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開戦の序曲

1940年、新京。

 アジア希望の大都市は周辺各国からの移民と米英人、ユダヤ系移民も重なりついに人口は120万人に膨れ上がっていた。新京では、建設ラッシュが続き、出稼ぎ労働者等で街は飽和状態であった。

 

 日満安保条約により日本と満州国は『防衛協力』を名目に満州は国軍はもってはいるものの実際は日本帝国陸海軍の傘下状態であった。このような事態を国際社会が黙認するわけもないが、日本帝国は米英に対し満州経済の門戸開放と引き換えに満州国を容認させる。その影響で強硬に不承認の立場であった中華民国政府は満州国を『黙認』するに至る。

 中国の黙認とは裏腹に多くの中国人が職を求め満州に移住を行っていた。ここはアジア版アメリカ合衆国であり、人種を問わず生活できるまさに理想の国家であった。そんな平和な日々があの日を境に打ち砕かれようとはここに住む人々は誰一人予想していなかったのだ。


 突如空に出現した重厚長大な重爆撃機の編隊。それは大きな飛行機というより巨大な怪鳥の様であった。その怪鳥から『産み落とされる』小粒のような爆弾は地面に向かってくるにつれ、一粒の大きさがその怪鳥が如何に巨大であるかを物語っていたのだ。全出撃の陸海の航空隊も重厚長大な怪鳥には歯が立たずびくともしない。開発が追いつかず石油を使用する前時代の戦闘機でその数を間に合わせていた日本は、圧倒的な独逸第三帝国の工業力を目の当たりにする事となる。この怪鳥の出現で新京の大都市は一瞬で焦土と化していった。

 満州国軍統合本部は日本仕込みの武士道精神を見せつけ、最後まで新京を離れなかった。新京には『遺跡』がある。それを守り抜くことが満州軍人の精神の源であったのだ。爆撃はあくまで小手調べであり、怪鳥の編隊が去った後の新京は次に陸上からの侵攻を迎え撃つ事になった。新京の街を埋め尽くす程の背丈にして10メートル以上はある巨人の集団である。


全身分厚い装甲で覆われた二足歩行戦車とも言えるいわゆる『重装甲歩兵』の存在がこの広大なユーラシアの大地を早期平定を可能にしたのかも知れない。ついこの間まで銃と大砲しか知らなかった満州と日本の陸軍にとって1941年4月1日、この光景はまさに悪夢だった。


 その悪夢から2日たち、満州国の国土は第三帝国軍によってその半分以上が抉り取られる事となった。あの悪夢を目の当たりにした満州奪還部隊と日本陸軍にとって未だ半分も取られていないこと事態奇跡とすら思えていたのだ。

 首都機能を大連に移し、同じく撤退した満州軍統合本部は日本陸海軍の首脳を交えて会議が行われていた。

 「敵に易々と首都を明け渡すとは大失態ではないか!武人として恥を知れ!」

 テーブルを叩きつけ、感情むき出しにした日本の陸軍参謀は会議室にその罵声を轟かせていた。しかし独逸の猛攻を体験した満州側も黙ってはいない。

 「我々が一体どのような思いでこの大連に撤退しているのか解って仰っているのか?わが国土は現に独逸の軍靴にその大半を踏みにじられているのですぞ!相手は以前では考えられない巨大な爆撃機、そして人間の何百倍の戦闘行動が可能な巨大な歩兵を投入しているのです。全てが日本からのお下がりでまかなっている我々では到底かなう相手ではないという事は子供でもわかりますぞ!むしろ戦況をこの状態にまで『食い止めれた』だけでも評価していただきたいものです。不謹慎な話ではあるが、もし日本の帝都で先日と同様の事が起こっていたらそちらは上陸を阻止できていただろうか?」

 反論に対しさすがの陸軍参謀も返す言葉が無かったようだ。

緊迫した会議の中、満州の奪還作戦はおろか満州の防衛問題もまとまっていなかったのだ。ようやく新エネルギーを得て、日満の産業革命が始まった矢先の出来事であった。

 そんな中、一人の男性がようやく口を開いた。

 「この度の惨敗の要因は大きく二つあります。」

 会議に参加している日満の軍部が一斉にその男性に注目した。

 「まず一つは敵は我々と同じく『遺跡』から獲得した新エネルギーを既に本格的に実践投入している事。もう一つは『遺跡』の研究の応用によって新エネルギー以外の科学力を有している事です。先日の重爆はさて置き、今まではその発想すら有り得なかった二足歩行の装甲重歩兵を実践投入している事が確たる証拠であります」

 陸軍参謀は男性に対し口を挟む。

 「ならばわが国、・・・否日本と満州もそれら兵器に対抗する事は可能であるのか!」

 「現時点では不可能であります。我々は幸いにも『遺跡』に微量に残っていた新エネルギーからその成分の解析が精一杯で、その他の技術に関しては謎が多いのです」

 「ならば、なぜ彼らはあんな超兵器を保有しているのだ?」

 「それをご説明する前にあの『遺跡』の最新の調査結果を申し上げなければなりません。あれを我々は便宜上『遺跡』と称していますが、実は『遺跡』ではないのです。単刀直入に申しますと、あれは『宇宙渡航艦』。解りやすく言えば空を飛ぶ軍艦とでも申しましょうか?」

 「空を飛ぶ軍艦!?貴様寝ぼけているのか?ここはお前の妄想を語る場ではないのだぞ!」

 陸軍参謀の横槍を無視し、男性は話を続けた。

 「陸地にそびえる建造物では到底考えられぬ設備。海上を航行する船のようにスクリューこそ存在しませんが、それに変わる推進機の様なものが何箇所か発見されております。そして、『遺跡』の内部に描かれた地球外の地図と思われる壁画。世界のどの文明にも例の無い象形文字に似た謎の文章。我々の遠い祖先が建造したかどうかは不明ですが、これは空のはるか上に存在する暗黒の宇宙という空間と我々人類が何らかの関係があった事を裏付ける証拠にもなるのです」

 「我々は満州国土の防衛を討議しているのだ、今は貴君の考古学の講義を受けているつもりは無いのだよ」

 発言したのは満州国統合本部部長。国広 巌である。男性の延々と続く『遺跡』の解説で日満の将官たちがいらだっているのを肌で感じていたからであろう。

 「私の言いたい事がまだわかりませんか?あの『遺跡』にはこの戦況を大きく変えるヒントが眠っているという事です。そして戦況だけでなくやがて人類の進歩に急進的な発展をもたらす希望なのです。軍のお力添えを頂ければ従来の軍事兵器がガラクタに見えてしまう程の超兵器を造ってご覧にいれます。わが日本と満州が生き残れる道はこれの他にありません」


 「今の発言、もし実現できなければ貴様は売国奴になるぞ」

陸軍参謀は感情を抑え眼光鋭く男性をにらんだ。 

「その時は腹を切ります。しかし勝算はあります」

こうして、この討議により、日本と満州の国土防衛方針が決定した。この男性の正体、当時日本海軍技術将校であった小澤幸成であった。彼はその後、この世界で『日本の宇宙工学の父』として名をはせる事になるのだがそれは随分先のことであった。




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