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6:タオルの上から(重ねる)


 ぽかぽかする気だるい午後。

 ご主人のおうちの家事は、だいたいスワロがやっています。

 ご主人をほめておくと、実はご主人、何もしない人というわけではないんです。たまに料理もしますし、基本はぐうたらですが、そこそこきれい好きで、お掃除もしないわけじゃないです。

 洗濯物は毎日出してくれますし、そこは良いところ。まあ、脱ぎちらかしてることはありますけれども。

 それにスワロ、おせんたくは結構好きです。

 洗濯物を洗濯機で洗ってから、晴れている日は乾燥機を使わずにぽかぽかのお日様の下に干したり、ふわふわに乾いたタオルや洗濯物を折りたたんで重ねていくのは楽しいんですよ。

 世の主婦のかたはめんどくさいと思っているかもしれないですけれど、スワロは楽しいです。

 ……。

 まあ正直いうと、スワロもたまにはめんどくさいと思わなくはないです。

 頼ってくれて良いと思っても、隣のソファでご主人が足を投げ出して、むしんけいに昼寝してるのを見ると、なんだかモヤァってなります。

 そういうとき、スワロは畳んだふわふわのタオルの上に乗ってみます。

 すると、猫さんみたいな気持ちになります。猫さんがこれ好きなの、なんとなくわかる気がしますね。

 スリープにしちゃいたい気持ちです。

 洗い立てのお洗濯物の上は、スワロのセンサーでもわかるくらい、気持ちいいです。

 と、突然、ピンポンと玄関のチャイムがなりました。

 チャイム鳴らして、おうちにくるようなお友達、ご主人にはあまりいないです。

 ウィステリア?

 と、ご主人が目を覚ましました。

「おっと、そうだ、今日はタイロが来るっていってたんだ。忘れてたぜ」

 え、タイロが来るんですか?

「ああ、約束してたんだが、眠くて寝落ちしていたぜ」

 タイロとは、ご主人を含む獄卒を担当している獄卒達管理課の獄吏です。

 獄吏とは、管理局の一部で使われている職員の名称で、いわば公務員のことです。平たく言うと、獄卒の人を管理する役割を持つお役人さんです。

 タイロは、まだ若い新米公務員の下っぱですが、色々あってご主人を担当することになっています。

 ご主人は問題児で、タイロはご主人を担当できる希少な職員ということで、重宝されているらしいです。まあ、端から見ると、ただ遊んでいるだけですが(いいのかな?)。

 そんなわけで、監視役のはずなのに、タイロはご主人の舎弟みたいなことになっていて、しょっちゅう遊びにきます。

 でも、今日はお仕事の日のはずです。何でしょうか? こんな昼間から。流石にサボりではないと思います。


「ユーレッドさん、スワロさん、こんにちは! お疲れ様でーす!」

 タイロが何か差し入れの入っているらしい、コンビニの袋を持ってやってきました。

 タイロは下っぱなので、スワロにちゃん付けで呼ぶことを許されていません。

 スワロの方がずっとお姉さん(お兄さんかも?)で、キャリアが上だと思っています。そんなわけで、タイロはスワロのことを『さん呼び』です。

 タイロ、今日は何の用事で来たんですか? 遊びですか?

「スワロさんー、今日は仕事だよぉー」

 お仕事? その割にはお菓子を持ってきていますが?

 差し入れの中身は、タイロが大好きなお菓子も入っています。

「もうちょっとしたら七夕でしょ? あれの飾りつけ、命じられちゃってさ。最近のプログラムだと、獄卒の人の更生のためのチャリティーイベントって多いんだよね。更生に情操教育が必要とか言って、そういう季節のイベントも良いことになってるんだ」

 なるほど。

「でも、俺、あんまり七夕やったことなくて、飾り付けがわからないんだ。ネットで調べても良いけど、ユーレッドさんのが詳しいからね」

 確かに。

 ご主人は前職の関係で、そういうのは詳しいんです。

 それに、近年まで管理局の方針で、宗教的な行事を主として季節の行事はあまり推奨されてきませんでした。施設育ちのタイロは、その辺あまりよく知らないのかもしれませんね。

