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魔物退治ギルド記録  作者: Ridge
ローズ編
19/39

15話

 ローズが目を覚ますと黒い岩場の前にいた。白地に金の線が塗られた壁の部屋の中、左右には水晶。上や下も水晶。

「ここは一体…?」

「9代目、目が覚めましたか?」

「あなたは…キビ。ここはどこ?」

「お忘れですか?ここはギルド本部、大水晶の間です」

 キビは手を上にあげて部屋を見るように示した。

「私は戦いの後、気を失って…いつの間に…」

「ここへ参られたということは、あなたの肉体は死亡したようです」

「え…?」

「現役ギルドマスターにかけられている呪術により、死亡後、魂がこの水晶の中へ送られます。しかし永久にここにいられるわけではありません。個人差と肉体の損傷状態によってその長さが異なりますからはっきりと言えませんが、1週間程度の者から1か月もつ者まで様々です」

「ちょっと待って、頭が追いつかない…」

「失礼しました。落ち着くまでお待ちしております」

 キビは大水晶の前に座り、目を閉じて大人しく待った。それに慣れ切っているように。

「そうだ、実験所!」

「実験所がどうされましたか?研究所にはいくつかありますがどの実験所でしょうか?」

「ビャッキン地方の攻略中の建物のこと。戦闘員を本部からも呼んだはず。あれからどうなった?」

「私は存じませんので、分かる者を呼んで参ります」

 キビは部屋から出てギルド員を呼びに行った。


 ギルド員がやってきてキビを介してローズと話をした。捕らえられていた子供は救出されてひとまず保護中。敵は殲滅し、ギルド員は半数が生還しているという。内部の毒ガスが抜けてから調べると、ジンとレイの死体を発見。ローズの死体は見つからなかったという。研究資料は薬品が掛けられて全て灰になっていたらしい。

 ジン、レイ…それに皆、ごめんなさい。

「キビ、生きたままここに来ることはあるの?」

「いえ、それはありえません。9代目の体は間違いなく死亡しています」

「毒ガスで倒れた後の記憶がない…」

 死体がどこかへ運ばれたか、まだ生きていてどこかへ運ばれた後に記憶喪失になるほどの出来事でもあったか。…駄目だ、全く思い出せない。

「とにかく、実験所の攻略作戦は終了。医者と研究者を派遣して保護した子供たちを診て、その後で親元に返しましょう。人と場所の選定は任せるわ」

「かしこまりました」

「それとルナの研究者も同行させて。何かわかるかもしれない」

「はっ」

 ギルド員は部屋を出て手配に向かった。


 キビは後ろを向いて目で見送った後、ローズの方を向き直した。

「9代目、次のギルドマスターを決めねばなりません。候補者リストをお持ちします」

「あ、待って。呼んで欲しい人がいるの」

 ローズはある人物の名を告げた。

「了解しました。外に出ていてすぐにはお呼びできないかもしれませんが」

「それでもいい。ぜひ」

 キビは部屋を出て、部屋にはローズ一人だけになり、静寂が訪れた。

 魔公爵と戦って死んだならともかく、毒で死ぬとはカッコ悪い。それが原因と確定したわけではないけど。はあ…。

 でも今となっては気にし過ぎていた気がする。心が軽くなった気がする。もっと早く気づいていればもっと上手くやれたんじゃないかと思う。いや、当時に気づくなんて無理か?今更後悔しても手遅れね。キビの話では残された時間はそう長くない。できる限りの引継ぎをしなければ。


 スザンカ地方の草原の中、大きな鳥の魔物と戦っている男がいた。男は鎗の先から火術と風術の合わせた火球を飛ばし、空中で爆発させて爆風を発生させた。爆風で鳥はコントロールを失って地面に激突し、追撃の爆発攻撃を受けて息絶えた。

