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28:黄昏時のハイウェイ(西日)

「よーし、次」

「次、入れ」

 朝のフェンス近くのゲートの混み具合は、慣れていてもうんざりしちゃいます。


 ご主人のお仕事は、今までにも紹介している通りです。本日はその中でも、ごくごく基本の普通の出勤風景です。

 まず、朝は九時か十時の時間に出発です。ご主人は朝が弱いので、まだ眠そうなことが多いです。

 荒野と居住区の間にはフェンスがあって、それで隔てられています。その間にゲートがあります。

 そこで獄卒の人たちは身分証を見せて、ゲートを通してもらいます。もっとも、裏道もあるわけで、フェンスの破れ目などを使ってコソッと荒野に入ることもしばしばですが、見つかると減点です。

 ご主人は別に減点されても平気なのですが、お役人さんと揉めるのも面倒なので、ゲートを使うこともそこそこ多いです(帰り道は逆に抜け目から出ることも多いですが)。

 ご主人、今日はここまで自前のオートバイで来ています。徒歩で来ることのが多いのですが、そのまま荒野に乗り入れる予定らしいです。

 前にちょっといっていましたが、ご主人、オートバイは何台か所有しています。荒野で拾ってきたものも多いです。四輪の自動車の所有については、獄卒の身の上だとなにかとややこしかったり、周りの獄卒の人からも目立つらしくて、ご主人はそれを避けています。

 しかし、オートバイは、保管場所の確保も楽なので所有しているみたいです。実際、結構便利に使っています。

「やれやれ、ここの混み具合、さながらテーマパークのゲートだな。もぎりやってた俺としては懐かしいんだが」

 と、あくびまじりのご主人です。

「こいつらの行き着く先が、夢の国じゃなくて地獄だと思うと、すんげえ笑えるなー、スワロ。なんか楽しくなってくるぜ」

 笑えませんよ、ご主人!

 何いってるんですか! まったく人が悪いんですから。

 流石のご主人も、ゲートの前ではオートバイから降りて引いています。

 ゲートの兵隊さんにIDを見せて通してもらうのですが、

「おい、貴様」

 と早速止められます。

「乗り物の乗り入れは……」

「あー、うざってえな。許可はとってあるだろ? 脅威の討伐及び道路破損修繕のため、ハイウェイ跡地まで行くから乗用車使用を許可するって」

 と、IDにくっついた許可証を差し出すご主人。

「これだけアナログにしやがって。デジタル管理しろよな」

「口答えするな」

「あーあ、見慣れない奴がいるとすぐこれだ」

 ご主人、結構、ゲートの兵隊さんには有名人らしいです。ID見せるまでもなく顔パスで通してもらえることも多いのですが、新入りのひとやヘルプで派遣されたひとだと、すんなり通してもらえないので、不機嫌になります。

 ともあれ、無事にゲートが抜けられます。

 獄卒の人たちは、グループで囚人のハンティングをするひとたちもいますが、割と協調性はないのでバラバラに単独行動なひとも多いです。

 ゲートを抜けると割と自由なので、三々五々、広がっていきます。

 荒野はおっかないところですが、開放感はすごくあります。荒野とは言えど、襲撃されて人が住めなくなったというだけで、緑地や森もありますし、実のところ市街地よりも景色はきれいです。

 スワロ、意外とゲートを抜けたあとのこの辺りの荒野は好きなんですよね。

「さあてと、今日は夕方まで旧ハイウェイの管理だな。まー、依頼されたわけじゃねえが、よくツーリングする場所だから、余計な破壊はされたくねえし」

 あそこでツーリングしているの、ご主人くらいですからねえ。

 道路の修繕キットは、ご主人にも扱えるようなものです。壊れたアスファルトの地面にばら撒いて水をかけると、ふくらんでそれなりの感じに修繕してくれます。あとはご主人がバイクで何度か踏みならすといいみたい。

