいッスよ? 跳ね返す強さが足りなくても、呪いを『身代わり(略)』に送り込めるから呪いは解けるって書いてあるッス」

「でも一回しか使えないんじゃない? 頭のところ、溶けちゃうでしょ?」

 札子が『身代わり(略)』を手放さずに言う。

「まあ、人生の内に何回も『身代わり(略)』を頼る事になるなら、グッズを集めるより先に見直すべきところがあるんだろうな」

「利休のクセに常識的な事言ってるわね」

 札子が失礼な事を言っている。

「溶ける前にやっちゃえば良いんじゃないッスか? 火を点けて早口であの××野郎な事を叫んで、即火を消せば大丈夫じゃないッスかね?」

「だとしても芯が焦げるし、頭のところが歪になっちゃうからもったいないわね」

「札子さんが人形好きなのは知ってますけど、それも人形に入るんですか?」

 妹が不思議そうに言う。

 札子はこれで人形やらぬいぐるみやらが好きで、銭丸家には専用の部屋があるらしい。もちろん俺は行った事が無いので見た事は無いが、銭丸家を考えるとそれくらいあってもまったく不思議じゃない。

「なんか可愛くない?」

 札子は『身代わり(略)』を持ったまま言う。

 可愛いも可愛くないも、俺の目にはそれは蝋人形というより人型の蝋燭なので、札子の感覚はさっぱりわからない。

「じゃんぬ、コレ売ってくれない?」

「さのりんに試さなくて良いんスか?」

「効果無いでしょ?」

 身も蓋も無いとはこの事だと言わんばかりの、札子の発言である。

「さのりんはどう?」

「あの、私が思うのは、その伏字になってる××野郎は、この場合誰に当たるんでしょうか? ほら、今回の呪術って私が受けましたけど、特定の誰かって訳じゃないですよね?」

 意外と冷静な妹がそう言う。

 確かにこのムック本に書かれている『身代わり(略)』の使い方を見る限りでは、呪いを掛けてきた相手を特定できている事が前提である。

 しかし、呪術を実行したのはオカルト研究部四人で、誰を××野郎に当てはめるべきかがはっきりしていない。今回の場合は被害者が加害者でもあるわけなので、『身代わり(略)』が本当に効果のある万能アイテムだったとしても、相手を特定できないのでは効果を発揮できないだろう。

「じゃ、代表して利休にしとく?」

「何で俺なんだ」

「いや、代表と言えば部っ長でしょう。試すとすれば部っ長が自然ッスよ?」

「利休で試すんだったら、私もコレを使うのは仕方ないと思うなー」

 札子が名残惜しそうに『身代わり(略)』を手放す。

「じゃ、部っ長、さのりん、試してみましょうか」

「待て待て、それだと妹の代わりに俺が小さくなっていって、事態はあんまり変わらないって事にならないか?」

「んー、妹ちゃんは超可愛いけど、利休ちっちゃくなっても面白味は無いわね」

 そんな問題か?

 俺はそう思ったが、札子にとってはモチベーションの問題が大きいようだ。

「兄が小さくなっていくのも困りますけど、この呪いを解くならともかく、誰かに跳ね返すのはちょっとイヤですね。札子さんなんかが小さくなったりしたら、誰も匿ったり出来ないですよね?」

 妹が心配そうに言う。

「それは考えなかったが、それは確かに問題アリだな」

「うかつな事は出来ないッスね」

 俺と井寺坂は頷くが、札子は首を傾げている。

「この『身代わり(略)』は今回は見送りだな。解呪の短剣込みで」

「じゃ、ソレは銭丸先輩に預けておきますね」

「良いの? 何なら買い取るけど」

「マジッスか? 具体的にはいくらくらいで? ちょっとコッチで話しましょう」

 井寺坂と札子が交渉を始める。

「妹、どうだ? 何か変化みたいなのは無いか?」

 俺の質問に、妹は首を振る。

 確かにこれまでも前兆の様なモノは無かった。呪術を掛けた時も、海に行った時もそうだったが、意識していなかったという点が大きかったと思うので妹に確認してみたのだが、やはり効果は無かった。

「今回も効果無しだったらしいな。だとすると、妹は札子のところで夏休みを過ごした方が良いだろう」

「うん。お父さんとかお母さんから聞かれても、小さくなった理由は教えられないから。でも札子さんのところは迷惑にならないですか?」

「ならないわよ?」

 交渉中の札子にも俺と妹の会話が聞こえていたらしく、口を挟んでくる。

「むしろ、妹ちゃんなら大歓迎。利休は一緒じゃなくていいの?」

「俺は小さくなってないからな。それにさすがに俺まで銭丸家には迷惑を掛けられないから、俺は佐野家で妹がいない理由を親に話さないと」

「利休、結構うちのパパから気に入られてるから歓迎されると思うけどね」

 札子が言うが、それがプレッシャーなんだ。

 見た目が厳つ過ぎる銭丸父、銭丸宝船氏は年齢で言えば五十代のはずである。しかし、身長は百九十を超え、体重も百二十キロ。全身筋肉の塊のスーパーヘビー級のビジネスマンに気に入られても、優秀とはいえ一般の高校生である俺は、あの人の筋トレには付き合いきれない。

