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スワロとご主人 〜スワロと夏のおこづかい帳〜  作者: 渡来亜輝彦


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21:夏の思い出(海水浴)

「おはよーございます! いやあ、暑いですねえっ!」

 麦わら帽子のタイロが、浮き輪とクーラーボックスを背負って待っていました。

 タイロはTシャツとパーカーにハーフパンツ。完全に夏の装いです。それにご主人にもらったさめの歯のペンダントをしています。

「おー! 気合い入ってんな。大変よろしい」

 ご主人はご機嫌です。

 そんなご主人も、麦わら帽子を後部座席に、いつもより色の濃いサングラス、服装もラッシュガードと気合が入っています。今日は義手も装着済みで、そちらに手袋をつけています。

 スワロも、麦わら帽子にこの間の浮き輪を背負っています。

 楽しみにしてないかと言われると、楽しみにはしていましたが、二人ほどははしゃいでないですよ。

「よーし、乗れ! 荷物は後部座席に置けよっ!」

 ご主人、今日は、赤い車を用意しています。

 タイロを助手席にのせると、早速出発です。

 シートベルトをつけたタイロの肩や頭に、スワロは乗ります。頭は実はご主人には乗れないんですよね。でも、タイロの頭なら乗っても良いことになっています。スワロの方が先輩ですからねっ!

「わー、車、快適ですね! 電車で行くのかなーって思ってましたー」

 タイロが子供のように喜びます。

「ユーレッドさん、バイクだけでなくて自動車持ってたんですか?」

「個人的に持ってるのは単車だけだ。俺みたいなのが、車持ってると色々面倒なんだよ。単車は収納が楽だからいいんだがな」

「えっ、じゃあ、レンタカー? えっ、これ高くないです?」

「ふふん、ウィスを通じて上のやつから調査に使うってレンタルしたのさ。気にすることないぞ」

「えー、じゃあ、これ、一応、公用車なんですね」

「おう。アイツらボンクラ役人に使わせるには、ちょいとスペックが高すぎるがな。派手な軍用車みたいなやつだぞ、これ」

 ご主人、ウィスにまたそんなわがまま頼んで……。

「あれっ、でも、海水浴って、話題のビーチプールじゃなかったです? 車で行くのは贅沢なような」

 汚泥の汚染問題のあるハローグローブにおいて、海水浴は簡単にできるものではありません。

 なにせ海も汚染されていることが多いですし、汚泥で変異した囚人と呼ばれる化け物にら、海ほど隠れる場所が多いところもありません。

 それなので、特にこのシャロウグ管区の夏は、もっぱらプールが使われます。

 プールの側も、海を恋しがる市民を見越して、波があって沖をホログラムで投影した、本当の海に近いものなどがあって、浜辺でリゾート気分だって味わえたりするんですよ。

 なので、そういうのを、リゾートビーチプールって言われてます。

 ご主人とタイロが海水浴に行きたいって話をした時も、そういうところの予定だったと思いますが。

「海水プールにしようと思ったんだがなー、ちょうど良いところを思い出したからよー。ま、仕事の偵察も兼ねてってことにしてあるから、安心しろ」

「なんだか危険なとこのような気がするー」

 タイロがちょっと怖がる様子をみせましたが、スワロもその気持ちはわかります。

「ふははっ! 心配すんな、俺がいるだろ!」

 タイロとスワロの不安とは裏腹に、ご主人の運転する車はもくもくの白い雲のたちのぼる青い夏のお空の下を行きます。



「わー、本物の海、すごーい!」

 タイロが歓声をあげます。

 そこはちんまりした入り江でした。

 まわりを岩に囲まれていますが、白い砂浜。ざざ、と、打ち寄せる波の音はとても穏やかです。波打ち際には白い波がさわさわと押し寄せては返しています。

 青い海の向こうは水平線の上にしろい雲、真夏の太陽とまっさおなお空です。

 写真で見たことのある夏の海です!

 スワロも、あまり海につれていってもらったことは少ないのです。ビーチプールでご主人とくつろいだくらい。

「お前、海見たの初めてじゃねーだろ?」

「そうですけど、移動の時ですよ。こんなに綺麗な海じゃなかったですし。プールならよく行ってましたが、もっと開放感あるんですね」

「へへ、そうだろ」

 ご主人がウィスから取ってもらった許可証で、管区間移動の自動車道の専用ゲートを通って半時間。海は意外と近いところにあります。

 ここは、一応、荒野と認定されている場所ですが、管区間移動の鉄道や車道が通っている場所ではあって、ちょっとだけ安心らしいです。

 漁業もできるのだとか。

「襲ってくるようなやつがいねえかどうか、定期的にパトロールする必要があってな。それにかこつけて許可証と車を借りたと言うわけだ」

「えっ、あんまり安全じゃなくないです?」

「安心しろ。ヤバいのがいねえのは、俺が確認している。少なからずこの入江のところは大丈夫だぜ」

「それなら良いんですが」

「まあ、ビーチプールみたいに海の家はねえけど、バーベキューセットも泳いだあとに潮水おとすシャワーの水も持ってきた。スイカ割りのスイカも冷やしてある! 十分遊べるぜ!」

