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魔物退治ギルド記録  作者: Ridge
ディエス編
6/39

4話-2

「死…いや、でも…。それより霧魔公との戦いはどうなった?」

「まだ続いてるようですが詳細は存じません」

「なら現地と通信したい、係を呼んでくれ」

「はい。ただ、7代目の声は降霊師である私には聞こえていますが、他の人には聞こえません。私を介して人へお伝えしますが、そのことをご理解ください」

「分かったから早く!」

 キビは部屋を出てギルド員たちを連れて来た。

「キビ様、7代目の霊と交信とは本当ですか?」

「ええ。7代目、連れて来ましたよ」

「よし、状況を説明してくれ」

「状況を説明してくれとのことです。7代目に聞こえるようにもっと前に来てください」

「は、はい…」

 ギルド員は疑心暗鬼ながらも状況を説明し、ディエスの質問は降霊師を介して行った。

 城の状況は不明だが、街道では魔族は攻めきれずに戦線が膠着しているとのこと。また、森を抜けて側面からの攻撃は今のところ受けていない。どうする…?続行か撤退か、奇襲が失敗した以上、もう一度奇襲をかけようにも知られた以上敵の防御を抜けない可能性がある。だが霧魔公は傷を負っていて回復にはまだかかるだろうし、城内の混乱はすぐには収まらないから攻め込むべきか。ここで撤退すれば街に魔族が押し寄せて悲劇が引き起こされる。しかし人々を切り捨ててでも戦力を温存し、次の機会を待つべきか。あらかじめ想定していた撤退条件よりも状況は良い。だがそう思いたくて冷静さを欠いている可能性は否定できない。俺が敵の立場ならどうする?次の奇襲に警戒して防御を固め、霧魔公の回復を待つ。だがあの性格を考えると自分を危険に晒すハイリスクハイリターンな選択肢を取るだろう。部下が諫める可能性もあるが…ここは賭ける!

「計画Bに移行を伝達。ただし、抽出戦力は当初の予定ではなく次の要素を持つ者に変更」

 計画B、ディエスたちが霧魔公を倒せなかった場合に攻撃を続行する方の計画。戦力の一部を森を突っ切って城に向かわせる。ディエスはある要素を持つ者に限定して向かわせることにした。

 ギルド員は現地と通信して指示を伝え、その場で次のフェーズに移行するのを待機した。


 指示を一通り終え、ディエスはキビに尋ねた。

「キビ、私は本当に死んだのか?」

「はい。ギルドマスターに施した呪術の発動はギルドマスターの肉体の死を意味します。今は幽霊のような状態です」

「そうか…、嘘じゃなさそうだな。護衛のテツとスイミズはどこに?」

「これはギルドマスター就任式で本人のみに施された術で、ここに入れるのはギルドマスターのみです」

「そうか…。……。それで、私はこの状態でいつまでもつ?」

「分かりません。個人差や外傷の程度によって異なりますから。一週間程度の者もいれば、一月もつ者もいます」

「大きな傷を負ったから時間はそう無さそうだな」

「8代目ギルドマスターを決めねばなりません。これから候補者リストをお持ちします」

「それも大切だが、まずこの作戦が終わってからだ」

「了解しました。しかし残された時間はないかもしれません。それをお忘れなきよう」

「ああ」


 街から街道の戦場に合流したギガは指示を受け、6人で森と沼地を抜けて霧魔公の城へ向かうこととなった。

「僕がですか?メンバーは変更ということですね?」

「そうだ。これはマスターからの指示だ。攻略のために当初とはメンバーを変更した」

「了解」

 ギガはその後説明を聞いた。全て聞き終えるとつばを飲み、緊張を紛らわして気合を入れた。

「ギガ、落ち着きな。俺は変更前からメンバーでしっかり頭に入っているから大丈夫だ」

「ジン…。よろしく頼む」

「私たちの風術で移動をサポートしますわ。さあ前に立って」

 ギガは仲間の風術で風を纏い、6人は森の中へと入っていった。木の枝を渡って、鬱蒼とする森の奥へ入ると、どちらを向いても永遠に続きそうな森に見え、もうどこから入ってきたかも分からなくなった。ディエスたちが事前に城下町に仕掛けた発信機の方向を頼りに弧を描くように森を進んで行き、最後は発信機の方向に直進した。風術で僅かに浮かびながら急傾斜を下り、木の間から建物が見えるようになった。

 ギガたちは森を抜けて城下町にたどり着き、見張りの目を盗んで城下町へ侵入し、ペンダントから武器を出して城へと攻め込んだ。


 少し前、霧魔公の城。

-------------

-------

 霧魔公は寝室のベッドの上で回復魔術を受けていた。傷は薄っすらと皮膚が出来て塞がっているが、まだ全快には程遠い。

 ベッド横には通信機を置いて魔族の将たちと会話をしていた。壁に名前が投影され、喋ると動くエフェクトがついていた。

「敵は現在街道を塞いでいます。敵の魔術が特に厄介で突破にはまだかかりそうです。ですが時間さえかければ突破は可能です」

「班を分けて森から街へ侵入し、敵の裏へ回ることを提案します。足場が悪い上に移動は徒歩のため時間はかかりますが、守りの固い正面から攻撃するよりも効果的です」

「私は反対です。戦力を分散するより、このまま正面突破の方が有効と思われます。城に潜入してきたたった3人に兵20人以上がやられています。狭い森の中で一対一になれば負けるやもしれません」

