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29:おこづかいのつかいみち(思い付き)

 売約済み!

 仕立て屋さんを訪れたスワロは、改めてショーウィンドウを確認しましたが、きらきらの観覧車のブローチのそばに、やはりプレートが添えられています。ブローチは少し後ろ側に下げられて、今にも姿を消してしまいそうです。

 そんな!

 どうしよう。せっかくおこづかい貯まったのに!


 *


 昨日のことがあったので、今日スワロは、貯まったおこづかいをそのまま持って、ブローチを買いに行って来ました。

 気になったので、ご主人寝ているうちに、慌てて一人でここまで来てしまったのですが、仕立て屋さんはもう開いていました。

 サンシェードの開いたショーウィンドウのガラスの向こうには、やはり売約済みのプレート。

 どうしよう。

 スワロは機械ですが、ニンゲンの半べそをかくというのは、こういう気持ちでしょう。

 仕立て屋さんのご主人に、お話を聞きましょうか。でもスワロだけだと、端末を使ったりして、文字でのやり取りはできますが、時間がかかるかもです。

 スワロはお店の前をうろうろしながら、困っていました。

 と、その時ウィステリアから、スワロに直接通信がありました。スワロはご主人への通信を管理していますが、直接、スワロにだけ繋がるIDも持っています。今日は、スワロへの連絡です。

「スワロちゃん、おはよう」

 ウィスは夜遅いおしごとなので、少し眠そうです。

「おこづかい、昨日、貯まったんだって?」

 スワロは、昨夜、ウィスに目標達成のテキストメッセージを送っていたことを思い出しました。

「買う時、あたし、よかったらいっしょに行くよ。スワロちゃんだけだと、仕立て屋さんとお話しするの大変でしょう。今日、お昼の間なら時間があるからね」

 じんわりした気持ちになります。

 きっとスワロに『るいせん』があるなら、涙がじわじわしていたでしょう。

 スワロはウィスをがっかりさせるんじゃないかと思いましたが、けれど、スワロだけでは何もできません。

 きゅー、とスワロが鳴いているので、ウィスが心配そうになりました。

「あれ? どうしたの? スワロちゃん」

 スワロはウィスにテキストでお返事して、事情をお話ししました。

 ウィスは、お昼に、喫茶店で会ってくれることになりました。


 *


「売約済みって書かれていたの?」

 ウィスはランチを食べながら、スワロに訪ねてくれます。

 ここは、ちょっとおしゃれな喫茶店です。

 ウィスはクロックムッシュを注文して、スワロに尋ねてくれました。出来立ての、チーズとハムのおいしそうなパンですが、すぐに食べずにスワロの話を待っています。

 そうなんです。

 きっと、あのブローチ売れちゃったんです。

 スワロは、ウィスにテキストメッセージも使ってお話しました。

 スワロは落ち込んでいました。

 ああ、スワロ、なんでダメなんでしょう。

 スワロが、もっとはやく、取置きしてくれるように頼んでいればよかったかも。

 ご主人、喜んでくれるかどうかわからないのも心配で、つい迷って、そのままにしてしまいましたが、昨日の様子をみると、ご主人、やっぱり観覧車のこと、きっと思い入れがあったんじゃないかな。

 きっとブローチ欲しかったのだと思います。

 他の人に渡っちゃったんだと思うと、スワロ、悲しくなってきました。

 スワロが気が利かないのが、ダメです。アシスタントなのに、ダメダメです。

「スワロちゃんのせいじゃないよ」

 ウィスは慰めてくれます。

「それに売約済みってことは、契約はしたけど引き取りはしていないのよね。誰に売ったのかわからないけれど、もしかしたら、譲ってくれるかもしれないよ」

 でもそんなことできるでしょうか?