 ご主人、気合い入りすぎですよ。

「俺、ビーチボール持ってきましたー!」

「ははー、お前、やっぱり気がきくなあ! よし、ふくらませてあそぼうぜ! スワロも浮き輪、ちゃんとはめてやるからな」

 そう言ってご主人は、はやくもスワロを浮き輪に入れてくれます。

 ちゃぷっと海水に入ります。

 海の水は川の水より温度が高めです。真水より浮きやすいので、スワロもなんなく浮き輪に乗れました。

 海水の塩分程度では、スワロは錆びないし、後で洗ってもらう予定なので、コーティングは特にしていません。スワロ、ビニールで巻かれちゃったら、どうしようと思った時もありましたが、ちゃんとしてもらえてよかったです。

「スワロさん、思ったより浮いてるの楽しいね」

 波にゆらゆら揺られながら、浮き輪に捕まったタイロがのんきにいいます。

 確かに。なんだかたのしいです。

「おっしゃ、いくぞ!」

「今日は負けませんからねっ!」

 ご主人がビーチボールを持ち出して、タイロと遊び始めます。

 ご主人もタイロも楽しそう。うん、スワロは、楽しそうな二人を見るの、好きですよ。

 きらきらする海面をみながら、スワロ、ちょっとしみじみしていました。

 と、急に波がざばっときてしまい、油断していたスワロは浮き輪ごとひっくり返ってしまいました。

 その程度で慌てるスワロではないですが、ふと、その時、スワロ何かを思い出した気がしました。

 漂う泡の中、スワロ、むかし、海の中にいたことがあるのかも。

 一緒に海の中に落ちたものをスワロは追いかけます。

 溶けていく黒いものがみえています。スワロはなぜかその黒いものが全部なくならないように、飛び込んだ気がします。

 海に落ちてとけていくなにか。黒い泡の向こうにある顔が、ご主人に見えました。

 だめ、ご主人、だめ。

 どうか置いていかないで。

 青い水の中、白い泡が周りを取り囲んで何も見えなくなりそうです。

 と、その時、大きな手がスワロをつかみました。ざばっとスワロは、海上に引き上げられました。

「おいおい、大丈夫か?」

 ご主人が心配そうにのぞきこんでいます。

「簡単に浮くからって、油断するなよな」

「スワロさん、大丈夫?」

 不意にスワロはきょとんとして、そして、さっきの幻のような映像が、現実ではないのをしりました。

 きゅっ、と鳴いてスワロは思わずご主人に身を寄せます。

「おっと、なんだよ。怖かったのか? 心配すんな。お前はちゃんと浮くし、ここは遠浅の海だぜ」

 ご主人の声を聞くと、スワロは安心しました。

「ユーレッドさん、ちょっと休憩して、砂浜で遊びませんか? スイカも食べたいですし。砂のお城も作りたいです」

「おう、そうだな」

「スワロさん、砂のお城作ろう!」

 タイロが気をつかってくれたみたいです。

 スワロも、まだちょっとだけ、さっきのメモリに惑わされましたが、すぐに楽しくなりました。



 その日は、夕暮れになるまで海で遊びました。

 帰りの車は、楽しい余韻の気だるさに満ちています。

 夕暮れの赤い海の向こうで、昔はなにかだったらしい朽ち果てた金属の構築物が見えています。観覧車の骨組みかな。

 すっかり疲れたタイロはすやすや寝ちゃっています。一緒に助手席にいるスワロも、思わずスリープしちゃいそうな、心地よい疲れです。スワロは機械だから疲れないですが、なんだかねむくなりそうです。

「別にスリープしててもいいぞ」

 きらきら海面が光る夕暮れの中、ハンドルを握るご主人がいいました。

「海水浴は楽しいけど、疲れるからな。ついたら起こしてやるよ」

 スワロにこんな経験はないはずなのに。

 なぜか、スワロ、すごく懐かしい感じがしました。


スワロのおこづかい帳

残高7,300円円(+500円)

メモ:引き続きウィスから暗号文の解読を頼まれていたので、その報酬を貯金です。それを話していたら、タイロが「俺の報告書も代筆してよ」とか頼んできました。それは自分でやりなさい、って感じでしたが、ほかならぬタイロの頼みですからね。明日、報酬とひきかえですよ!

目標まで2,700円

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