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7:七夕の夜のあの子(あたらよ)


 今日は七夕なのでした。


 この間タイロと七夕の準備をしたご主人。

 七夕までのイベントのボランティアも、タイロに頼まれて文句を言いつつ、その夜に飲みに行くのと引き換えに引き受けました。

 ご主人、タイロが来るとすっかり嬉しくなっちゃうんですよね。

 当然、お疲れ様の打ち上げで、タイロと飲み歩いて、ご主人は酔っぱらってしまっています。ご主人は、こんなこわい顔してアルコールにはあまり強くないんです。

 アルコール以外の他の薬物には強いらしいのです。

「大体の毒物は大丈夫なんだ。クロロホルムとか嗅がされても眠くならねえんだぞ。アルコールだけなんだからな!」

 あのね、そういう薬物は普通、口に入れるものではないので。ご主人の言い訳、つくづく下手です。

 ご主人、別に酔いつぶれるとかそういうわけじゃないんですけれども、陽気になって口が軽くなって、なおかつ、すぐ寝ちゃうんです。

 気の置けないタイロが相手ならなおのこと、気持ちよーくなって、すぐにスヤァしちゃいますよ。

 とはいえ、泥酔していても、タイロをタイロのおうちまでは送っていく過保護なご主人です。夜道は危険らしいので。

 それは良いんですが、それで酔いが覚めたのかと思いきや、おうちに帰ってきてから、ベッドにも行かずにソファでがっつり寝始めてしまいました。

 ご主人、そんなところで寝ちゃダメですよ!

「うるせー。仮眠だ、かみんー。起きたらなんとかするから、寝かせろよぉー、むにゃ〜」

 もうこうなったら、スワロも起こすこともできません。仕方ないので、体が冷えないようにタオルケットをかけてあげます。

 もうご主人、本当に世話が焼けるんだから!

 どうも、七夕の夜って、何となくお祭りの雰囲気があるみたいです。ご主人たちが何となく浮かれちゃうのも、理解はできるのですが。

 そんな窓際には七夕のおうち用の笹があって、そこにも飾り付けがしてあります。

 ご主人は「俺は子供じゃない」って言って書かなかったんですけれども、スワロは、タイロにならってお願い事を書きました。

 タイロは、意中の女の子がいるんですけれども全然振り向いてもらえてなさそうなので、もうちょっと仲良くなりたいみたいです。あと、ご主人とスワロと楽しく毎日が送りたい、って書いてくれました。

 タイロはそういうところが、『あざとかわいい』というやつですね。しかたがないな。

 スワロも、ご主人とタイロが幸せに生きていけるようにって、ちゃんと書きましたよ。


 さて、ご主人も寝てしまいましたし、もう日が変わりそうな時間。

 お片付けしてから、スワロもスリープに入ります。別に眠らなくてもいいんですけれども、スワロも時々充電した方が効率がいいのと、あと一日の記憶を整理したりバックアップしたりする時間も大切だから、一応スリープの時間を取るようにしています。

 あとご主人がスワロの事を、やたらと人間扱いするので、夜は寝た方がいいとか言うんですよね。ご主人、自分は夜はあんまり寝ないくせになあ。

 ともあれ、今日はご主人も寝ていますし、平和な夜なので、まったりスリープの時間をとります。

 スワロは自分の電源関係をゆるやかに落として、省エネに入りました。

 ところが平和なはずの七夕の夜に、ちょっと不思議なことが起きました。

 スワロは機械なので、きっと人間の夢を見るっていうのはとはちょっと違うんですけれども、夢みたいなの、みることがあります。

 時々、メモリーの整理中に、昔の記憶の映像を再生したりすることがあります。またスワロはご主人との接続が強いので、ご主人の記憶のようなもの、思念が流れ込んで来ちゃったりする事もあるんです。

 多分それだと思うのですが……。



 スワロが、ふと気がつくと、いっぱいの星空の下にいました。

 七夕を彩る飾り付けられた笹の音が、シャラシャラ鳴る、川のそばの堤防のような所に来ています。

 そういえば、ご主人、言っていました。

 昔は笹は燃やしたり、川に流したりしてたって。管理局のうるさいここでは、あまりやっている人もいないし、そもそも、川も少ないですから、そんな風習もないそうです。

 それなら、ここ、どこだろう。

 笹を流す為に、色んなひとたちが水辺の方に笹を持って集まっています。

 さらに向こうには縁日があって、色んな屋台が並んでいるようです。

 人がたくさんいるんですけれども、人々はスワロの知らない人々です。

 どこだろう? だれだろう?

