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27:揺れるしっぽと休憩室(しっぽ)

「スワロちゃん、おこづかい、もうすぐたまるじゃない。すごいね」

 今日はウィステリアと街に来ています。

 もうすぐブローチが買えるので、ウィスとこの間選んだラッピング素材についての最終打ち合わせです。

 おこづかい帳もシールで飾られてかわいくなっていますよ。

 もうすぐご主人のスーツが出来上がるので、その時に買えると良いなって思っています。できたら、最低、前の日くらいにはいけるといいんですが。

「そうだね。楽しみだね」

 ウィスはお手伝いはしてくれますが、スワロを尊重してくれているので、残り400円を払ってあげるとはいいません。そういうウィスの気持ち、とても嬉しいです。

 喫茶店で打ち合わせした後、ウィスはお昼からお仕事があるので、そちらまで送って行きます。

「そういえば、旦那はひとりでお仕事なの?」

 ご主人は、寝てます。

 雨の日は「こんな雨の日に外出できるかよ」って寝ていますし、晴れた日は「こんな暑い日は日中でかけるもんじゃねえ」って、お昼寝です。

 結局、寝ています。

「あらあら、相変わらずで困ったわね。まあでも、今月も囚人ハンティングの成績は上位クラスで、エースとして名前が張り出されてたからなあ。がんばってはくれているんだけど」

 ウィスはやさしいので、苦笑して済ませてくれますが。

 だって、アレは暴れん坊のご主人のシュミみたいなものですもん。

 と、その時、ウィスが、あっと声を上げました。

「あれって、旦那じゃない?」

 あっ、本当だ。

 ご主人、いつもの白いジャケットに赤いシャツなので、とても目立ちます。今日はピンク色の入ったいつものサングラスをかけていますね。

 仕立て屋さんのお店から出てきます。

 出来上がりはまだなので、何か調整に呼ばれていたのでしょうか。

 きゅきゅっと声をかけて見ると、ご主人、こちらに気づきました。

「あっ、なんだよ。お前らもこの辺りに来ていたのか?」

「旦那こそ、今日は寝ているんじゃなかったの?」

「んー、まあ、その、目が覚めちまったから予定変更してだな」

 ご主人、なにやら紙袋をもっています。

「そうだ。スワロにいいもん買ってやったぞ。仕立て屋のオヤジが仕入れてたんだが」

 がさごそと出してきたのは、黒い輪のある白いしっぽのような、もふもふの毛並みのついたキーホルダーみたいです。女の子がバッグにつけていたりするものに似ています。スワロがつけられるよう、マグネットがついています。

「これをこうしてだな」

 ぱちんとスワロの後方にご主人は、それをつけます。

「夏にはちょっと暑苦しいんだが、この素材なら夏毛感あるしな」

「あらかわいい。耳なんかもつけたくなるわね、これ」

 ウィスがスワロを見てにこにこします。

 ウィスがいうからには、おしゃれでかわいいの間違いなさそうです。ちょっと嬉しい。

 でも、ご主人、急にどうしたんです?

「んー? いや、仕立て屋に最後の調整で呼ばれたから来たんだが、ちょうどお前に似合うかなーと」

 と、言いつつ、

「まあ、ウィスと出かけられるならよかったんだけどな。最近、お前、夢を見ることがあったりして、情緒不安定な気がしたから」

 スワロが落ち込んでると思ったんでしょうか。

 そんなことは、ないと思いますが……。あの夢を見た後は、確かにちょっと静かになりがちでしたけど。気遣ってくれたようです。

「ふふ、旦那もスワロちゃんには優しいね」

「べ、別に。まあでも、なんだ」

 ご主人、ちょっと眉根を寄せつつ、

「ま、お前がスワロと遊んでくれるのは、ありがてえとこもあるんだがな……。他にスワロ預けられるほど、信用おける女はいねえし」

 ご主人、珍しく素直です。

「ま、感謝はしてるぜ。今度何か礼をしてやるよ」

「そ、そうかな。それなら良いんだけど」

 それを言われてちょっと頬を赤らめてしまうウィスです。

 ウィス、ダメですよ!

