第4話
ああ、何もアイデアが思いつかない。窓が一つしかない白い部屋。パソコンに向かって頭を悩ませ続ける。ずっとリボルに大まかなストーリーを作ってもらっていたから話が作れない。あのスランプに堕ちいっていた頃が思い出される。
*
三年前、ある小説の賞を受賞して少しした後。俺は何も作品を書けずにいた。ストーリーが何も浮かんでこないのだ。期限がもう無いのに一文字も書けていない。そんなことが一回だけでなく、何回もだ。
一回目書けなかったときは
「小説はそんなすぐに書けるもんじゃないもんね。ゆっくり書いていいよ」
まだ温かい言葉をもらった。だけど、同じことが続くうちに冷たいものに変わっていった。
「あのさあ、いくら何でも待てないよ。こっちも商売なの。天才少年だと思っていたのにがっかりだよ」
その言葉は編集者からだけではない。いつしかネットでも誹謗中傷が絶えなくなっていた。
”天才少年ともてはやされた奴の落ちよう無様すぎる”
”書けないんだったら小説家辞めろよ”
誹謗中傷の言葉を見るたび、心がずたずたに切り裂かれていくのを感じた。書かなければ。そうしなければ一生落ちぶれたままだ。そして、なんとか書いた一作。だが、それについた評価は称賛のものではなく、批判の声だった。
”出したと思ったらつまんない作品だった”
”自分の天才という評価を過信しすぎ。才能ない”
かっこいい、を探し求めた少年の話。渾身の一作だったつもりが、最低の一作だったようだ。だけど、書かなくては。この世間からの評価を失った自分に何が残っているというのだろう。編集者をなんとか説得して、あと一作だけ出せることになった。もう後は無い。崖っぷちの気持ちをよく感じた。
締切まで一週間前の雨の強い日だった。チャンスをもらったところで、ペンが進むわけではない。頭を冷やすために散歩に出ることにした。どこに行く当てもななく適当に彷徨う。『機械ゴミ集積所』この看板が目に留まった。確か、役に立たなくなったロボットがここに捨てられる。
「ゴミか。俺も同じようなもんだよな」
ぽつり、口から零れた。何か自分と同じものを見つけたかったのかもしれない。俺はその集積所に侵入した。
雨だからか、外に人の影、いやロボットの影はない。機械の残骸の山の横を通っていく。奥まで着いた時、山の中に発光しているものを見つけた。恐る恐る近づくと、ただ捨てられたロボットにまだ電源が残っているだけだった。それだけだったらそのまま見捨てただろう。そのロボットは
「助けて」
確かにその声が聞こえた。ああ、ほんと俺とおんなじなんだ。誰からも見向きもされない、いらないものとして見られる。そこに確かな動きというのはあるのに。だからだ。俺は居てもたってもいられなくなり、そいつを山の中から助け出した。
「ア、アリガ、トゴザイ、マス」
今にも壊れそうな声がスピーカーから流れた。
「デモ、ナ、ナゼタスケテ」
「そんなの決まってるだろ。助けを求めたやつには、黙って手を差し伸べる。それがかっこいい男ってもんだ」
前書いた小説の主人公のセリフ。無意識にそれが口から出ていた。そいつは電池が本当にわずかだったのだろう。電源が切れて動かなくなった。このまま放置して帰るなんてできない。少し、いや、だいぶこいつに感情移入しちまった。見捨てることなんて絶対無理だ。でも、こんな壊れてしまっているロボットをどこに連れて行けばいいだろうか。
……いや、一つだけあてがある。そこにとりあえず行ってみよう。そいつを背負って、雨の弱まる気のしない空の下。今度はある場所を目指して歩き始める。