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12:おとなの色水(色水)

 目の前のグラスに、色とりどりの液体が注がれていきます。めちゃくちゃ綺麗な発色をしています。

 こちらはショッキングピンクの色。こっちは目を覚ますようなターコイズブルーです。

 まるで蛍光塗料を溶かしたようです。

「スワロちゃん、カクテルに興味があるの?」

 ウィスにそう聞かれて、スワロはキュッと鳴きました。

 カクテルが何物かと言うことはわかっていますが、じっくり見てみると、この色、ふしぎできれいですね。


 今日は、ジャズクラブにウィステリアの歌を聴きにきました。ちょっと大きなおみせです。

 ウィスは情報収集を兼ねて、時々、バーやホテルで歌っています。ご主人が出入りするような、ちょっと危なっかしいバーのこともあるし、もうちょっとお上品なお店であることもあります。

 ご主人は、ウィスの歌を「眠くなる」「下手」とかいいますが、実際嫌いではないの、スワロ知ってます。素直でないです。

 でも、眠くなるのは本当みたいです。

 ただ、それはご主人には悪いことではなくて。ウィスの歌声は、精神のたかぶりやすい獄卒のひとに安らぎを与えるものらしく、攻撃性がつよめのご主人も、ウィスの歌を聴くとねむけに襲われるみたいです。それは心地よいことのはずなんですよ。

 ご主人はジャズクラブにいくのを「めんどうくせえ」といやがったものの、スワロがウィステリアの歌を聴きにいきたいと何度かいうと、渋々(?)応じてくれました。

 ウィスの歌をきくと、スワロも実は癒されます。なんだか、気持ちが軽くなりますよ。

 今日の歌も素敵で、スワロ、来て良かったと思いました。ご主人は案の定、寝落ちしていました。

 ひと通り、歌を聴き終えて、ステージが終わりました。ウィスも休憩の時間で、お酒を飲みます。

 ステージ衣装のままのウィスは、キラキラしていてとてもきれいです。

 ふたりで楽しく話していると(ご主人は隣で顔を背けて飲んでいます)、他のお客さんへのいろんなお酒が目につきます。

 ご主人は、綺麗な色のついたお酒はあんまり飲まないんですよね。色のついていない酒や焼酎のほかだと、ウイスキーやブランデーが多いかな?

 なので、あのサイケデリックな色の飲み物たち、物珍しくて。果物がのってあることもあってかわいいです。

「ここは、サイバーなSFをイメージしたカクテルをだすお店なの。ノンアルコールのジュースもあって、とても綺麗で可愛いのよ」

「ふん、ノンアルコールならなおさら、ただ着色した色水みたいなもんじゃねーか」

 ウィスと話していると、顔を背けていたくせに、ボソッと入ってくるご主人。

 こらっ、余計なこと言わないです!

「ユーの旦那も無粋ね。色水は色水でも大人の色水よ。素敵なものだわ」

 ウィスがバシッと言ってくれました。ご主人が、ぬっ、と口をつぐみます。

「でも、スワロちゃんは、これは飲めないもんなあ。いっしょに飲めれば良いのに」

 ううん、見ているだけでも楽しいですよ。

 興味を持っている様子に、ウィスがそういえば、とききました。

「スワロちゃんのパワーキャンディーも、割って溶かすと、カクテルと同じみたいだよね」

 『パワーキャンディー』は、『エネルギー玉』ってご主人が呼んでいる、スワロのようなアシスタント用のエネルギー補給用の燃料の液体の入っている丸いキャンディー状のものです。

 バスボムに似ているかも?

 アシスタントが誰でも使えるわけでなくて、スワロと同じような機体にしか使えないです。

 普通の燃料とどこが違うのかと言われても困るのですが、嗜好品的な要素が強いみたいです。 

 スワロは基本電気じかけなので、スリープの際に充電をします。が、一部にご主人と接続する為のナノマシンがあるみたいで、この部品には特殊な燃料を補給する必要が少しはあります。

 燃料の補給は、そんなにひんぱんではないし、他の方法もありますが、一つの方法がパワーキャンディーです。

 嗜好品というのはちょっとお高めだからです。ご主人の懐にはあんまりよろしくないんです。スワロは、大好物だけど、『ぜーたくひん』だと思っていて、節約のため、ふだんはがまんしていますよ。