 管区の間は鉄道での移動が主流です。なので、道路は本格的に直す予算は与えられませんが、何かあった時には使えた方がよいので、派遣される獄卒がついでに直す時には、その材料は与えられるし、それに対して賃金が与えられます。

 このお仕事、ご主人は、趣味と実益を兼ねるみたいで、そこそこ率先してやっています。

「それじゃ行くか。スワロ、落ちねえようにつかまってな」

 ご主人はそういうと、エンジンを蒸してスロットルをひねります。

 青いお空と大自然の澄んだ空気。

 囚人や汚泥もいるんですけれど、ひとによる汚染のない荒野をオートバイですすんでいくのは、気持ちが良いです。

 これもなかなか贅沢ですね。



 その日は、夕方まで作業をしていました。

 途中、囚人に襲われたりもしましたが、ご主人が苦戦するほどの大物はなく、なんなく排除完了です。ご主人にとっては、お昼ご飯の後の軽い運動くらいなもんです。

 それよりも、ハイウェイの地面を直す方が苦労しています。

「あーあ、この作業がもっと簡単なら良いんだがな。つうて重機持ち込んで作業なんかはしたくねえし」

 比較的簡単な作業といっても、それなりの手間はかかりますからね。

 それに今日もそこそこ暑かったですし。ご主人は、パラソルを持ち込んで休憩しながらしていましたが、それでも今日はよくがんばった方と思います。

 今日は素直にお疲れ様でした、と伝えたいですね。

 そうこうしているうちに日が暮れてきました。

 お空は赤くなり、ゆるゆるとお日さまは西におちていきます。

 ゲートは夜になると閉まります。

 ご主人は一泊する小屋なども知っていますが、今日は帰る予定のようでした。

「さてと、少し走ってから帰るか、スワロ」

 ご主人はそういって、スワロを軽く撫で、エンジンをかけました。

 ハイウェイ跡地は、今でもバイクでの走行がかろうじて可能です。ご主人曰く、機体の性能と操縦者の技量は必要とのことですが、ちょっと揺れますけれど、日々の最低限のメンテもあって、危険を感じるほどではないです。

 夕暮れの誰もいないハイウェイを走るのは、とても気分が良いです。スワロはご主人の肩の上で風を感じています。

「スワロは、そろそろ海が見えるぜ」

 そう言われて、スワロはそちらの方を見ました。

 確かに海が見えます。ハイウェイは高いところにあるので、森の向こうに海が見えて、おひさまが沈んでいっています。

 海は黄金色にきらきらしています。すごくきれいです。

「ここからの景色はなかなかいいんだよな」

 本当ですね。ご主人、それで今日は夕方までお仕事頑張ったのかな。

 そう思いながら海を見ていますと、不意に黒い金属の残骸が見えました。

 海水浴の日に見たのと同じです。

 あの時はなんだかわかりませんでしたが、スワロ一つ思い出しました。

 あれは元々観覧車だったって。

 今はゴンドラは落ちてしまって、スポークだけが残っているって。

 確かに、そうしてみると、あれが観覧車であるのは間違いなさそうでした。

 観覧車の残骸が黄昏の太陽を浴びて、きらきら輝いています。

「んん? どうした?」

 ご主人が尋ねてきました。

「あれのことか? ふふ、アレは、黄昏時が一番きれいだろ? ……昔みたいにイルミネーションで輝くことはないけどな」

 ご主人はそういって、目を細めました。

「さて、そろそろ帰るか。ゲート目前で締め出されちまうのも、腹が立つからな」

 スワロは、ご主人に何も聞けませんでした。

 あの観覧車、ご主人にとって、もしかして思い入れのあるものなのかな。確かに、昔からご主人はあの観覧車の残骸を見るのが好きみたいで、この道をよく通っていました。

 でも、その理由をはっきり聞いたことはありません。

 スワロとご主人は、神経的な接続をしているのに、スワロはご主人のこと、知らないことも多いのです。

 ご主人はスワロのことを知ってるけれど、スワロからのアクセスでは、ご主人はすべてを明かしません。秘密の鍵でかくされた感情や記憶を、スワロは読み解くことができません。

