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2:拾ってきた夏の音(風鈴)


 スワロがおうちでおこづかい帳を眺めていますと、ご主人が帰ってきました。

 スワロのおこづかい帳。

 ひよこの絵柄のノートなんです。

 いつもは家計簿はデジタルのアプリでやっているのですが、ご主人が「情操教育には、ちゃんとした紙のものが良いのかも」と、柄にもないことを言い出して、ぶんぼうぐやさんで紙のかわいいノートを買ってもらったんでした。

 それにデジタルおこづかい帳で処理したものを、スワロの備え付け内蔵ミニプリンターでレシートに印刷して、ぺたっとのりで貼っていく方式です。スティックのりもかわいいの買ってもらいましたよ!

 表紙にはひよこの絵が入っていて、ファンシーです。スワロが選んだんですよ。中もかわいいです。

 でも、ご主人、これ買う時に、大分キョドってましたねえ。

 俺のじゃない! みたいな顔をしてお店の人を睨みながら「包装してくれ」とか言ってましたけど、ピンク色の入ったサングラスに、白いジャケット赤いシャツ、変なネクタイのご主人にまず突っ込めるお店のひとはいないです。

 心配しなくても、カタギの人はつっこめないですからね!


 さて、そんなご主人は、今日はまじめにお仕事をしてきたようです。

 ご主人は、時々仕事先でなにか拾ってくることがあるんですけれども、その日も拾い物をしてきました。

 ご主人の仕事は、主に荒野というフェンスで隔てられた居住区の向こう側に行って、汚泥スラッジとか囚人プリズナーとか呼ばれる、良くないナノマシンでできた化け物を倒してくることなんです。そういったものを駆逐していくのは、ご主人たち【獄卒】と呼ばれる人たちのお仕事なのです。

 荒野はかつて居住区だったところもあるらしいです。しかも、裕福だった場所がたくさんあって、そんな廃墟にはかつて人が暮らしていた痕跡があります。

 なにやら、当時、着の身着のまま逃げたとという話ですから、何かしらの生活用品が残されているのは珍しくないんですけれども、狩りのついでに金目の物をみつけることもあります。そうした物には居住区に持ち込み可能なものもあって、獄卒の人たちの副収入になります。

 まあご主人は別に金目の物だけを探しているわけっていうわけではないので、ちょっと自分が気に入ったものがあったら、拾って持ってきちゃうんですけれども。

 そんなご主人が今回、何を思ったのか拾ってきたのはきれいなガラスの丸いものでした。透明なガラスにお花の絵が描いたものと、陶器になにか描かれているものがあります。

 おまんじゅう用の紙の箱に並べられていて、なんとなくレトロな感じ。

 何だろうこれ。……おゆのみかな?

 売れるので、食器を拾ってくることも確かにあるのですけれど。

 スワロがじっと見ていますと、仕事帰りのシャワーを浴び終わったご主人が、お風呂場からあがってきました。

 鼻歌混じりでご機嫌です。

「どうしたスワロ、何見てんだよ」

 これ何ですかご主人?

「ああ、お前知らないか? それは風鈴ってやつだ」

 風鈴はわかります! でも、こんなのでしたか?

「ああ、ウィンドベルタイプのがおおかったかな。これは、ちょっとレトロなタイプで、骨董屋とかにはよくあるんだが、お前には見せたことなかったな」

 ご主人は頭にバスタオルを被り、タンクトップにジャージの姿で、お部屋から糸をもってきて短冊とガラスを結びました。

「ここが壊れていたんでな。でもこうやって直してやると」

 と、ご主人は風鈴を吊るして、揺らしました。

 リンリーンと清らかで涼しげな音が鳴ります。

 とても良い音です!

「風が吹いたら、こうやってリンリンって音が鳴るんだよ。夏の風物詩だぜ」

 本当だ、すごい綺麗な音ですね、ご主人!

「そうだろう。なかなかここまで綺麗な音が鳴るの、残ってねえんだ。なんせ繊細な割れ物だからな」

 本当にきれいです!

 でもこういった風鈴って何に使うんですか? 飾り?

「飾りもあるが、音が涼しげだろう。人間ってのは、思い込みで涼しくなれる生き物なんだよ。体感温度が変わるってーか。昔の人ってのは冷房とか何もないわけだからよ、せめてもの音を聞いて涼しくなろうとした結果の産物みたいだぞ」

 そうなんですか! 昔の人すごい!

 それじゃあ、今年の夏は、この風鈴を下げていればエアコン付けなくていいんでしょうか?「いや、それはやめろよ。俺も暑いのが苦手だけど、お前はオーバーヒートしたら困るだろう」

 それはそうです。

 そうかぁ、電気代が安くなるかなと思ったんですけれども。

 ご主人はそういうとニヤリとします。

「電気代はあんまり気にすんなって。ここは、廃墟街のマンションだぞ。しかも、インフラ繋いだまま放置されてる。電気やガスはそこから、無断でちょちょっと繋げてるるし、金については大丈夫だって」

 ……。

 何か全然ダメなことを聞いた気がします。それ、盗んでるのでは?

「なんだよー。最低限の基本料は払ってるってよ。大体、俺がここに住んでやってるからこそ、変なやつが入ってこなくて、治安維持が保たれてんだ。結構感謝されてんだからな。あいつらから、顧問料として金もらっても良いくらいだぞ」

 本当かなあ。

 実は、ご主人、スワロもよく分かんない所が実はあったりするんです。ご主人はスワロのことを全部知ってるのに、自分はかんじんなところで鍵をかけちゃうのです。ずっこいです。

 だから、スワロもしらないたくさんの秘密がご主人にはあるみたい。

 風鈴の音の中、涼しげな顔のご主人が、こういう時はちょっと腹立たしいです。


 けれど、スワロも風鈴のことは気に入りました。

 いくつかは、売ってしまうかもしれませんが、一つとってもきれいな音のするの、おうちに置いておくことにします。


スワロのおこづかい帳

残高:120円(+120円)

メモ:今日はご飯に半額のおそうざいを買ってきました! 少しだけ食費が節約できたのでその分を貯金します。

目標まで9,880円

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