 男は鎗を下ろし、仲間たちが駆け寄った。

「エクサ、お疲れ」

 エクサと呼ばれた男は不機嫌そうに手を払った。

「だから俺一人でいい、邪魔だと言ったんだ。お前たちがいなけりゃ最初から魔術を使って瞬殺だった」

「そんな言い方…」

「チッ…」

 エクサはギルド支部へと一人で帰っていった。

「なんだよアイツ」

「強いけどあの協調性じゃ…」

「何か焦ってイライラしているのかも」

「優しすぎだろ、そんなん無いって」

「…うん」

「アイツなんでギルドに入ったんだ?」

「さあ?自分のことを全然話してくれないから…」

 仲間たちは魔物を調べた後にギルド支部へと戻っていった。


 エクサがギルド支部に戻って休んでいると本部への帰還命令を言い渡された。

「どういうことだ?」

「ギルドマスターの指示だ。重要な話があるからと。それ以上は知らない」

 ギルド員が立ち去ろうとするとエクサの左手が職員を襲いかかりそうになり、エクサは右肩を前に出し、左手を後ろ側にして右腕で左腕を抑えつけた。

「くっ…テメエは勝手なことをするんじゃねえ…」

 ギルド員は後ろを向いたまま立ち止まった。

「勝手だと?」

「こっちの話だ」

「はあ?」

 ギルド員は振り返って尋ねた。

「何でもない。自分の身勝手さにイラついただけだ。テメエってのは自分のことだ」

「ふん、そういうことにしておこう」

 その後、エクサは荷物をまとめて翌日の船便で島に渡り、ギルド本部へと戻り、案内を受けて大水晶の間へと足を踏み入れた。

「呼ばれて来たぜ」

「ようこそエクサさん、9代目がお待ちです」

 キビは無礼な態度に若干イラつきながらも丁寧に応対した。

「9代目は今は遠征中じゃなかったか?」

「それはすぐに分かります」

「?」

 エクサは大水晶の前に案内された。エクサの目にはただの透明な大きな水晶に見えている。

「私が9代目の代弁をします。問に答えてください。まず、あなたがエクサで間違いないですか?」

「9代目はどこだ?」

「ここにおります」

 キビは水晶に触れた。

「何言っているんだ?」

「今は説明できません。あなたの解答次第で説明します。まずは答えてください」

「…俺がエクサだ」

 エクサは渋々と答えた。

「では次の質問を…」

 ローズはキビを介してエクサと様々な話をし、ある確信を持った。


「よし、彼を次のギルドマスターに指名するわ」

「えっ?本気ですか?」

「本気よ」

「ジンとレイも変でしたが、あれはお供としては分からなくはありません。しかしギルドマスターとなると異なります」

「でも彼はお供としては無理そう。一般戦闘員として私の指示で送るというのもあるけど、その場合も他の部隊長の部下となってしまう」

「いいじゃないですかそれで」

「それでは彼は真の力を発揮できないわ」

「だからって…」

「私が知りうる情報では次は彼がベスト」

「ううん…しかし9代目がそこまで言うのなら…」

 エクサからはキビが水晶の方を向いて一人で話し始めたように見えた。エクサは自分がよくやる行動も、相手からはこう見えているんだろうなと黙って見ていた。

「エクサさん」

 キビは改まってエクサの方を向いた。

「次のギルドマスターになる気はありますか?魔公爵を倒しに行くのです」

「俺が…?」

 エクサは突然のことに驚いたが、願っても無いことで顔がにやけた。

「一人倒したら引退したい。それでいいなら」

 キビは大水晶の方を向き、少し経ってから頷き、エクサに向き直った。

「それで十分です」

「分かった。ギルドマスターになる」

「では就任式の日程を決めないといけませんね」

「やらなくていいよ別に」

「駄目です。ちゃんとやって皆に見せつけないと、ギルドマスターを自称しているだけの人になります」

「チェッ…分かったよ…」

 ローズは微笑んで頷いた。

 その後、ローズは今回の旅で得た情報を話してエクサに託した。


 数日後、エクサは就任式を行い、晴れて10代目ギルドマスターとして就任した。

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