 ちなみに妹は札子だけではなく、銭丸兄や銭丸母、銭丸妻もお気に入りである。

 ただ、基本的には銭丸一族は札子以外全員が多忙な人達なので、家にいない事の方が圧倒的に多い。

「残るはこの『解呪の短剣』か」

 交渉成立したのか、札子が井寺坂の持つ短剣を見て呟く。

「それだけは使わせないからな」

「私だって、利休ならともかく妹ちゃんを刺すつもりはないし、そんな事させるつもりもないわよ」

 俺ならいいのか? 冗談だと信じてるぞ、札子。

「でもコレ、本物っぽいんスけどね。私がリンゴの皮を剝いた時、コレを使った時には指切らなかったッスから」

 井寺坂は自信満々に言うが、それは呪いの解呪とは何も関係無いんじゃないか?

「その短剣で突くっていうのは、マニュアルみたいなのに書いてあったのか?」

「具体的には書いてなかったッスね。部っ長を突いてみるッスか?」

「俺を刺して何かかわるのか?」

「試すなら私がやってみようか?」

「札子はどうして俺を刺したいんだ?」

 解呪の短剣は見た目にはすごく切れそうで、先端も良い尖り方をしているので物騒極まりない。

「どう考えてもその短剣を胸に一突きってのは使い方が違うだろう。もし正解だったとしても、それは却下だ。たとえば指をちょっと切るとかでは呪いは解けないのか?」

「私はケガしなかったッスよ?」

 それは呪いの解呪とは関係無いし、その短剣の効果というより井寺坂の皮むきスキルのレベルが上がっただけだろう。

「指切るのも痛そうですね」

 刃物を見て、妹は顔色が悪くなっている。

 それで胸を突かれる事を宣言されていればなおさらだ。

「じゃあ、痛くない様に使う方法を考えよう」

 俺がそういうと、井寺坂が眉を寄せる。

「短剣の痛くない使い方? なんかトンチみたいになってきてないッスか?」

「井寺坂は妹を泣かせたいらしいな」

「そんな事無いッス! さのりんは皆の妹ッスから」

 井寺坂はそういうと札子に同意を求めようとするが、札子は興味を失ったのか『身代わり(略)』をソファーに寝転がった状態で眺めていた。

「ん? 何?」

「札子も妹を戻す方法を考えてくれよ」

「妹ちゃん、可愛いからしばらくそのままでいいじゃん。私がずっと面倒見てあげるってば」

 札子は本気で言っている。

「あいつはダメだ。『解呪の短剣』だけど、これには呪文的なモノは無かったのか? 案外儀式用の短剣で、それが直接呪いを解く訳じゃないかもしれないぞ」

「届いたのは組み立て方だけだったッスからね。儀式用の短剣で解呪儀式みたいなのは何も説明は無かったッスよ。むしろよくそんな事思いついたッスね」

 思いついても効果が無ければ意味がない。

「この短剣、解呪効果は刃の部分にあるのか?」

「多分、そうじゃないッスか? 柄の部分に解呪効果があるとか聞いた事も無いし。ほら、短剣の柄に宝石とか付いてないッスから」

「刃の部分当てるだけとかじゃダメかな?ほら、こう指でつまんでみるとか」

 俺はそう言って、妹に解呪の短剣の刃の部分を触れさせる。

 恐る恐るといった感じで、妹は解呪の短剣に触れる。

「どうだ?」

「ひんやりする」

 そう言う事を聞いたわけではないが、呪いの効果が無くなったら見た瞬間にわかるくらいに妹のサイズは変わっている。少なくとも解呪の短剣に触れた瞬間に妹が元に戻った様には見えない。

「やっぱり触っただけでは効果無しみたいッスね。やっぱり切るか刺すかしないといけないんじゃないッスか?」

「ケガをしないようにする事を前提に考えよう」

 俺は井寺坂に念を押す。

「うーん、短剣ッスよ? 何か良い方法あるッスか?」

「ケガをしないところを切ってみるってのはどうだ? 例えば髪とか」

 俺がそういうと、妹も井寺坂も驚いている。

「なるほど、それは思いつかなかったッス。部っ長、やれば出来るんスね」

「やれば出来るってどういう事だ? 俺は学年で八位の成績だぞ」

「銭丸先輩は三位ッスよ?」

「髪ってちょっとでいいんですよね?」

 妹は髪の先端を少し短剣で切ってみる。

「やっぱり効果無いですね」

「今、短剣光らなかったッスか?」

 井寺坂が短剣を見ながら言う。

「さのりん、もうちょっと切ってみてもらっていい?」

「え? はあ、良いですけど」

 妹も短剣が見える様に髪をちょっと切ってみる。

 短剣が光るというより、綺麗な刃が陽の光りを反射しているだけに見える。

「気のせいじゃないですか? 私には光った様には見えなかったですけど。兄は?」

「悪いが俺にも光った様には見えなかったな」

「そうッスか? コレは効果があった様に見えたッスけど。やっぱり突いてみるのが一番じゃないッスか?」

 井寺坂が無茶を言っている。

「それは最終手段にしよう。今日、今試すことじゃないからな」

 それで今日は解散となり、妹は佐野家に戻ると札子のところに泊まる準備をして銭丸家で夏休みを過ごす事にした。

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