 ご主人のこんな言葉程度でほだされちゃ!

 ウィスは、やっぱり、基本がお嬢様なのでご主人みたいなわるい男に騙されそうで心配です。


 ご主人は夢を見た時のことを心配してはいましたが、かといってスリープを行って情報の整理をするのも大切なので、心配しつつもスワロをスリープさせています。

「フカセのやつ、なにか変なプログラムしたんじゃねえかな」

 ご主人、フカセさんが嫌いなせいか、彼に対する反応が相変わらず辛辣です。

 そんなことないですよ。フカセさんは、アレで天才なんですから。

 スワロはそう言いますが、ご主人は「どうだか」と言い捨てています。ご主人は主治医のオオヤギ先生のことは好きですが、フカセさんは嫌いみたいなんですよね。仲良くして欲しいです。

 今日もスワロはスリープに入ります。

 いわゆる夢は毎度見るわけではないのですが、ここのところ見ることが多いです。

 どうやらこの日も。

 しかし、この日はこわい夢ではありませんでした。


 スワロは、ふわふわした空間にいました。

 周りはうすいパステルのオレンジやピンクの色付けで、わたがしのようにふわふわな印象です。

 その中におもちゃのような形をしたおうちがあります。中に入ると、機械室のような無機質な部屋が並びますが、そこに、きゅうけいの為のお部屋があって、たたみが敷いてありました。

「やあ、また会ったな」

 ふとみると、座布団にだれか座っています。

 黒髪の美少年で、今日は甚平のような服を着ています。

 それは『あにさま』でした。

 こんにちは。このあいだはありがとうございました。

 スワロはあいさつをします。

「なに、気にすることはない」

 あにさまはそう言って微笑み、座布団を勧められて、スワロはそこに座りました。座布団は思ったよりふかふかでした。

 スワロにお茶を入れてくれます。目の前には茶菓子もありました。

「粗茶だが」

 夢の中でも直接お茶を飲むわけではないのですが、ここでのスワロは飲んだ気になれるようです。お茶。香りも良くて美味しいです。

「今日は、お前と話ができそうでよかった」

 おはなし?

「うむ。話をすると言っていたあの観覧車のピンバッジの話だ。話が途中だったからな」

 あにさまは窓の方を指さします。

 そこには、ぴかぴかの観覧車が見えていました。スワロはそれを見上げます。どこかで見たことがある気がします。

「私やネザアスは、ここで働いていた。私は裏方の仕事をしていたが、ネザアスはガイドやショーなどを担当していてな」

 あにさまはお茶を飲みながら、そう話します。

「ここが慰問施設となってからは、子供の相手はもっぱらネザアスがやっていた。……しかし、送られてくる子供もだんだん少なくなり、誰も来なくなっていった。その頃には、ここの施設も傷み始めていて、今でいう囚人、つまり悪意のナノマシンの化け物に襲われることもしばしばだ。スタッフは減って、我々だけになった」

 あにさまは目を伏せて言います。

「ネザアスは、そこで最後にツアーを計画した。ツアーはそれまでもしていたが、今ある施設でなるべく規模を大きくした。ネザアスは私も巻き込んで、準備をした。それは上層部に働きかけて、なんとか一部だけでも保護してもらおうという目論見もあった。我々の施設が役に立つのがわかれば、もう少し考え直してもらえるかもしれない」

 しかし、とあにさまは言った。

「ピンバッジもできあがり、あとは参加者の到着を待つだけになった。しかし、参加者は来なかった。来るはずの子供達になにか問題があったのか、来る道中に襲撃を受けたのか、そこは不明瞭だが、とにかく中止になった。以降、団体で子どもが派遣されてくることは二度となかった」

 あにさまはそう言った。

「ネザアスは、ここを大切にしていたからな。その時はずいぶん落ち込んでいたようだった。あの時の彼にとって、ここを守ることだけが、正気を保って上層の彼らに仕える為の支えだったから」

