第3話
あっという間に昼休みになってしまった。話って何だろう。怒られるのかなー。いや、なんかの賞に入ったみたいな話かも。それだったらいいな。廊下を歩きながらそんなことを考えていると、職員実まで着いた。礼をして職員室に入り、先生のところまで行く。
「折戸先生、朝言っていた話で来ました」
「おお司織か。話なんだが、ここでするのもなんだから隣の部屋で話そう」
先生は立ち上がって職員室を出ていく。俺もそのあとに続いた。
「ここなら他の先生の目も無いし、大丈夫だな。ってそんなに身構えなくても」
「いやだって。そんなこと言われたら誰だって怖いでしょう」
「まあ、そうだな。怖いことじゃない、と言いたいところだが微妙なラインの話なんだ。別に司織のことを責めたいわけじゃないからな」
先生はそう言い、長いため息を吐きながら椅子に座った。俺もそれに倣って座る。
「微妙なラインって。それで何についてなんですか」
「司織の小説についてだよ。司織の小説はもちろん検閲にも読まれている。その中でAIを利用して小説を書いているんじゃないかという疑惑が出てきた。それでうちの学校に検閲庁から事実の確認をしろ、とのお達しが出たんだ」
AIの利用。リボルの姿が俺の脳裏によぎる。
「ちょっと待ってください。俺はAIなんて使っていません! そもそも執筆とかに関することは制限かかってできないようになっているじゃないですか!」
「もちろん使ってないと信じたい。司織もこの法を破ったらどうなるか、よく知っているよな?」
「ええと確か、利用されたAIのデータの完全破壊、そして利用者は無期懲役もしくは死刑、でしたよね」
何度も学校で言われてきたこと。AIを執筆などの作業に関わらせることとはどれだけ重罪なのかは全員が知っている。
「司織は機械系のことはわからないはずだし、AIの制限を外すことは高度な技術が必要だ。だからこれはたまたま引っかかってしまっただけだと思う」
「よかった。なら大丈夫なんですか」
先生の言葉で一気に安堵した。これならばれずに済みそうだ。
「ただ、検閲庁から一つの課題が出された。それをクリアすれば大丈夫とのことだ。司織はAIを使っていないと言っているし、難なくこなせると思う」
「課題って」
「二万字以上の小説を書くことだ」
「二万字ですか。それなら一週間以内くらいで書き終わりますね」
「司織なら全然できることだと思う。ただその小説が書き終わるまで一歩も学校を出られないんだ」
「出られない!?」
今回のもリボルに手伝ってもらって、ぱぱっと終わらせよう、だなんて考えていたから、思わず大きな声が出てしまった。
「仮にAIを使っているなら、家に帰って書いたらAIが使えてしまうからな。そのための保険といったところだろう。まあ司織はいつも通りに書けばいいだけだから安心していいぞ。授業は特別免除になるから大丈夫だ」
「わ、かりました。それはいつからですか」
「今日からだ。パソコンは学校のがあるから問題はないよな。なにか他に必要なものがあるなら言ってくれ」
「必要なものはないですけど、どの部屋で書けばいいんですか」
「ああそうだな、……この部屋で書いてくれないか。気分転換で外に出たかったら言ってくれれば大丈夫だから」
「はい。わかりました」
リボル無しで小説を書くのはいつ以来だろう。出会ってからは無かったはず。