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軍事機密 「Z兵器」

 1940年4月2日。満州は独逸第三帝国の侵攻により、日本陸軍と満州陸軍は共闘するも首都新京を含む国土の大半を失うこととなった。

 大連で軍部首脳の討議が行われたが、想像を絶する物量と超兵器を目の当たりにし、何も結論が出ないままであった。しかし、一人の男小澤 幸成の登場によりその討議の流れは大きく変わることとなった。


 あの大連討議から一年後。小澤は日本に帰国し、呉にいた。山に囲まれた狭苦しい地形の街に存在感を出しているのが、海軍工廠である。小澤がここに来た理由は『Z兵器』なる海軍が誇る新兵器の視察である。

 大連討議の熱弁により、帝国陸海軍は『遺跡』技術解析に予算の拡大を決定したのである。それ以降『Z兵器』開発は急進的に進み始めていた。

 潤沢な研究開発費の獲得は良い事ばかりではなかった。国家予算の中の貴重な軍事費から裂かれた費用なのでその分結果を出さなければならないプレッシャーも付属される事となる。小澤曰く、(大量生産が出来るアメリカとは違い、日本は独逸の物まねをしていても埒が明かない。一撃必殺、若しくは多目的に使用できる高性能兵器を造らねば意味が無い)上層部を納得させるにはこの手段しかなかった。しかし、いづれこの戦争はアジアのみならず世界規模の人類史上最も大きな戦争になる。その時は当然小国日本だけの力では到底勝ち抜くことは出来ない。その時は米国の工業力を借りなければならないだろう。

 

 ドックに一際目立つかまぼこ型のテント。その外観はまるで天守閣を丸ごとシートで覆った様な光景であった。世界最大。重厚長大な戦艦大和である。巨額を投じ、最新鋭の科学技術を結集した世界初の原子炉搭載型戦艦である。石油を必要としないため、一度の補給で地球を約6周できるエネルギーを持つ。後部カタパルトには水上機20機搭載できる海上の要塞である。未だ初歩的ではあるが新型電探を搭載し、レーダー砲撃や射撃も可能であり、夜間戦闘も可能である。元々大和の建造は進められていたが、小澤の提案により急遽計画を大幅に見直し現在の超ハイテク化に至ったのである。『遺跡』の超小型集積回路までに行き着けなかったが、演算機の小型化によりスペースを従来の三分の一にまで縮小できたのは大きな功績であった。これにより弾道計算や目標の未来予知の計算もコンパクトになりより効率的な戦闘に赴けるのだ。とにかくこの大和にはこの時代の精一杯の技術を結集しているわけである。

 

 「『遺跡』の技術がどんどん解明されて行けば、いずれあの『遺跡』そのものの復元も夢ではありません。」

 そう小澤に話すのは、この大和の開発に携わる工学博士松芝 昭一である。

 松芝を代表し、民間人スタッフが多いのも今回の計画の大きな特徴である。いずれは戦争ではなく、庶民の生活にもこの『遺跡』の科学技術が利用される日を願う小澤の提案であった。

 「『遺跡』の復元が可能になる頃は世界は第二の大航海時代となる。それも宇宙という大海原を目指してだ、その頃には我々戦争屋も地球の外での戦術を考えなくてはならんな!」

 小澤は冗談交じりに答えた。

 「我々の祖先が文明開化を夢見て広い太平洋の向こうを望んだように今度は我々が空の上の向こうを望む日が来ているかも知れなせんな」

 「我々はこの大和を中心とした連合艦隊を結成し、未だ第三帝国の攻勢に苦しむ大英帝国へ向かい他の連合国軍と合流する。米国は以前この戦いを静観しているが、この作戦が成功すれば対独参戦の方向に傾いてくれるかも知れん。もし作戦が失敗に終われば米国は独逸に擦り寄る腹かもしれん。世界の運命がかかっている」

 二人はテントの中の未だ姿を出さない鉄の城大和をじっくり見つめていた。

 小澤にはもう一つ気がかりな事があった。それは以前から開発研究が進んでいた新鋭戦闘機の事である。それは外観こそはエンテ式と呼ばれる後部にプロペラが着いた航空機その物であるが、空中でそのプロペラを真上に移動し、即席で垂直離着陸が可能な高性能機である。その機体は陸上の二足歩行こそ未だ不可能であるが、水面に着水できる「足」をもった特異な形に変形出来るのである。充電式で行動時間3時間が限界であるが、第三帝国の重装甲歩兵に対抗する日本発の局地戦用装甲歩兵である。最大の特徴は海上での着水が可能なほどの軽量ボディーと、垂直飛行を利用した空中戦が可能な所である。これには陸軍も感心し、早くも陸戦型の研究も開始されたほどである。いずれは自律作業装置ロボット技術の擬人化が進みさらに生身の人間と同じ作戦行動が可能になるだろう。どの位の月日を費やすか解らないが、人材(兵隊)の生命を最優先に考える小澤は一刻も早く着手しなければならないと思っている。

 余談は過ぎたが、この日本発の装甲歩兵名前は『海燕うみつばめ』という。最後の試験飛行を終了すると直ちに大和に配属となる。いずれは欧州の大空を駆け巡る事になるだろう。

 

 二人の背後に青年将校が駆け寄る。

 「たった今、佐世保から連絡がありました。独軍と思われる爆撃機編隊が占領下満州の飛行場を飛び立ったそうです。おそらく方角から見てわが国本土を狙っているのではないかと・・・」

 「大連である可能性は無いのか?」

 松芝は将校に言い返した。

 「あんな巨大な爆撃機をあれだけ保有する連中がちまちました事はすまい・・・おそらく狙いはここだ。連中は大和の存在に気付いたんだ」

 「今あの爆撃機が呉に来襲したらひとたまりも無いぞ!」

 松芝の心配はよそに小澤は不敵な笑みを浮かべた。

 「いよいよ『海燕』の出番だ!性能を試すには絶好の機会だ!『海燕』の全機出撃だ!」

 小澤は青年将校に呼びかけ、伝達を急がせた。

 「責任はすべて私が採る。『海燕』全機で独逸爆撃機を迎え撃て!もたもたしてると新京の二の舞になるぞ!」

 「了解しましたッ!」

 小澤の無謀な賭けは直ぐに『海燕』の待つ呉の郊外にある飛行場へと伝えられた。






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