 そうだったんですか。

 ご主人、それで仕立て屋さんでブローチを見て、考えていたのかな。

「ブローチ? ああ、それはガイドのスタッフ用のブローチだったのでは? 確か少し豪華な印象でキラキラしたものだったような。準備期間中も、ずっとそれをつけていたと思う」

 そんな経緯のあるものだったんですね。

 どうしよう、それならご主人、今でも欲しいのかな。ご主人の過去の傷にふれることになるかも。

 スワロは迷いが生じます。

「ふむ。ブローチをあげたいのか。確かに、やつは繊細なところはあるが、もう過去の話。お前にピンバッジをつけてやっているくらいだ。おそらくだが、喜ぶのではないだろうか」

 そうだと良いのですが。

 スワロが考え込んでいると、あにさまがそういえばと話題を変えました。

「お前のそのしっぽはずいぶんと可愛らしいな。ネザアスにもらったのか?」

 ああ、これですか。

 スワロは、夢の中でもしっぽをつけていたのを思い出しました。今日はしっぽをつけたままスリープしましたものね。

「昔からあれはかわいいものが好きだからな。自分でもそのようなものをつけていて」

 自分でも?

「そうだ。ここなら見せられるかな。お前にも見せてやろう」

 そういって、あにさまはスマートフォンを取り出します。ぽちぽちと押す姿は、うちのご主人とちがっておぼつきません。多分、機械が得意でないと思います。

「これだ」

 そういって見せてくれた男の子は、あの七夕の夜のお祭りで出会った男の子です。

 猫のような耳のある帽子をつけていますが、しっぽのアクセサリーも確かにつけていました。かわいらしいです。

「ほかにもある。フードに耳のついたものもあって……、昔はよく着ていてな」

 あにさまは夢が終わるまで、男の子の写真を見せてくれたのでした。


 スリープからさめて、スワロは色々考えます。


 あのあにさま、やはりドレイクさんに似ていますが、本当にそうなのかな。あと話していた内容も本当にそうなのかな。

 うーん。

 スワロ、この夢の扱いをどうしたらよいのか悩みますね。夢というにはちょっとリアルな感じもありましたが。

 それにあにさまに見せていただいた写真の数々。あの男の子、結局、ご主人なのかな、誰なんでしょう。

 まあ良いか。とりあえず、再現してみましょうか。その方が深く考えられそうです。

 スワロの記憶から引き起こして、画像を作成してみます。これをプリンターで印刷して……。

 びーっとプリンターから印刷された写真は、不完全な気もしますが、あにさまと耳と尻尾の付いた男の子の写真です。

 うーん、再現度高め! 確かにこんな感じでした!

「スワロ、きゅっきゅきゅっきゅと、朝からどうしてんだよ。俺はまだ眠てえんだからおとなしく……」

 とご主人は、寝ぼけ眼でやってきましたが、ふとスワロがテーブルの上に置いている写真をつかみました。

「っ、つっ! な、なんで、っ、こんなもんが!」

 ご主人、顔が真っ赤になってから一気に青ざめています。それからまた赤くなっています。

 どうしました? ご主人?

「がが、っ、ど、どうして、これがっ? な、なんだ? これ、ス、スワロ、こんなデータをどこで!」

 ご主人、明らかに動揺しています。

 えーっと、夢でというか、スリープ中のデータ整備でというか?

「あああ、こんなもん流すのはロクスリーのやつだなあっ! わかってんだぞ、アイツ! 大量にデータを持ってんのは知ってるからな!」

 えっ、それは冤罪な気がします。

「許さねえ! アイツ、人の黒歴史を!」

 慌てて連絡しようとするご主人。それをスワロはわからないままに引き留めながら、あの男の子の正体に思いを馳せるのでした。



スワロのおこづかい帳

残高9,800円(+200円)

半額セールでげっとしたお魚のおかげで、明日くらいに達成できそうです。そうしたら、ブローチを買いに行こうと思います!

ですが、あにさまの夢の話が本当だとしたら、ご主人、ブローチを買っても喜んでくれるのかな? スワロ少し不安になってきました。

目標まで200円

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