 スワロは急にそんな所に来てしまったので、ちょっとさみしくて、怖くなってしまっていました。

 ご主人? ご主人いますか?

 スワロがいるという事は、ご主人だってここに来てるに違いない。

 スワロはご主人を呼んでみますが、人混みの中に目立つはずのご主人の姿はありません。

 どうしましょう、不安だな。

 がやがやと、人々は楽しそうに行き交いますが、知らない人だらけの人混みの中で、スワロと目を合わせる人もいません。

 スワロが、みんなには見えてないのかな?

 なんだか、自分が幽霊になっちゃったみたい。

 そんな心細さを抱えながら、スワロはふよふよと浮かんで進んで行きます。

 どうしよう。完全に迷子になってしまったようです。圏外で調べ物もできません。

 ぴーぴー電子音で鳴いてみますが、周りの人たちは聞こえないように通り過ぎていきます。

 だめだ。やっぱり、スワロは見えてもないし、聞こえてもないんだ。きゅー、とスワロはしょんぼりしました。

 そのとき。

「あっ、お前、こんなところでどうした?」

 不意に子供の声がしました。

 声が下から聞こえたので、スワロは下を見ました。

 そこには、まだ十にもならないぐらいの男の子が立っていました。

 年齢いくつだろう?

 背は高いけど七歳ぐらいかな?

 男の子はスワロを見上げて、左手を伸ばします。

 男の子は浴衣を着ていました。可愛い子ですが、赤い髪で顔の右側に狐のお面をしています。浴衣も可愛いけどちょっとやんちゃな柄物。

「どうした? 迷子になったのか?」

 そうです。迷子になっちゃったんです。

 きゅっきゅ、と鳴いているスワロの言葉が通じているか、わかりません。スワロの言葉はご主人にしか通用しないんです。

 けれど、男の子はうなずきました。

「そっか。じゃあ。出口までいこうな」

 なんだか、その笑顔を見た事あるような気がします。

 男の子は、スワロを抱いて歩き出します。スワロは、なんだか安心しました。理由はわかりませんが、ほっとしたみたい。

 男の子と同じ視線で歩くと、屋台がとてもにぎやかで、たのしそうです。

「それにしても、お前、かわいいなー。おれ、かわいいのが好きなんだ」

 この子、スワロのこと、かわいいって言いました?

 ご主人は、酔っ払った時に、時々、スワロのことをかわいいって言いますけれど、そんなに面と向かって言われると恥ずかしいです。

「このヨーヨーも可愛いだろ。さっき、釣ったんだ。お前と似ているな」

 男の子は水の入った風船のゴムを指にかけています。それでまりのように手でつくと、中の水がぱしゃんぱしゃんと鳴ります。

 色は赤にしましま。確かにちょっとスワロに似ています。

「いろんなかわいい物があるからな、屋台は。心がワクワクするよな」

 はい、スワロも思います。

「うん、でも、みんなワクワクしてるから、集まってきちゃったんだ。今日は、七夕、めったに会えない人と会える日だ。でも、人がいっぱいだと、道に迷っちゃう。お前は巻き込まれちゃったんだな」