 ずるいな、ご主人。

 沈んでいくお日様の光を浴びて、スワロ、わけもなく、そんな気持ちになります。

 全て知れば、もっとご主人に有益なサポートだってできるかもなのにな。

 そんなことも伝わるわけもなく、差し込む西日の中、スワロとご主人は市街地へと帰って行きました。


スワロのおこづかい帳

残高10,000円(+200円)

今日のお仕事から、ご主人、スワロの取り分をくれました。やったー! これで、目標達成ですよ!

早速明日買いにお店にいきます!

でも、ちょっと気がかりなことがあるんです。あれ、見間違えだと良いんですが。

目標まで0円。目標達成。


 *


 ゲートを通って市街地に入ったころ、まだ西日が差し込む時間でした。

 今日はご主人がバイクに乗っているので、移動が早かったので、夕方の時間のうちに帰れたのでした。

 ご主人がちょっとした用事を済ませるのに、獄卒街の方に入ります。くだんの仕立て屋さんはその辺りにあるのでした。

「すぐに用事が済むから、ここで待ってな。言伝があるんだ」

 ご主人、どうやら酒場に何か用事があるようです。どうもお酒を飲んだり、博打をするつもりではないようですね。

 それなら良いですよ。スワロ待っています。

 ご主人を見送って、スワロは周りをふよっと漂って暇つぶしです。

 この辺りは飲み屋が多くて、夜の歓楽街の気配は夕暮れの街の中に、すでにあふれ出しています。

 その中に仕立て屋さんがあります。獄卒のひとの注文が多いから、ここの立地が良いんでしょう。

 今日はもう遅いので立ち寄りませんが、お金はご主人にスワロへの配当をもらったら達成しています。明日にでも買いに行きます。

 そわそわしつつ、ショーウィンドウを覗きましたら、もうサンシェードが降ろされていました。お店は閉店しているようです。

 ただ、シェードの間からあのブローチが見えていました。

 差し込む西日に朱と黄金色に輝くブローチは、あの日昼間にみた感じと違います。

 たそがれの光を移して、宝石がきらきらしていて、まるでイルミネーションみたいです。そして、それが、さっきみた観覧車の残骸と、どこか似た気配のような気がしました。

 やっぱり、ご主人、あの観覧車と関わりがあるのかな。そして、何か思い入れが……。

 と、不意にスワロが見ていると、ブローチの手前の右はしに白いプレートがありました。文字が書いてありそうです。

 ここからは見えづらいですが、スワロのカメラを駆使して内容を把握します。

『売約済み』

 えっ?

 スワロは少し慌てます。

 売約済み? えっ、でも、まだショーウィンドウにはありますし。もしかして、売約済みなの、右隣のネクタイピンのほうじゃないのかな。プレートの位置が微妙です。

 それに文字だって、スワロもちゃんと確認できたわけでもなくて。

 あと、プレートもいくつかおかれていますから、もしかして、関係なくおいているだけ?

 どうしよう。お店、今日はもうしまっています。でも、仕立て屋さんはきっとまだいると思うし、聞いてみようかな。

 でも。

「おい、スワロ何やってる?」

 ご主人の声が聞こえました。

「なーんだ。そこにいるのか。もう用事終わったぜ」

 ご主人はやってきて、スワロを肩に乗せました。

「そうそう、新調したスーツだがもうすぐ出来上がるとよ。出来上がりが楽しみだよな。また取りにこようぜ」

 はい。

 スワロはそう答えましたが、ご主人、そのままさっさと立ち去ります。スワロはもう一度よく見たかったのですが、ご主人にブローチのことを伝えていないので、伝えて見にいくわけには行きません。

 うーん、心配だな。

 スワロの見間違いだと良いんですが。

 気がかりになりながら、夕方の街をスワロはご主人とおうちに帰りました。

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