14:真夏の男子たち(浮き輪)
「ユーレッドさん、ペンダントありがとうございます! えー、これ、サメの歯? カッコ良いですね。もらっても良いんですか?」
「おーよ! この間、スワロが見つけてきたもんだが、お前にはちょうど良いオモチャだろ」
今日はタイロが来ています。
タイロ、今日はお休みの日みたい。
ご主人の今日のおうちは、いつもより人気がない廃墟街の一角なので、これで『かほご』なご主人はタイロを迎えにいってました。
ご主人は、早速、この間見つけたさめの歯のペンダントを仕立ててもらい、タイロに渡したのですが、思いのほか、タイロは気に入ったみたいです。
「わー、これ、Tシャツとあわせると、ワイルドで良いですね! 俺、こういうカッコ良いのなかったんで、新鮮です!」
ワイルドとか言いましたが、そんなにワイルドではないです。タイロがつけると、こんな一見物騒なアイテムも不思議とかわいらしさまで感じますね。お守りって感じがします。
それに引き換え、ご主人がつけているととても物騒で、正直、ヤカラっぽくなるのはなぜでしょう。
タイプの違いっていうやつでしょうか。
「そうそう、俺も、頼まれていたの、ちゃんと入手してきたんですよ」
「おっ、マジか?」
タイロは、ガサゴソと袋から何かを出してきました。
「頼まれてた浮き輪、いくつか入手しました!」
「おお、でかした! タイロ!」
ご主人、上機嫌です。
「うおっ、なんだ、こんなかわいいサイズとデザインのあるのかよ」
「そこは任せてくださいよー。市販のもガチャガチャのも網羅して、かわいいの選びました!」
「タイロ、お前、やる時はやるやつだなあ」
ご主人に褒められて、タイロも嬉しそうです。
って、浮き輪ってなんですか?
もしや、ご主人、スワロがお風呂で洗ってもらった時、浮き輪が欲しいとか言い出したのを諦めていなかったのです?
うれしいですが、オーダーメイドしてないですよね? せつやく……。
「あっ、大丈夫だよぉー! その辺、ちゃんとしてるって。これはぬいぐるみ用のとか、スマホ載せるやつとかだよ」
なんだ、それなら驚くほど高いことはないですね。あんしん。
ご主人は金銭感覚に若干もんだいありそうなんですが、タイロはまだ常識人です。
「耐久性心配だったんだけど、いけますかねえ。これが一番、安心かな」
タイロが目の前で膨らませてくれます。ピンクの浮き輪で、ドーナツみたいな柄がついています。イチゴ味のドーナツみたいです。
タイロはスワロにそれを被せます。
きゅきゅっと音が鳴りましたが、サイズはちょうど良い感じでした。
「ぴったりだ! サイズ合ってないかちょっと心配だったけど、全然行けちゃいそうだね」
「おお! なかなか似合うじゃねえか、スワロ。せっかくだから、麦わら帽子かぶろうぜ!」
とご主人がご機嫌で、スワロの頭にお花の飾りのついた帽子をのせてくれます。
「わー、かわいいじゃん! スワロさん、写真撮りますね!」
と、タイロが褒めてくれて、スマートフォンで写真を撮ってくれます。
かわいいっていってくれるの、嬉しいですが、ちょっと照れちゃいますね。
「でも、実用としてはどうですかね? ちゃんと浮きますか?」
タイロが小首をかしげます。
「はっはー! こういうこともあろうかと!」
ご主人が急にドヤ顔になりました。
「ビニールプールを用意しているぜっ! なんのためにこっちの拠点に呼んだと思ってんだ」
え??
ご主人いつの間に!?
というか、ご主人だいぶ楽しんでますね、その感じ。
それで今日は、名状しがたい柄のアロハシャツなんですか?
「あ、それは良かった! 俺も、もしかしたら、水遊びするかもって、百均行ったらいい感じの水鉄砲があったんで買って来ました」
「おお! お前、本当気のきくやつだなあ!」
「スワロさんに浮き輪を買うとき、海水浴も行きたいなってユーレッドさん、言ってましたもんねっ! 前準備としても良いかなって」
「お前は、本当、わかってるやつだぜー!」
あれ、この二人、遊ぶ気ですね?
ご主人もタイロも良い大人なのに。
タイロはまあ大人なりたてくらいなので、まだ許されるかもですが、ご主人はいい年ですよ?
「俺は、夏は好きなんだぜ。海も結構好きだしよ。しかし、大人の俺がビニールプール一人で遊ぶのは気が引けるからなあ」
ご主人、自覚あるようで自覚のない発言ですよ。
庭に移動しました。ご主人は、すでにビニールプールを設置していて、早速いそいそ水を溜めています。こういう時の手際は良い。
「こんなに暑いんだからよー、水で遊ばなきゃ勿体ないぜ」
あっ、ご主人、いつの間にパラソルまで立ててたんですか? リゾートチェアもあるし、なんならテーブルまで。
ご主人、いつの間にスワロが気づかないうちにそこまで設置していたなんて。
最初からやる気じゃなかったんですか?
「わー、豪華! ユーレッドさん、流石です! 俺も念の為、ちゃんと着替え持ってきてよかった!」
タイロもやる気なんですか?
もう!
うちの男子どもは、子供っぽくて困ります。
そんなことを思うスワロですよ。
「なんだよ、スワロ。そんなこと言って、お前だってその新しい浮き輪気に入ってんじゃねえか」
「浮き輪はまだいくつかあるからね。スワンっぽいやつもあるし、使い心地確かめようよ! スワロさん!」
うーん、まあそれはそうですが。
ご主人が、プールにスワロを浮かべます。意外とバランスがとりやすいし、浮力はスワロがちょっと調整したら浮かぶくらい。これは確かに楽。
「まあ、暑いんだし、今日は思いっきり水遊びしようぜ!」
ご主人が、そんなことを言っていつの間にか装備していた水鉄砲を、バシャッとスワロとタイロにかけてきました。
な、なんてことするんですか、この人は!
「わあ、ユーレッドさん、ひどいですよー! 不意打ちなんて」
けけけ、とご主人は笑いつつ、水遊び用のゴーグルを被ります。
「そういうお前も既に準備済みじゃねえか!」
「だって絶対ユーレッドさん、急に撃ってくると思ったもん」
え、タイロもやる気なんですか?
「スワロさんもこれ持って!」
タイロが小さな銃を渡してくれますが、もう、スワロはやらないですよ、子供じゃないです!
「ふははっ、お前らじゃ俺相手はかわいそうだから、二対一でいいぜ!」
「よーし、スワロさん! 協力しよ!」
すっかり、楽しそうな二人。
うーん、仕方ないな!
スワロは、この子供っぽい男子二人「に付き合って遊んであげることにしました。
タイロと一緒に遊ぶのは、とても楽しいですけども。
ご主人が、いつもよりも更に子供返りして困っちゃいますねえ。
スワロのおこづかい帳
残高:4,000円(+700円)
この間のさめの歯が少し売れました。ご主人の取り分を引いた分をスワロがいただきます。やっぱり、他に売れるものがないか、倉庫も探さないとですね。
目標まで6,000円