 そうですよね。こんなに人がいっぱいいるなんて。どこからきたんでしょう。

 みんな七夕の笹を流しにきたのかなあ。

「多分そうだ。今日はとくべつな夜なんだから」

 スワロは、男の子と自然とお話をしています。スワロの音声によるやりとりは、ご主人以外となスムーズに通用しないはずなのに。

「お前は七夕、たんざくに何か書いた?」

 男の子がいいます。

「おれも願いごと書いたんだぞ。うんと、みんなで、ずーっと楽しくしあわせに過ごせますようにって書いた。でも、みんなにはひみつ。恥ずかしいからな」

 そんなことを言いつつ、男の子はいたずらっぽく唇の前に人差し指を立てています。

 と、不意に男の子がなにかをみつけて、走り出しました。

「あっ、あにさまだー!」

 そういって駆け出した先に、黒髪の男の子が立っていました。こちらも浴衣姿です。落ち着いた紺のかすりを着ています。

 あにさまというだけあって、男と子より年上に見えます。

 ということは、この子のお兄さんでしょうか。

「おや、お前もここに来てたのか。しかもそんな姿で」

「あにさまも小さいよ?」

「いや、私はちょっと深酒をしたからな」

「おれもだよー? あにさま、お酒飲むとこういう姿になるのかな?」

 ふかざけ? この人たち、本当はお酒が飲める年なんですか? こどもにみえるのに?

「うん。一概には言えないが、こういった精神的なところで、うまく外見のコントロールができないことがあるようだ。ちょっとしたバグがあるのでは?」

「そっかあ。うーん、難しいね」

 あにさまの方は、冷静そうな美少年です。でも、なんだろう。スワロ、この子もみたことがあるような?

「とはいえ、せっかくここに来れたのだ。七夕の夜も屋台も楽しんで行こうと思うのだが。お前も一緒に回るか?」

「わーい、あにさまといっしょ、嬉しい」

「けれど、その子もお前が連れてきたのか?」

 あにさまは、スワロを見ました。

「ううん。こいつ、迷い込んじゃったんだ。出口を探してるんだけど、わかんないんだよな」

「ふむ。そうか。アシスタントには、この世界は少し荷が重いかもしれん。未練の多いものや邪念もあるし、誘惑も多い」

 あにさまは頷くと、

「この子だけ先に帰ってもらったらどうかな?」

「それがいいよ。でも、帰り方がわからないの」

「この子はスリープ中に迷ってきたのだらう。ならば、スリープを解けば、大丈夫ではないか」

「あ、そっか、そういう手があるのか。おれが命令したらいいの?」

「そういうことになる。お前がマスターだろう」

「ああ、そうだった。あにさまにいわれるまで、ちょっと忘れてたんだ!」

「危なっかしいな」

 あにさまと男の子は、スワロのわからない話をしています。怪訝に思っていると、男の子がこちらを見ました。

「スワロ、スリープは解除していいぞ」 

 えっ、スワロの名前、まだ伝えてない気がします。

「あ、でも、おれはあにさまとおまつり、楽しんでから帰るから、起こすのは後にしてくれよな」

 きゅうに男の子がそんなことを言いました。

 え? どういうことですか?

 スワロに命令できるのはマスターのご主人だけ。

「それじゃ、またあとでな」

 とスワロが尋ねようとしたら、ふっとスリープが解除されて、お祭りをしている川の堤防も、夜空も、男の子とあにさまも溶けるように消えちゃいました。



 はっと気づくと、スワロは先ほどの場所から一転、いつの間にか、いつものご主人の部屋の中にいます。

 な、何だったんでしょう、あれ。

 ソファーでは、平和にご主人がぐうぐう寝ています。

 え? 何?

 何でしょう、あれ?

 でも、あの男の子、確か起こすなって言ってました。

 そう言えば、さっきの男の子、ご主人にちょっと似ている気がします。

 ご、ご主人本人? いや、ご主人あんなにかわゆくないです。

 それでは、まさか、ご主人の隠し子? いやいや、それはないです。

 大体、スワロに命令できていたのですから、やはりご主人?

 でも、まさか、根性曲がったひねくれ者のご主人があんなにかわいい子な訳がありません。

 幻覚ハルシネーションというにも、ちょっとおかしい現象です。なにがおこった?

 ……。

 ふう。機械のスワロも、とうとう進化してこんな夢を見るようになりましたか。

 これぞ、七夕の夜のマジックなのかも。あんな想像力ゆたかな夢を見るなんて、スワロも進化しちゃったに違いありません。

 スワロは、そう思いながら、ご主人が目覚めた時にお水でも用意してあげようかと、ミネラルウォーターを冷やしてあげるのでした。


スワロのおこづかい帳

残高:1,200円(+0円)

メモ: 今日はボランティアで外出からの、タイロとの外食。節約する暇もなかったのでした。ぐぬぬ。まあそういう日もあります。

目標まで8,800円

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