「ユーレッドさんに、飾りの作り方教えてもらおうと思って来たんだよ。言われた通り色紙いっぱい買って来ました。経費で落としますんで、ちょっと高いキラキラの多めにしましたよ」

「よし! やっぱり、キラキラしてる方がテンションあがるからな。まずは、短冊と飾りを作るか。ハサミとノリも用意したか?」

「もちろんですよー!」

 工作タイムが始まりそうです。

 なんだか、楽しそう。

 えーと、スワロも洗濯畳みながら見てていいでしょうか?

「スワロさんも、洗濯物を畳むの終わったら手伝って欲しいなー」

 まったく、タイロは甘え上手ですね。

 仕方ないです。いいですよ。

 スワロは洗濯物を畳みながら、ふわふわのタオルの上で、二人を観察するのです。

 タイロは、こんな感じですが、かわいらしい少年っぽい顔をした青年です。あれで人見知りの激しいご主人が、タイロのことは明らかに気に入っています。

 強面のご主人に怯えつつも、いけると思った瞬間、物おじしないタイロの性格は、ご主人には良いみたいです。

 それで、ご主人はご機嫌です。お昼寝の邪魔をされたというのに、嫌な顔もしません。

 折り紙を折って畳んで、ハサミを入れていくご主人。広げると網のようなものが出来ました。

「これは天の川って言うんだぜ。代表的な飾りだ。こうすると結構綺麗だろう」

「本当ですね! 他にもいろいろあるんですね。これは貝? 綺麗ですね」

「そうだろう」

「流石はユーレッドさん、よく知ってるなー」

「ふふん。笹は昨日とってきて、ベランダのバケツに突っ込んである。でかめのも採ってきてやったから、良い感じに飾り付けもできるぞ」

 あ、なるほど。

 昨日、なぜかおうちの七夕には大きい笹を何本か背負って帰ってきたの、あれタイロに頼まれてたんですか?

「笹まで用意してくれたんですか? 笹の生えてるとこなんか知らないから、プラスティックの竹で作ろうと思ってました」

「ふふん。お前の頼みだからなあ、特別だぞ。俺の監修つきなのに、作りもんの笹なんかで満足されても困るってえ話」

 ご主人、理由をつけていますが、タイロに喜んで欲しいんですね。

 ご主人がタイロを可愛がっているのは間違いないです。

 元々ご主人は子供好きだから、タイロみたいなまだ幼さを残した少年っぽい青年は嫌いじゃないと思います。タイロが自分から話しかけてくるタイプなのも、多分気楽なんでしょう。

 けれど、スワロには思うところがあるのです。

 ご主人がタイロと話している時、時々見せたことないぐらい楽しそうな表情をします。それは、どこか懐かしそうでもあります。

 もしかして、ご主人はタイロ自体も好きだけど、タイロに誰かを重ねているのかも?

 昔、誰かと過ごせなかったことを、タイロと過ごしているのかな?

 それはご主人に聞いてみないとわかりません。聞いたところで怒られそうです。

 でも、タイロとご主人が楽しく過ごしているのを見るの、スワロはふかふかのタオルと同じくらい好きです。

 きっとタイロがいると、ご主人はグレたりしないと思います。だからスワロはタイロがいてくれると安心します。

「あっ、スワロさん。せっかくだから、俺たちも願い事書こう。手伝ってよ」

 タイロにそう誘われて、スワロも短冊に願い事を書く気になりました。

 まだお洗濯畳むのは残っていますが、タイロの頼みとあれば仕方ありませんね。

 


スワロのお小遣い帳

残高:1,200円(+500円)

メモ:ウィスが風鈴を二つ売ってくれました! 儲けは1,000円でしたが半分はご主人の取り分ですからね。でも早速の1,000円越え。意外とゴールは近いかもです!

目標まで8,800円


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