「あれは精鋭の中の精鋭でしょう。あんなのが多くいるわけがありません」

「その証拠はないでしょう。警戒すべきです」

「証拠がないのは同じであろう。押すべきところで押さず引いていては勝てるものも勝てなくなります」

「まあまあ、お二方とも落ち着いて。そもそも今攻める必要はないと思われます。敵は守りを固めて引っ込んでいる。であれば、こちらも守りを固めて敵が痺れを切らして出てきたところを攻撃すればよいのです」

「あの街には同胞がいるのですよ。のんびりしていたら人間たちに殺されます。見捨てたとあっては士気に関わります」

「ですが焦りは禁物です」

「…お前たちの動きは分かった。敵はどう動く?」

「防御して時間を稼ぎ、奇襲で閣下の首を取ることを目的としていたと思われます。今、戦い続けているのもまだ奇襲が失敗していないと思ってのことでしょう。であれば、奇襲の失敗を知らしめれば撤退すると思われます」

「だろうな。音声では嘘と思われ納得しまい。あの3人の死体を見えるように吊るして見せつけてやろう」

「あの、それが…」

「ん?」

「あの3人の死体は兵たちが既にグチャグチャにしてしまって…。もう誰が誰だか分からないのです」

「チッ、役立たず共が…!」

 霧魔公は右手で額と右目を覆い、怒りの混じった溜息を吐いた。

「弱い上に俺の足ばっかり引っ張りやがって…!」

「か…閣下…」

「仕方ない、中央突破だ。全部つぎ込め。この城の守りももう要らん」

「それは流石に…。どうか落ち着いてください」

「適切な処分ならちゃんと下しますから、懲罰で敵の前へ投げ込むのはおやめください」

「俺は冷静だ。奇襲が失敗したのだから、次は守りを固めていると思い、今すぐまた奇襲をかけることはしないだろう。この城の守りは最小限でいい。なら遊ばせるのももったいない。攻撃に回して一点突破でさっさと突き破れ。命令だ」

「…御意」

 通信を終え、それぞれが命令を実行に向かった。

-------

-------------


「敵襲!侵入者です!」

 霧魔公は寝室で燃え尽きたように横になっていたが報告を聞くと起き上がって病衣を脱いで着替えた。その口元に笑みを浮かべて。

 城内ではギガたち6人が一定の距離を取りつつ廊下を進み、玉座を目指して敵を倒しながら進んでいった。

「こちらですわ」

 扉は壊れて空きっぱなしで、そこには岩を爆破したような跡が残っていた。

 ギガたちが中に入ると玉座の前に魔族が立っていた。

「こんなに早く次が来るとは嬉しい誤算だな」

「お前が霧魔公か?」

「いかにも。かかってくるがいい」

 ギガが先陣を切って階段を上り、剣を握って下から斬りかかった。霧魔公は剣をかわして自身の剣で横に払い、そのまま背後から斬りつけたジンの剣を受けて押し合った。ギガが横斬りで背後から斬りかかると横を向いて後退し、2人の剣を同時に受けた。

「ジン、任せる」

「ああ」

 ギガは後ろに下がって剣から炎を出しながら突くと、霧魔公は手の前から水を発生させてジンを押し流し、ギガの炎をかき消した。ギガは突きを続け、霧魔公を刺したが、幻影となって消えた。ギガは再び火術で纏った剣を振るうが、突如現れた霧魔公の水術でまたかき消された。

 ジンは火術で剣に炎を纏わせながら階段の途中に立ち、ギガは立ち止まって両手で剣を構えた。

 直後、階下で4本の炎の渦が巻き上がり、部屋は炎で煌々と照らされた。ギガは背後に現れた霧魔公の斬撃をかわし、剣を振って腕を斬りつけ、返す刀で胸を貫いた。

「グハッ…」

 今度は消える幻影ではなく本体。霧魔公は血を吐いて剣にもたれて倒れ込んだ。

「馬鹿…な…」

 ギガが剣を抜くと霧魔公は地面に倒れ、流れる血が階段を伝っていった。霧魔公は死亡した。

「7代目の言った通りだったな」

「…そうだね」

 ディエスは自身の戦闘時、炎がある間は霧が消え、幻影を見せることができないことに気づき、全員火術が使えるメンバーに変更して送り込んだ。霧魔公は能力の限界なのか性格なのか接近戦で幻影を出す。そして幻影を出している状態でそれを解除して不意打ちを決めるため、初めから炎の渦を出さずにある程度戦って引き出してからにした。


「魔法陣は椅子の下です。ギガさん、解呪を」

 ジンは玉座を蹴り飛ばし、階段下へ突き落とした。玉座は階段で跳ねながらベコベコになって階下に滑っていった。

 玉座のあった場所に魔法陣が描かれており、ギガが光術を纏わせた剣を突き刺すと、文字や模様は蒸発して消えていった。すると空気が澄み渡っていき、城下町は崩れていき、その影響で城が揺れた。

 離れた街道では魔族たちの魔力が急激に減退し、中には倒れるものもいた。

「何だ?何が起こった?」

「これは…まさか、閣下が…」

 ギルド員たちは攻撃に転じ、魔族たちはパニックを起こしながら逃亡を始めた。

 魔法陣を消したことでこの地域にかけられた魔術が消え、この周囲の魔族たちのブーストされた力は消えていった。また、その魔術によって作られた城下町も崩れていき、魔術をかける前に建てられた城だけが残った。



 約一か月後のブロンズゲートアイランド、ギルド本部、大集会場。ギルド員たちが参列する中、舞台の上でギガは片膝をついて両手を差し出し、キビから儀礼用の剣を受け取った。そして立ち上がって右手で剣を鞘から抜いて天に掲げ、宣誓を行った。

「8代目ギルドマスター・ギガ、我が魂はギルドと共にあり。全力で先導するとここに誓う」

 儀式を経てギガは8代目ギルドマスターとして就任した。

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