 それに、契約したその人も本当に欲しいものなのかもしれないです。

 スワロは、おこづかい帳を前にしょんぼりしました。

 目標を達成して、シールをいっぱい貼ったノート。せっかくの貯金です。

 お金は貯まったのに、何でこんな悲しい気持ちになるんでしょう。

 でも、スワロのせいなんです。

 『自己けんお』ってやつです。

 ウィスもご飯を食べずに、なぐさめてくれますが、それが余計スワロはかなしいです。

 めそめそしていると、聞き覚えのある声がしました。

「あれえ?」

 なんだか能天気な声です。

「そこにいるの、ウィス姐さんとスワロさんじゃないですか?」

 明るい声。

「お疲れ様です! あれー、何してるんですか? こんなとこで珍しいですね」

 その聞き覚えのある声は、タイロでした。

 タイロは、ハンバーガーとポテトののったトレイを手にしていました。席を探しているところみたいです。

「あれ? タイロくんこそ、どうしたの? 今日はお仕事でしょう? 職場はここから近くないでしょ?」

「いやー、この近くの詰所に用事があってー。ついでに、お昼ご飯食べに来たんですよ。ここ、おしゃれかつおいしいんですよね。しかも、リーズナブル! 俺みたいなのにはありがたいんですー」

 といいつつ、

「相席いいっすか?」

「もちろんよ」

 むしろ、タイロが来てくれるのは救いですらあります。一気に、雰囲気が明るくなります。

「んじゃいただきまーす」

 そういって、タイロはハンバーガーを一口食べて、おいしー、と無邪気に喜んでいます。

「でも、なんか二人とも浮かない顔をしていますね。どうしたんですか?」

 そうきかれて、スワロは、ウィスの力を借りて、タイロに全てのことを話しました。

 いままで、おこづかいをためていたこと。

 それは、ご主人が仕立て屋さんでみていたブローチを買ってあげるためだったこと。

 おこづかいがたまったので買おうと思ったら、ブローチは売約済みになっていたこと。

「んあー、それはつらいですね」

 タイロはポテトを頬張りつつ、ううんとうなりました。同情はしてくれていますが、食い気は落ちないの、タイロらしいです。

「そっか。なんかスワロさんが、欲しいものがあるからおこづかい貯めてるみたいだって、ユーレッドさんから聞いてたんです。あれってユーレットさんにプレゼントしたかったんだね」

 そうなんです。でもそのプレゼントする予定のブローチが、もう売れちゃったんです。

 スワロが気を利かせて、もっと早く予約しておかなかったから。

「うーん、それは辛い」

 タイロもうつむきますが、ふと、あごに手を当てました。

「あれ? ブローチ?」

「どうしたの?」

「いえ、もしかして、ブローチって、観覧車のマークついたやつです?」

 あれ? タイロ、なんで知ってるんですか?

「もしかして、スワロさんが帽子に付けてるピンバッジと同じ形のやつですか?」

 そうです!

「あー、それなら、もしかしてー」

 タイロ、何か知ってるんですか?

 タイロはハンバーガーを片手に、小首を傾げています。

「実はユーレッドさんから、相談された件があってですねえ。急に欲しいもんができたから、なんか臨時収入入るバイトないかなって。あーもちろん、バイトって言っても、俺が紹介できるのは、お役所のお仕事関係なんですけども」

 タイロはいいます。

「それで、心当たりをあたってたら、ひとつ、荒野のハイウェイの修繕のお仕事があったんですよね。ちょっと面倒な案件で危険度の高い地域ですが、しょっちゅう行ってるし、同じ仕事もしてるユーレッドさんなら問題ないかなーって」

 あ! 昨日のお仕事です! それ!

 で、とタイロは続けます。

「なに買うんですかー? ってきいてたら、仕立て屋さんのショーウィンドウにあるブローチを買うんだって言ってたんです。『新しいスーツを仕立ててたが、そろそろ、それができあがる。それに合わせて装飾品も買おうと思ってな。ブローチなんかしねえんだが、ちょっとフォーマルな仕事受ける時はいいかな』って、言ってました。『ユーレッドさん、流石は伊達男ですね』って俺は言ったんです。で、ユーレッドさん、『それなら金の都合もつくから、取り置いてもらえるよう頼んでくるぜ』って」

