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スワロとご主人 〜スワロと夏のおこづかい帳〜  作者: 渡来亜輝彦


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23/33

22:機械仕掛けのこころ(さみしい)

「それじゃあ、明日迎えに来るから」

 今日はメンテナンスの日です。

 スワロは、ドクター・オオヤギことオオヤギ先生のところにお泊まりです。

「君も泊まっていったらどうだね?」

 オオヤギ先生は、ご主人の主治医で、さらにいえば『みもとひきうけにん』らしいです。獄卒の人は、普通、弁護士さんなんかに頼むので、こういうちゃんとした『みもとひきうけにん』がいるのは珍しいらしいです。

 オオヤギ先生は、小児科医のはずなのでクリニックはかわいい外見です。でも、獄卒街に面した辺鄙なところにいるので、患者さんはみんなガラが悪い上に、そもそもあまりきません。

 ちなみに本職はサイバネティクス医療らしいので、スワロのようなアシスタントの開発に関わっていたらしいです。というか、こちらが本職なのかな。

 謎の多い人ですね。

「アンタんとこにいたら、なんかとこき使われるだろ。性格の悪ィサポートもいるしさあ」

 ご主人がいっているのは、多分受付のロボットのひとだと思います。厳密にはメインコンピュータに元があるので、ロボットというより人工知能? なのかな? でも、スワロとは、全く違う存在です。

 中に『なかのひと』がいる感じ。実はニンゲンじゃないかと思うです。

『はァァ? 何言うとるねん!』

 西方方言のJ共通語が聞こえます。

『お前に比べると、俺の方がなんぼかマシやぞ。相変わらず、口の悪い男やな!』

 早速、玄関口にいた受付ロボットが反論します。

「オオヤギ、フカセ黙らせろ。こいつ、本当にガラが悪くていけねえ」

 ご主人がふと唇をひきつらせます。

「こんなクズがいるから、お前のクリニック、患者がいねーんだよ。スワロの教育にも悪ィからよ、そろそろ解雇しろ」

『お前に言われたないわ! 反社会的人格のくせに何言うとるねん!』

「てめえだけには言われたくねえよ! 大体、俺の人格モデルにはてめえにも関係が……。いくつの企業つぶしたとかいって自慢してるクラッカーが、何が反社会的だ! てめえ、スワロに変なプログラムしたら、スクラップにしてやるからな!」

『そんなことしたら、困るのはお前やで? あー、やれるもんならやってみろやぁあ!』

「二人ともやめなさいって! あー、似たもの同士で困っちゃうなあ」

 オオヤギ先生が困惑気味に割って入りました。

 スワロも、めっちゃ困ります。

 なんで、この人たち、こうなんでしょうか?



「うーん、今回も特におかしなところはなさそうだね」

 オオヤギ先生は、優しい声をしています。

 オオヤギ先生は、主にスワロの部品の破損がないかを見てくれていました。

「彼とはうまくやっているかい」

 きゅっと、スワロは返事をします。

「そうか。あの子は、あれで根は悪い子じゃないからね。君を大切にはしている。ちょっとダメなところもあるけど、大目に見てあげて」

 オオヤギ先生は、スワロを撫でながらチェックしてくれますが、ご主人にちょっと似ている大きな手は、スワロは好きです。

 そういえば、オオヤギ先生は、ご主人に顔もよく似ています。

 どうしてなのかは聞いていません。でも、多分、親子ではないと思います。

 ただ、ご主人たちをみるオオヤギ先生は、ヒトのお父さんが子供を見る目に似ている気がいます。

『コイツは、ほんま、アイツには、もったいないやつやで』

 不意にフカセさんが声をかけてきます。相変わらず姿は見えず、パソコンのステレオから声だけが聞こえています。

『まったく、あいつときたら、俺が極上のシステム供給したってんのに、感謝ちゅーもんがないんか』

「あの子はアレで、君以外には、意外とありがとうとごめんなさいはしてるよ。あと、僕にはフカセくんにもよろしくって言う時もあるよ」

『ほんなら、なんで俺には直接おおきに言えへんのや?』

「なんでだろうねー。君らが似たもの同士だからじゃないかなー」

 冷めた目のオオヤギ先生。

 オオヤギ先生は、なかなか苦労人そうですね。

 うん。本当はとてもすごいひとなのに、こんなところで貧乏なお医者さんやってますし。

「まあいいや。僕はハード面が専門だから、ソフトは君のが詳しいでしょう。スワロちゃんのチェック、あとは君に任せたよ。フカセくん」

『おう、任しとけ』

「じゃあ、あとでね。スワロちゃん」

 フカセさんのことは、スワロもめちゃくちゃ口が悪いことと天才的なエンジニアだったらしいこと以外、よく知りません。

 ただ、オオヤギ先生はなんだかんだでフカセさんを信頼していると思います。

 オオヤギ先生が別室に移動したところで、フカセさんの声が聞こえました。

『ほな、システムのチェックすんでー。一回、電源落として再起動してな』

 きゅっとスワロは返事をして、再起動の命令をかけました。


 System Tyrant v19.3.2

 自己診断モード起動

 system_check.run()...

