第5話
ロボットを直せる場所、この町の人間が作業する唯一の工房。そこの扉の前に俺は来た。小さい頃、よくここに遊びに来たものだ。ここに久々なので、扉を開けるのが少し億劫である。だけどここしか頼れるところはない。心を決めて扉を開ける。
「いらっしゃ、って司織じゃないか。久しぶりだなあ。その辺にでも座ってゆっくりしていってくれ」
おっちゃんは嬉しそうな顔で俺のことを招き入れた。俺はおっちゃんが名前を覚えてくれていたことに感動していた。もう何年も前のこと。それに今の俺の小説の評価のフィルターを通さずに見てくれる少ない人だった。目頭が少し熱くなるのを感じた。
「気になったんだが、その背負ってるのはなんだい? 壊れたロボットかい?」
「うん。あそこの集積所で見つけたんだ。さっきまで電源が点いていたからまだ治ると思う。だがら直してほしい」
「あそこの集積所で、ねえ。電源が残ってるものなんて珍しい。まあ、司織の頼みだ。直そうじゃないか。ほら、ちょっと渡してくれい」
おっちゃんに言われて、背負っていたやつを渡す。おっちゃんは、「そこに座って待っていてくれ」と言い残して、奥に行ってしまった。果たして直るだろうか。でも、ここのおっちゃんの腕は確かだ。大丈夫なはず。
外が暗くなった頃、おっちゃんが戻ってきた。
「いやあ、なんとか直ったよ。ただ、これはだいぶ中のAIが古いな。よくこの時代まで残っていたよ」
「古いっていうのは?」
「このAIはクリエイトに関することに制限がかけられてないんだ。本当なら政府に引き渡さなきゃなんだが、どうする」
「どうするって、渡すしかないんじゃ」
「司織、なんか悩みがあるんだろう。きっと小説とかについてだろう。わしはそういうのよく知らんが難しいのだろう? もしこいつで悩みが解消されると言うなら、司織が引き取ればいい」
おっちゃんはよく俺のことを見てるな。悩んでることを見抜いて、解決しようとしてくれている。だけど
「制限がかかっていないAIを引き渡したことがバレたら、おっちゃんの身が危ないよ」
「そんなことか。どうせもう後先短いんだ。若者の、それも司織の役に立てるっていうなら本望よ。わしのことは気にしなくていい」
こいつを引き取れば、もしかしたら道が切り開くかもしれない。だったら
「おっちゃん。こいつを引き取るよ」
「おお、そうか。大事にしろよ」
おっちゃんは俺の背中を優しく叩いて言った。俺は歩けるようになったこいつと一緒に扉を開けて、帰路についた。もう雨は上がって、頭上には星が輝いている。