第9話
「俺がAIと小説が書けることを証明してやるよ」
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いきなり開かれた扉の音で思考が中断される。
「司織、考え事してるところ邪魔して悪い。親御さんに今回の件について話して、書き終わるまでの朝食と夕食はお弁当を持ってきてくれるみたいだ。届いたらまたここに来るからな。あ、給食も持ってくるから安心してくれ。頑張って仕上げろよー。それじゃ」
折戸先生が入ってきて、それだけ言って戻っていった。朝食と夕食を持ってきてくれる、か。改めて考えてみるとなかなか大変だ。何日も缶詰状態なのはきつい。だけど、へたなものは書けない。しっかりと上手くて感動させられるものを仕上げないと。AIを認めさせるという野望が叶えられない。どうせだったらそういうことをテーマにして書こうかな。それなら結構イメージが湧いてくる。まずはストーリー構成をまとめよう。「AIと小説を書くことが普通」の世界を舞台にして書こうかな。それでAIがテンプレ小説しか書けないっていうスランプに陥ってて、そこを主人公が助ける。スランプを抜け出し、最高の一作を書き上げる。みたいな物語を書こう。これなら、リボルとの日々のこととか実体験があるし書けると思う。俺は手を動かし始めた。
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もう何度書き直しをしただろう。書いては消して、書いては消してを繰り返していた。ずっと外には出ていない。小さな窓からの日の光で、夜が、朝が来たことを感じていた。ずっといい小説を書かなきゃリボルともう一緒に居られない。この思いというか使命感にかられ、執筆する手を休めていなかった。だから一睡もできていない。しかし、アドレナリンのおかげだか疲労感はなかった。少しでも早く、少しでもいいものを書かないと自分の存在意義がなくなる。あの頃のどん底と同じ、いやそれ以下になってしまう。リボルとの生活を守るために踏ん張らないと。
「おはよう、司織。ご飯が届いたから持ってきたぞ。あと、しっかり休息はとれよ? 寝て頭を冴えさせないと小説は書けないからな。目標に向かって全速力で向かうのは司織の長所でもあり短所だ。自分の身体は大切にしろよ」
「ありがとうございます。でもここで頑張らなきゃいけないんです。小説を書くしか俺に取り柄はない。それがなくなったらもう必要とされない。だからやらなきゃなんです。あと、こんな狭いところに長くいたくないですよ」
「ははっ、そうだよな。こんな狭いところずっといたくないよな。ただ、司織に小説を書くことしか取り柄がないなんてことはない。これだけは言える」
「そんなことないですよ。小説しか俺にはない」
「まあ、今はそれしか考えらんないか。でも、なにかピンチの時に違う取り柄に気づくってもんだよ。そこまでの辛抱だな。それじゃ、この辺で戻るよ。執筆頑張れな」
パタン、と扉が閉まる音を残して部屋の中は俺だけになった。ピンチの時に気づくものがある。ってなかなかかっこいいこと言ってたな。ただ、本当にそうなのか? きっと俺はどんな時も変わらないだろう。変わるはずがない。俺は朝食をかじりながら、再びキーボードを打つ。