 タイロは、ポテトをむしゃむしゃ食べつつ、

「さっき、ショーウィンドウ通りがかったら、それっぽいブローチが見えたんですよね。ユーレッドさん、好きそうだし、スワロさんの最近つけてるピンバッジと同じでお揃いなんだなーって思ってました」

「えっ、それって、ユーの旦那が買い取りの予約をしたってこと?」

 ウィスが尋ねます。

「多分そうですよー。俺と話した後、仕立て屋さんにいくっていってましたもん。あっ、そうだ。よかったら、俺、仕立て屋さんに聞いてきてあげましょうか? この後、管理局に戻るから、道すがらですし」

 タイロはそういいます。

「俺、あのお店、ユーレッドさんのお使いで行くことありますし、いっしょに行ったこともあります。多分、顔覚えてもらってそうだし、教えてくれると思いますよ」

 それを聞いて、ウィスは安心した顔になりました。

「よかったわね、スワロちゃん」

 はい。

 でも……。

 スワロ、どうしましょう。

「どうしたの?」

 スワロ、ご主人のブローチのためにお金を貯めてきました。このお金、ご主人にブローチのお金ですって、渡したら良いのかな。

「あー、ユーレッドさん、結構プライド高いですもんね。それに自分で予算の都合つけてるから、スワロさんに出されたお金を、素直に受け取るとは思えませんよね」

「それだわ。旦那、確かに受け取らない。自分のために使えとかいうわよ」

 ウィスも唸ります。

「タイロ君するどいわね」

「えへへ、俺もそろそろ付き合い長くなってきましたもん。それくらいわかりますよー」

 タイロは、すぐに困った顔になります。

「でも、せっかく、目的のために貯めたのに、使い道がないのも、なんだかつらいですよね」

 そうなんです。でも他に買いたいものとかはなくて。

 自分のためって言われても、スワロ、いきなり困ります。

「そうだ。スワロさんが貯めたおこづかいって、いくらぐらいなんですか?」

「一万円ね」

「それくらいだったら。んーと、俺、あんまり相場とか詳しくないんですが……、ひとつ思いついたことが……」

 タイロ、それはどういう方法でしょう?

「まあ、あの、こういうテキトーな俺の思いつきだから。もし的外れなこと言ってたら、ごめんなさいなんだけどー」

 と、言ってタイロは話し始めました。


 *


 スワロが廃墟街に帰る途中、ふと、道の向こうにご主人が立っていました。

 いつもの白いスーツなので目立ちますが、暑い最中に見ると幻みたいな怖さがあるので、ご主人が敵だったらこわいだろうなーと、ちょっと思いました。

 でもご主人、難しい顔でしたが、怒っているわけではなさそうです。

「スワロ、朝からどこ行ってたんだよ。ちょっと遠い所まで行ってたんじゃねえか?」

 ご主人様はスワロの居場所がGPSで分かるので、どうやらスワロが仕立て屋さんのある街のほうに行ってたのを知っているようです。

「ん? ウィスと待ち合わせしていた? それなら良いんだが」

 と、ご主人は、あごを撫でます。

「お前にも一応武装はさせてるし、そもそも戦闘用と言われればそうなんだが、あんまり一人で危ないところは出歩くなよな。パーツ取り目的で、拉致されたりとかしたらどうすんだよ」

 どうやらご主人、心配して、昼寝もそこそこに迎えにきてくれたようです。

「さ、帰るぞ。それともどこか寄り道するか? 散歩するには暑いけどな」

 ご主人は、そういってスワロを肩に乗せてくれました。

 なんだか、ご主人、今日は優しいな。

 スワロの事情は、きっと知らないと思いますが。スワロ、こういう時のご主人はとても好きです。

 だから、ご主人に、やっぱりよろこんでほしいです。


スワロのおこづかい帳

残高10,000円(目標達成済)

ブローチのこと、危うくどうなるかと思いました。けれど、ウィスとタイロがいてくれてよかったです。このお金、どう使うか、スワロいっぱい考えました。

貯めたお金はブローチを買うお金ではなくなりましたが、ご主人、よろこんでくれるとよいな。

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