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16:雨は幻惑の記憶(にわか雨)

「おっと、やべえ、降ってきやがったな」

 ご主人がそう言って、近くの地下鉄の入り口の屋根の下に避難します。

 予報にもなかった急な雨。

 傘の用意がありません。


 ハローグローブの雨は、汚泥とも呼ばれるよくないナノマシンに汚染されていることもあるので、浴びるのはあまり好ましいものではありません。

 街に降った雨は、水と汚染物質に分けられて浄化はされますし、この程度の濃度なら触ったところで、何か悪くなったりすることはありませんが、なんとなく気持ちがわるいということもあり、街の人々は雨に濡れるのをよしとしません。

 雨の日に出歩くのも嫌いな人も結構多いですね。傘とかも、真っ黒になっちゃったりすることもあります。

 ただ、獄卒のご主人は、そういった汚泥には強い性質です。スワロも詳細はわからないですが、ご主人は特に強い体質みたいですし、着ているジャケットも獄卒のお仕事用ですから、汚れにも強いのです。

 なので、雨はそこまで気にしませんが、

「といってもな。こんなに降ってりゃ、ずぶ濡れになる。やむまで待つか、スワロ」

 きゅっと、スワロは答えました。

 ここの地下鉄の駅は、入り口を建造されたものの途中で建設がされなかった場所です。

 ご主人のいる廃墟街は、マンションがたくさん建つ予定でしたが、諸々の事情で中断し、計画は放棄されています。

 それなので、階段を降りても何もありませんし、工事が中断されているから、他の駅まで歩いていくことも難しいです。ただ、雨宿りの場所にはなります。

 ご主人としばし、雨宿りしています。

 急な夏の豪雨は、ここでもよくあることです。スコールみたいに、突然、たくさん強く降ることがあり、天気予報が外れます。

 昔は、管理局は天候まで管理できていたって話も聞きますけれども、最近は完全には把握、管理できていないっていう噂を、スワロも聞いたことがあります。

 ある意味、自然に近いのかもしれませんけれどもね。

 ざあざあ雨は降ります。屋根から漏れた雨が床を濡らしているので、ご主人も立っています。

「なかなかやまねえな。雲も黒いし。諦めてコンビニで傘買ってくるか」

 ここからコンビニは、すこし離れています。

 スワロが買ってきましょうか?

「いや、待ってんのもアレだしな。それになれねえコンビニだと、アシスタントは買い物しづらいだろ。俺がいくから、お前はそこでちょっと待ってな」

 ご主人はそう言って、スワロを置いてダダッと走って行きました。

 うーん、スワロもぬれてもへいきですし、一緒に行ってもよかったのになー。

 ともあれ、スワロはご主人を待って、雨の音を聴くことにしました。


 今日降っているのは、比較的普通の雨です。

 見た目も黒いこともなく、普通の透明な水滴が降ってるだけです。きっと汚染が少ないんでしょう。

 ザーッと音を立てて叩きつけるように降っていた雨は、やがてポツポツとゆっくりになってきています。

 こんなしとしと降る感じの雨、スワロ、前にも知っていたような気がします。

 何か昔、スワロはずっと雨が降るところにいたことがあるような気がします。

『本当に長雨だな、ここは』

 そんなご主人の声も聞いたことがあるような気がします。

 ご主人は昔、とても雨が沢山降る場所に派遣されていたという話をしていました。そのとき、スワロはいないはずなのに、なぜか雨の音を知っている気がします。

『別に俺は雨は嫌いじゃねえんだけどな。このしとしと降る感じもそれはそれで。なんていうか、たまに心が落ち着く時もあるし。まあ、ずっとだと気が滅入るがな。今はお前がいるから、……ここがこんなところでも平気だよ、スワロ』

 聞いたことのないはずのご主人の声が、メモリーとして再生されます。

 これは一体なんでしょう。

 スワロにはわかりません。

 でも、雨の音って、人間にはとても安らぐ音に聞こえるって聞いたことがあります。ご主人もそうだといいです。

 こういうしっとりとした雨は、上書きされて消されたはずの記憶を、スワロに浮かび上がらせてくることがあるみたいです。

 不思議です。

 でも、そんな雨の音を聞いていると、スワロ、心細い気持ちになってきました。

 廃墟街には、何の気配もなくて、ただ雨がひたすら降るだけです。

 なんだか、さみしいな。

「おい、待たせたな。買って来たぜ」

 と、コンビニのビニール傘を手にしたご主人が帰って来ました。

「本当はもっと派手な傘が欲しかったんだけど、これしかねえんだよな。ちっ」

 またそんなこと言ってる!

 もともと、変に目立つのに、傘まで派手にしちゃおかしいです。

 スワロは、思わずそんなことを突っ込んでしまいますが、さっと差し掛けてくれたご主人の傘の中に入って雨を避けます。

 ご主人の肩のところにいくと、雨粒が傘に当たる音が、ほんのり優しく聞こえます。

 さみしい気持ちがなくなります。

 なんだか、ちょっとくやしい。

 スワロ、別にご主人のことそんなにめちゃくちゃ好きってわけじゃないんだけどな。

 そんなことを思ってしまいます。

 さっきさみしかったせいか、雨音の違いがちょっと嬉しいです。

 そう言えば、こうやって一つの傘に二人で入ることを「あいあいがさ」とか言うらしいですが、さらっとそんなふうにするご主人、ちょっと腹が立ちます。

 ウィスがご主人のことを無自覚タラシって言ってたわけ、なんとなくスワロも分かった気がします。


スワロのおこづかい帳

残高:5,700円(+700円)

この間のさめの歯の残りがまた売れていました。追い上げで結構いい感じに溜まっています。でも、もう売るものがなくなりましたから、しばらくスワロのせつやくでためなければなりませんね。

目標まで4,300円

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