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魔物退治ギルド記録  作者: Ridge
ローズ編
16/39

13話

 夕方、ローズたちは街に入り、今夜の宿を探していた。

「すみません、部屋は埋まっていまして…」

「そうですか…。あの、何かイベントでもあるのですか?」

「そういう訳ではないのですが…団体のお客様が部屋を取っていまして…」

「そうですか。では失礼します」

 ローズたちは宿屋を出て通りに出た。

「これで3軒目ですね」

「運が悪かったですね」

「これは宿が取れないかもしれない。次駄目だったら街を出て、魔導具で簡易の家を出すわ」

 3人が歩き出すと宿屋の上から声が聞こえた。

「…レイ…様…戻す…」

 レイは声に反応して立ち止まった。

「どうしたの?」

「いや、名前を呼ばれた気がして…」

「ジンは何か聞こえた?」

「街の雑踏は聞こえますが、何を言っているのかまでは…」

「気のせいか、同名の別人かもしれません」

「そう?なら次行きましょう」

 レイは再び歩いてローズとジンも歩き出した。

 道を歩いていると家の前で何か言い争いをしているのが見え、細い男が家の男に木の棒で叩かれていた。

「出ていけ!いや、死ね!」

「や、やめ…」

 細い男は頭を抱えてうずくまり、棒で叩かれていた。ローズは前に駆け出し、振り上げた棒を手で掴んで止めた。

「お嬢様!」

 ジンとレイが駆け寄ると不利を悟った家の男は棒を引いて、舌打ちして扉を閉めた。

「無茶をなさらないでください」

「ごめんなさい…」

 ローズは地面に膝をついている細い男の前に来た。

「あなた、大丈夫?」

「はい、おかげさまで…、いてて」

「そのままじっとしていて」

 ローズは回復魔法で傷を癒した。男は叩かれた腕や脇腹を撫でて痛みが引いたのを感じて驚いた。

「何から何までありがとうございます。僕の名はジェリク、お礼をさせてください!」

「お礼だなんて…そうだ、空いている宿屋知らない?」

「宿屋ではないですが、泊る場所でしたら僕たちの教会をご利用ください」

「教会…」

 ジンは怪訝な顔で不満そうに呟いた。

「いいじゃない。お言葉に甘えさせてもらうわ」

「ではご案内します」

 ジェリクは3人を案内し、その途中でローズたちの名前を教えてもらった。

 教会に入ると人々の前で聖職者が教えを説いていた。

「魔族は世界を滅亡させます。世界に終末が訪れるのです」

 魔族によって滅亡か。ややオーバーな気はするが、人類の文明を破壊してきた敵に違いはない。これ以上好きにはさせない。

 ローズたちは泊る部屋を紹介された。ローズは異性なので別室にされそうだったが、何とか食い下がり、仕切りを設けるということで3人とも同じ部屋にしてもらった。

「今夜の寝床をゲットね」

「ジン、不服そうだな」

「教会は嫌いだ。俺が小さい頃にいたところは酷く、いい思い出が無い」

「ここは違うかもしれないわ」

「だといいですけどね」

 3人は部屋で一休みした後、ギルド支部との連絡のため、通信が入る場所に行こうと部屋を出て歩いた。

 廊下の途中で部屋からジェリクの声が聞こえて来た。

「エンファ様、魔物の核は配置しました」

「よし、育つのが楽しみね。光栄に思いなさい。魔族の力になれて」

 女の魔族はジェリクの手帳にスタンプを押した。ポイントカードのように枠があり、30以上のスタンプが押されていた。

 ローズは扉を開けて部屋に乗り込んだ。部屋の中にはジェリクの他に5人の人間がいた。ジンとレイも後に続いて部屋に入った。

「あなた、なぜ魔族とつるんでいるの?」

「誰?」

「僕を助けてくれたローズさんです」

「いいから私の質問に答えなさい!」

 ローズが声を荒げるとエンファとジェリクはローズの方を向いた。

「予言のためです」

「魔族が世界を滅亡させると言っていた。あれは嘘だったの?」

「…?」

 ジェリクはローズの方へ歩きながら考え、手をポンと叩いて答えた。

「ああ!何か誤解しているようですね。僕たちは世界の滅亡を拒んではいません。それは神の意志であり、拒否という選択肢はない」

「なに…?」

「予言では、これから終末が訪れ、あらゆる生命が息絶えるのです。その後、神の教えを忠実に守った敬虔な教徒である僕たちは新たな世界で復活する。何を恐れることがありましょう」