 スワロは自己診断モードに入りつつ、コンピュータにつないでもらってステータスやメモリのチェックを受けていきます。

 その間、スワロは、ニンゲンでいう夢のようなものを見ることがありました。

 整理中のデータが混ざってしまうのかもしれません。


 *


 スワロは見知らぬところにいます。

 ここは研究室みたいなところです。

 青っぽいライト、白い壁。

 とても無機質な場所。

 スワロはぽつんとひとりでいるようです。

「やれやれ、ナノマシン漬けとはいえ、子供の体を使う強化兵士の作成は大変だよな」

 研究員の人の声が聞こえます。

「白騎士でなくて、魔女計画のことか? 白騎士も大変だが、魔女は適合率が低いからなあ。あのナノマシン自体が希少価値が高いのに、ここまで成功率が低いとなると、計画はいつまでもつやらだ。アレに回された研究者が気の毒だぜ」

 スワロは、おそるおそるそれを聞いています。

「適合したやつのクローンを使って実験していると言うが、どうかな? 大体この間の娘なんか、戦闘に巻き込まれて、一部機械を入れたって話だろ。良い成績は望めなさそうだな」

 スワロは、なんだかこわくなって、扉の内側でそれを聞いています。

 これ、誰の記憶でしょう。

 スワロのではない気がします。だって、なんだかにんげんの子供みたいな服を着ているみたいです。

 色んなデータが、スワロの中を流れていきます。

 次の映像では、スワロは小鳥のようにお空を飛んでいるようです。

 チェック中にメモリーを整理していて、記憶がたくさん混ざってしまっているのかも。

 小鳥の姿でスワロは誰かに甘えます。でも、記憶ははっきりしなくて、もやもやしています。この間、海の中で見たたくさんの泡が、スワロの目の前をよぎっていきます。

 泡ではっきりわからない記憶が、さーっと流れていくのです。

 そうして、泡がなくなって、気がつくと、今度は別の部屋にいました。

 ゆっくり起動したのか、視界がクリアになります。

 でも、やはり、研究室みたいなつめたいところです。

 青白いライトと、無機質な灰色のお部屋。

 誰もいない。

 スワロは忘れ去られたみたいに、お部屋に放置されている気がします。

 さみしい。

 スワロは機械なのに、そう思いました。

 さみしい。

 本当は機械のスワロは、さみしくなんかならないんです。さみしいって態度が正解だから、そういう態度を取るだけです。それなのに、なんでこんな気持ちになるんでしょう。

 だれもいないなら、さみしい態度なんてしなくて良いのに。

 なんだか、海の底に忘れ去られたみたいです。

 さみしいな。

 と、その時。

「本当に、ちゃんと戻したんだろうな」

 と声が聞こえました。

「もちろんだよ。君の希望もちゃんと聞いて……、記憶は全てひきつぐのは無理だけれど、まごうことなくあの子だよ。まあ、新しい体は、前の鳥の姿とは少し違うんだけれどね。メーカーのMAYRAINシリーズに則りつつ、ちゃんとオーダーメイドで仕上げた上に、僕が個別に改造をして……」

 オオヤギ先生の声が聞こえました。

「とにかく、はじめましての挨拶をしておいで」

 さみしかったスワロは、思わず顔を上げます。

 背の高い男の人が立っています。オオヤギ先生と雰囲気が違います。

「はは、おめざめか? 厳密には違うんだが、はじめまして」

 その人はそう言って、スワロを撫でてくれました。

「お前はスワロ。俺がお前のマスターだ。これからもよろしくな」

 そのとき、スワロはさみしい気持ちがなくなったのを感じました。



「メンテナンスは無事終わったよ」

「おう、すまねえ」

 夜のうちにチェックが終わり、次の日、ご主人がお迎えに来てくれました。

 オオヤギ先生もフカセさんも、優しくしてくれたからさみしくなかったのに、思わず、スワロはご主人の肩に飛びのります。

 ご主人は、きょとんとしました。

「なんだよ? 急に甘えて。なんかフカセに不安にさせられたか?」

「そんなことないよ。またヤツが起きたら喧嘩になるでしょ。いらないこと言わないの。そりゃあ、一晩でもマスターと離れると寂しいでしょうが」

 オオヤギ先生がそうフォローしながら、スワロをなでてくれます。

「スワロちゃんは君といるのが一番いいんだろうね」

「そうかなー。……その割には、なんかと口うるせえんだけどな。俺は昨日はのびのびできてよかったぜ」

 ご主人は、そういやなことをいいます。

 むー。

 ちょっと素直になろうと思ったのに!

 スワロ、ご主人といると、さみしい気持ちがなくなるのは確かなのでした。

 でも、それをご主人にいうのは、ちょっとくやしいな。

 そう思っていましたら。

「まったく、君も素直じゃないね。夜型の君が早起きして迎えに来るだけでも、十分過保護な証拠じゃないか」

 オオヤギ先生がそう言ってくれました。


スワロのおこづかい帳

残高8,300円円(+1,000円)

メモ:タイロの報告書を三件ほど代筆してあげたら、タイロから振り込みがありました。「ありがとう。スワロさん、頼りにしてます」とメッセージが来ています。この調子だと、またたのんできそうですね。もう、タイロはすぐに甘えるんですから。

目標まで1,700円

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