 キャンディーは、ご主人の主治医、ついでにスワロのメンテナンスも受け負ってくれるドクター・オオヤギっていう先生の開発したものらしいんです。

 オオヤギ先生の温やかなこころづかいで、スワロたちも楽しめるようにかわいい色がつけられていますが、費用が抑えられなかったらしくて、お高めなんですよね。

 使い方はかんたんです。

 まず、大きめの丼ぶりにパワーキャンディーを割り入れます。たまごみたいにとろっとした液体が流れてきます。

 スワロはどんぶりに入り、スワロの胸の真ん中にある、普段は物質の解析を行うための採取口のカバーをあけて、ゆっくりと吸収していきます。

 これ、意外と時間かかります。

 でも、スワロはそれが好ましいみたいです。

 多分ヒトのいうところのおいしい、に近く感じていると思います。

 機械のスワロには、本当は味というものはわからないんです。料理だってレシピとかを見てそういう味なんだっていうのをちゃんと予測してからお勧めしていますが、スワロはほんとうの味はわかりません。

 でも、パワーキャンディーは『好きな味』なんです。ふしぎです。

「あれ、カクテルに似ているわよね」

 言われると確かにそうかも。

 時にはマーブル状のものもありますけれども、ショッキングピンクやターコイズブルー、夏っぽいハワイアンブルー、みかんを思わせるあざやかなオレンジ。

 カラーも色々あります。

「あれで同じ色合いのを一緒に味わうと、なんだか同じもの飲んでるみたいになるんじゃないかな? スワロちゃんと飲んでみたいって思ってたけど、それなら良いわよね」

 ウィスがそんなこと言ってくれるの、実はスワロもちょっと嬉しいです。

 ウィステリアはスワロの「しんゆう」ですが、スワロをニンゲンみたいに扱ってくれる人です。スワロには、そういうこころづかいがちょっと嬉しいのです。

「パワーキャンディーなんか、まさに色水だぞ」

 と、またご主人がボソリ入ってきます。

「オオヤギのやつが適当に高い着色料入れやがるから、高価になるんだ。ったく、入浴剤みたいな色させやがって」

 もう!

 ウィスが良い話をしてくれたのに、本当にご主人はロクな事言いませんね。雰囲気だいなしです。

「あら、でもそういう色水をスワロちゃんの為にたくさん買ってあげてるの、旦那じゃない」

 ウィスが苦笑します。

「今だって持ってるでしょ。というか、今、出してくれるのよね?」

「ぬ……」

 ご主人は、図星だったみたいです。懐からパワーキャンディーの包みを出してきました。ハートの包み紙で、本当にキャンディーみたいな感じです。

「しょうがねえな。ほら、使えよ」

 ご主人は、ぶっきらぼうを装いますが、そわそわしていたので、出してくるタイミングをみていたようです。素直じゃないから、ウィスが振ってくれるの、待っていたんじゃないでしょうか。

 早速、どんぶりを出してもらって割ってもらいます。今日のは、ウィスの飲んでいるのと同じ、鮮やかなピンクです。

 スワロは早速、どんぶりに入りますが……。

 ……。

 うーん。

 どんぶりに入れると、カクテルみたいなおしゃれ感ないですね。ちょっと残念です。

「そう? そのどんぶりも可愛いと思うけどな」

 ウィスがなぐさめてくれますが、ひよこさんのついたラーメンばちみたいです。

「そっか、でも、おしゃれなのが良いわよね。そうだなあ、おそうめんなんかをよそう時の、ガラスの大きな器とか良いんじゃないかしら」

 あ、それならおしゃれです! いいなあ。

「いい器探してあげてよ。旦那」

「ちっ、まったくお前らは」

 ご主人は舌打ちしますが、

「わかったよ。いい器あったら、お前が確保しろよ。しょうがねーなー」

「いいわよ」

 ウィスは、ご主人のちょっとわざとらしい憎まれ口にわらいます。

「でも、パワーキャンディーって、よく考えたら好きな色が作れるんだよね。今度スワロちゃんと一緒に作ってみようか。あたしのカクテルも色を揃えるようにして。……楽しいと思うわ」

 あ、それは良い案です!

 ウィスと一緒に、スワロ用のカクテルを作るのは楽しそうです。

「今度一緒に考えましょうね。あ、旦那もよ」

「はァ?」

 急に話をふられてご主人は、肩をすくめます。じょしかいの話なので、自分は関係ないと思っていたのかな?

 あきれたように、お酒を飲んでいます。

「あー、マジでうっとうしい。女子供は色水遊びが本当に好きだな。いいぜ、勝手にしろよ。でも、俺はそんなチャラいものなんて飲まねえ。この琥珀色の飲み物しか飲まないぞ」

「それも十分、氷の入った色水じゃない」

 ウィスはそう言って笑います。

 スワロ、やっぱりウィスはいいお友達だと思います。


スワロのおこづかい帳

残高:3,000円(+200円)

ウィスに、この間ご主人が荒野で見つけた時計を売ってもらいました。ちょっと修理費がかさんだみたいで取り分少なめでしたが、3,000円まできました。もうちょっと効率的に貯めていきたいですね。

目標まで7,000円

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