 ジェリクは恐れるものはないと自分に言い聞かせるように語気を強めて言い放った。

「それで肝心の終末をもたらす者ですが、それは魔族や魔物です。彼らは神によって遣わされたのです。この世界の乱れは滅びの前兆。世界は間もなく滅びの時を迎えるのです。僕を助けてくれたあなたは復活して欲しい。あなたも僕たちと共に教えに従って清く生きていきましょう」

「寝言は寝て言いなさい!」

 ローズはジェリクにダガーを突き出して近寄らないように脅した。ジェリクは拒絶されることに慣れた様子で冷静に後ずさった。

 そうか、街中で棒で叩かれていたのはもしかしたら今と同じような感じで…。

「フフフ…」

 エンファはやり取りを眺めて楽しそうに笑った。

「皆、彼らは魔族の敵よ。予言の成就を邪魔する悪魔。殺しなさい」

 人々は戸惑いながらも「早く!」というエンファの発破でローズたちに襲い掛かった。

「ジン、レイ、そいつらを足止めなさい。あいつは私がやる!」

「お嬢様…はい!」

 ローズは机の上を跳ねて人々を飛び越えてエンファの前に立ち、ジンとレイは素手で襲い掛かる人々を掴んで投げてローズの後ろ側に回り、ローズへと近寄せなかった。

 エンファは剣を出してローズめがけて振り下ろした。ローズイは剣を避けて下からダガーで両腕を斬りつけ、肘で鳩尾を突き、後ろへ押し飛ばし、よろけた足を斬りつけた。エンファは後ろの机へ倒れこんだ。

「ゲホッ…早すぎて全然見えない…」

 エンファは自嘲気味に、しかし余裕の態度でのんびりと構えた。

「腱は斬ったはず…」

「私は魔公爵ほどじゃないけど、そこらの魔族よりかは強い力を得ているんだよね。魔王様から与えられる力を溜められる器が普通よりは大きいってわけ、魔公爵には及ばないけど。私にはそんな浅い斬撃効かない」

 成程。余裕の態度で喋ることでプレッシャーを与えているわけね。ついでに深く斬りつけさせて刃を止めようという誘導。本質は高い回復力。

 ローズは距離を詰め、ダガーの間合いで優位を保ちつつ、エンファの腕を斬りつけ、剣を手放させた。そして心臓にダガーを突き刺した。

「残念、そこは一番効きがいい」

 エンファはローズに手刀の突きをして勝利を確信した。

 直後、電撃で手は弾かれ、ローズはダガーを手放して後ろに下がり、回復魔法をかけた。心臓は自身の高速回復とローズの回復魔法が重なり、過剰な回復で暴走して破裂し、エンファは死亡した。

「魔族は倒れた。あなたたちの野望は終わりよ」

 ローズはダガーを回収し、戦意を喪失した人々を横目に、ジンとレイを連れて教会を出た。

 その後、街の外に出て人気のない場所で魔導具で家を出して通信を行い、教会の調査にギルド員の派遣を指示した。そしてそこに泊った。

 結局、この魔導具を使うことになったか。何度も使えないから取っておきたかったが仕方ない…。


 時は遡りローズたちが宿屋を出る際のこと。

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 宿屋の一室で宿泊客たちが話していた。

「今更だがレイネ様を取り戻すといっても本当に咬魔公が連れてったのか?興味あるように見えないが…」

「あの美女ともなれば話は別なんだろう」

「そういうもんかなあ」

「あの家よりも居心地が良かったりして」

「言葉を慎め。お前は雇われの身だぞ」

「はいはい、気を付けますよ」

「魔物退治ギルドに声をかけたほうが良くないか?」

「だめです。雇用主は情報が漏れないように個人で活動するあなたたちに声をかけたのです。前に説明したでしょう」

「びびってんのか?」

「そんなわけないだろ。第一陣と違って俺たちは精鋭。負けるわけがない」

「さあ、レイネ様を奪還するのだ!」

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